第238話 シュレア屋敷4
月曜に食料庫用の資材をシュレア屋敷に運搬をしたあと火曜から金曜まで4日間学校に通った。
その間のクラスの話題は来週の期末試験が中心だ。
俺はいつも通り特別な勉強はしていないが今回の期末試験も問題ないだろう。
金曜の学校が終わってうちに帰り、部屋に戻ったらフィオナがいない代わりにスマホにメールが入っていた。
見るとダンジョン庁の河村さんからだった。
メールの内容は、
20リットル入りのポリ容器を5個専用個室に用意しているので『治癒の水』を100リットル用意してほしいというものだった。
忘れないうちにと思った俺は普段着に着替えて冒険者証を首に下げタマちゃんにスポーツバッグに入ってもらった。
「母さん、ちょっと出かけてくる。すぐに帰るから」
『いってらっしゃい』
玄関先に出てそこから専用個室に転移したらメールに書いてあった通り20リットル入りの空ポリタンクが5つ並べてあった。
そのポリタンクの上にはメールと同じ内容が印刷された紙が1枚置いてあった。
スポーツバッグの中のタマちゃんを連れて半地下要塞前に転移した。
そこに置いていたバケツと漏斗を手にして池の桟橋まで歩いて行き、そこでタマちゃんからポリタンクを全部出してもらってバケツと漏斗を使って順に池の水をバケツに汲んで入れていった。
売り物なので、汲み終わった後、タマちゃんに鑑定指輪を出してもらい鑑定したところ5つのポリタンクは5つとも治癒の水の入ったポリタンクと鑑定された。
これで一安心。
タマちゃんにポリタンクを全部収納してもらい、指輪も預けて専用個室に転移した。
バケツと
専用個室に転移してタマちゃんにポリタンクを出してもらって作業終了。
10分もかからず10億円ゲットだ。
たしか1億円の壁とか言ってDランクになったのが去年の9月末だったから、あれからまだ10カ月も経っていない。
自分が怖い。
専用個室のカードリーダーに順に冒険者証をかざして俺はうちの玄関前に転移した。
「ただいまー」
『お帰りなさい。ずいぶん早かったのね』
「大した用じゃなかったし」
『ふーん』
大した用じゃなかったのは確かだけれど、ちょっと出かけてきて10億円だものな。
部屋に戻った俺はスポーツバッグを置いてダンジョン庁の河村さんに『『治癒の水』100リットルを専用個室に用意しました』と、メールしておいた。
そしたら1分も経たないうちに『ありがとうございます』と返信があった。
俺がメールしている間にタマちゃんはスポーツバッグから這い出して自分の段ボールのおうちで四角く伸びてまったりしていた。
フィオナは部屋に戻ってきていて自分のふかふかタオルの上で目をつむっていた。よほど疲れているように見える。今日の特訓はハードだったようだ。
それでもフィオナの顔は穏やかなので母さんと楽しく特訓したのだろう。
その日の夜。
試験前でもあるし教科書でも見ておこうかなどと思ってフィオナ先生の家庭教師のもと教科書のページをめくっていたら結菜から電話があった。
『一郎、うちのお父さんのことだけど』
「なに、調子悪くなった?」
『その逆。再検査してもらった結果が分かったの。ガンがなくなってたみたい。
それで病院の方が驚いて来週また検査することになっちゃった。
とにかくうちのお父さん見た目通り元気だから大丈夫。一郎ほんとにありがとう』
「それはよかった」
『次の検査で異常がないことが確認されたらうちから正式にお礼に行くと思うから』
「いや。そこまでしなくていいから」
『そんなことできるわけないでしょ。それじゃあ』
俺にとっちゃそんなことしてくれない方が有難いんだよ。
仕方ないけど。
『
100リットルを10億円、1リットル当たり1千万円で買い取ってもらっている以上販売価格は1リットル2千万円するかもしれない。
俺が結菜にあげた2リットルがソレだと分かったら結菜のおじさん、おばさん驚くだろーなー。
200シーシーお茶飲んで400万円だ。400万円と言えばちょっとした自動車の値段だ。
こっちは驚くだけじゃなくって腰抜かすかも?
