第237話 シュレア屋敷3、風呂場
アイパッチおじさんことハーブロイ氏の娘アキナちゃんが、俺が譲ってやった万能ポーションでおそらく全快した。
あとは食事をしっかりとっていけば、女の子らしい体を取り戻せるだろう。
金貨1000枚ももらっている以上いいことをした。とまでは言えないかもしれないが、ひとりの女の子が救われたわけだからやっぱりいいことをしたと思っていいだろう。
シュレア屋敷に帰った俺は通訳として連れて行った警備員Aを解放して本来の警備の仕事に戻してやり、屋敷に風呂場を作る改装工事の様子を見に行くことにした。
タマちゃんが資材を置いた場所まで歩いていったら、資材は浴室予定の部屋の中に運び入れられているようで廊下には何も残されていなかった。
部屋の扉を開けたところ、作業員たちが立ち働いていたのだが、内装は取り払われた上、正面の壁までも取り払われて裏庭が見えていた。
あれれ? 彼らに任せておけば問題ないのは分かっているのだがどうなっちゃうんだろう?
図面を見せてもらっておけばよかったが、今さらだしいいか。
作業員Aに作業はいつまでかかるのか聞いたところ、明日の18時には作業自体は終了し、風呂場の使用は明後日の昼以降可能になるそうだった。
照明の取り付けも明後日の昼までに終わるらしい。
「明後日の16時ごろみんなを迎えに来るから」
そう伝えておいた。
次の土日で家具類を揃えて、ミアたちの引っ越しはその後だ。
できれば向こうと同じような食糧庫も作りたいしな。
新館の書斎に転移したらちゃんとアインがテーブルの椅子に座っていた。
俺の椅子に座っていたら少し面白かったのだがさすがにそれはなかったようだ。
「アイン。さっそくで悪いんだけどシュレア屋敷にここと同じような食糧庫を置いた方がいいと思うんだが、準備できるかな」
「可能です。資材は明日の昼までには用意できます。浴室の作業が終わったら今シュレア屋敷にいる作業用自動人形たちに取り付けさせれば2時間ほどで使用可能になります」
「明後日の16時に連中を迎えに行くと言ってここに戻ってきたんだが、そのまま作業をさせるか。食料庫用の資材はいつものように部屋の前の廊下に並べておいてくれ。明後日の16時ころここにきて向こうに運ぶから」
「はい」
「早めに引越しした方がいいだろうから、ベッドとか当面の日用品そういったものもこっちで揃えておいてくれるかな。何が必要かはソフィアと相談すればいいと思う。
当面のものが揃ってしまえば向こうで買いそろえた方がいいしな」
「はい」
そんなところかな。
「そうそう、俺の果樹園から果物とかそういったものをそれなりの量摘んで引っ越し荷物に入れておいてくれ」
「了解しました。
マスター、ミアたちの引っ越しはいつ頃を考えていますか?」
「引っ越しは6日後をめどに考えてる」
「了解しました」
「それじゃあ。今日はちょっと早いけど、退散する」
「お疲れさまでした」
フィオナが肩に止まっていることを確かめて俺はうちの玄関前に転移した。
「ただいまー」
『お帰りー』
『お帰りなさい。今日はいつもよりちょっと早いのね』
「うん」
父さん、母さんの声と一緒にテレビの音も居間の方から聞こえてきている。
どうもふたりで仲良く時代劇を見てるみたいだ。
『仲良きことは美しき哉』
2日後の火曜日。
授業が終わり掃除当番でもなかった俺はうちに急いで戻って普段着に着替え、段ボール箱の中で四角くなっていたタマちゃんにスポーツバッグに移動してもらって新館に転移した。
フィオナは俺の頭の周りを飛んでフィフフィフ言っていたがお留守番だ。
これまで白銀のヘルメットを被っていたときもフィオナがフィフフィフ言っていたことがあったが、何も翻訳されなかった。
そこから考えると残念だがフィオナのフィフフィフは言葉ではない可能性が高い。