俺がいる時腰抜かす分には万能ポーションもあるから問題ないけど。
そして週末の土曜日。
今日はミアたちの引っ越し予定日だ。
まずは生活するに足る物品を新館からシュレア屋敷に運ぶことから始まる。
とはいえ、まずは朝食だ。
こっちで朝食を食べるようになってからおむすび、サンドイッチ、調理パンの三種の神器がほとんど減っていない。先週万能ポーションで助けた女の子に上げた分くらいだ。
いつ何が起こるか分からないので、予備食料はあるに越したことはないが、一般冒険者の場合運ぶ手間を考えて予備食料はそれほど運べないのだがタマちゃんがいる限り問題ない。タマちゃんさまさまだ。
「おはようアイン」
「おはようございます。
シュレアに運ぶ当面の荷物はマスターの書斎の前の廊下に並べています」
「ご苦労さん」
「食事の準備もできています」
アインは部屋に残ると言っていたので俺だけ食堂に向かった。
「「いただきます」」「ふぉふぉふぉーふゅ」
今日の朝食は塩鮭風焼きマスと焼きナスそれに焼きシイタケ。焼きナスにはチューブものではない卸しショウガが添えられ鰹節がかかっていた。
温泉玉子に千切り大根のお浸し、豆腐の味噌汁にイクラが大量にのっかった大根おろし。そして熱々の白飯だった。
もう何も言うまい。
「「ごちそうさまでした」」「ふぉふぃふぉーふぁ」
特訓の成果が現れていないのか現れているのか微妙なところだ。
フィオナが言葉を話せるようになるにはレベルアップを目指した方が早そうだが、母さんとフィオナの特訓が決して無駄になることはないと信じたい。
食後は緑茶にヨウカンだった。おいしかったですよ。
ハチミツで汚れたフィオナの顔と両手をおしぼりで拭いてやりミアと連れ立って食堂を出た。
「ミア、準備ができたらソフィアとカリンとレンカを連れて俺の書斎まで来てくれ」
書斎の前にかなりの荷物が並べられていたのだが、今はすっかり片付いていた。
「タマちゃんさんが収納しました」と廊下に出ていたアインが教えてくれた。
「そうか。さすがはタマちゃんだな。
そうそう、アインはシュレア屋敷に連れて行く料理人の自動人形を連れてきてくれ」
「今書斎にいます」
「さすがはアインだ。みんな有能で助かる」
「いえ」
書斎に入ると白い服を着た女性型自動人形が立っていた。
「やあ」
「おはようございます、マスター」
「きみの名まえは何ていうんだっけ?」
「名まえはありません」
「ふー。困ったな。
16号は慣れているから16号のままでもいいけれどなにか名まえがあった方がいいよな」
ドイツ語で2、3までなら分かるけど、ツバイやドライってつけるとアインの次にエラそうだし、かといってドイツ語で4以降知らないし。
そうだ、せっかくタマちゃんが話せるようになったんだからタマちゃんの意見を聞いてみるのも良さそうだ。
「タマちゃん、シュレア屋敷の料理を担当するこの自動人形に名まえを付けたいんだけれどいい名まえはないかな?」
「白い色の服が似合っているのでシラユリはどうでしょう?」
「ちょっと料理人のイメージじゃないなー」
「それでしたら安直に白い料理人ホワイトシェフはどうですか?」
「だいぶいい線いっているけどもう一歩ってところだ」
「では、英語からドイツ語に代えてヴァイセケッヒンはどうでしょう?」
俺の知らないドイツ語を何でタマちゃんが知ってるんだ!? こっちも何でもありだな。
「ちょっと長いな」
「それでしたらただ白いという意味だけのヴァイスはどうでしょう」
「ヴァイス。うん。呼びやすい。
お前の名は『ヴァイス』だ」
「はい、マスター。ありがとうございます」
これでシュレア屋敷の料理人の名まえも決まった。
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