「マスター。食糧庫については、ソフィアと検討した結果シュレア屋敷の厨房に隣接する食糧置き場内に設置できるよう大きさを決め資材を用意しました。それと、シュレア屋敷の要所には風呂場同様井戸から水を送るよう配管した方がよいと思い、その資材も用意しています。こちらは寸法を測っていないため多めの資材になっています。食糧庫の設置作業が終われば井戸から要所へ配管するよう作業用自動人形に指示してください」
「了解」
厨房の水のことも全然気にしてなかった。風呂場並みになるなら蛇口をひねれば水が出るのだろう。
さっそくタマちゃんに廊下に並べられた資材を収納してもらってシュレア屋敷に転移した。
シュレア屋敷では、4人の作業員たちが玄関ホールで集合していたが、食糧庫の設置と井戸から水を送る配管をしてもらいたいので資材を運んできたと告げた。
「食糧庫の設置場所はどこにしましょうか?」
「厨房の脇が食糧置き場だからそこに設置してくれ。そこに置ける寸法だそうだ」
「了解しました」
「これから食料置き場の前に資材を置いてくる」
「はい」
「配管の資材はどこに置けばいい?」
「それも厨房の床に置いてください」
「了解」
作業員たちを引き連れて厨房に行き、厨房内にある食糧置き場の扉を開けてみた。
今改めて見ると結構広い。いいけど。
「タマちゃん。この扉の近くで出入りを邪魔しないようにさっき収納した資材を置いてくれ」
「はい」
タマちゃんは食糧置き場の前に資材を並べて置いていった。あっという間に資材が並べられた。
そのあと、配管用資材を並べていった。
「風呂場を作った時の廃材なんかはどうなっている?」
「裏庭にまとめて置いています」
「そうか。わかった。そいつは持って帰ろう。
後は任せた」
「はい」
俺は厨房から裏庭に出る扉を開けて外に出たら、確かに廃材などが積まれていた。
それはよかったのだが、風呂場予定個所が屋根付きで中庭方向に伸ばされていた。壁を取っ払ったのはこのためだったらしい。やることが大胆だな。
風呂場の内側は後で確認するとして、まずは廃材の回収だ。
タマちゃんにお願いしてすっかり収納してしまったのだが、ゴミはゴミなのでわざわざ新館に持って帰っても仕方ない。
どこか適当な場所に捨ててきてやろう。
そういえばダンジョン内にゴミを投棄してはいけないとは免許の講習の時習っていないから問題ないだろう。
何にせよそのうちダンジョンに吸い込まれてしまうだろうからノープロブレム。のはず。犯人が分かるわけないし。
ということで俺は25階層の坑道に転移した。そこでタマちゃんにさっきの廃材を出してもらって合法?投棄してやった。
ちょっとだけ心は痛むが、25階層に誰か来るとなると早くとも数カ月先のことだろう。有機物の吸収はかなり速いが、数カ月もあれば無機物も吸収されるに違いない。
そう思ったらちょっとだけ傷んでいたはずの俺の心の痛みがずいぶん和らいだ。
世の中そんなものだし、全ては気の持ちよう。
「主、今捨てた廃材ですがわたしが収納していれば何かの資材として加工できます」と、タマちゃんに言われてしまった。
「なら、悪いけど、収納しておいてくれるかい」
「はい」
ということで一度投棄した廃材をタマちゃんが廃材を再利用するため全部収納してくれた結果、俺の心はすっかり元気になってしまった。
すっかり元気になった俺はシュレア屋敷の風呂場を確かめるため風呂場の前に転移した。
扉を開けたら脱衣室で、その先は曇りガラスでできた壁?で仕切られていて、壁の真ん中がスライド式のガラス扉になっていた。
スライド扉を開けた先はタイル張りの浴室で、浴槽は5、6人が並んで入れる広さがあった。
ミアひとりしか風呂に入らないのだが、まっ、いいか。自動人形たちも防水だか耐水仕様だろうから、汚れたら風呂に入ってもいいわけだし。
浴槽の端にかなり大きな蛇口が取り付けられている。これだけ大きな蛇口だとここの浴槽でもそんなに時間がかからず湯が溜まりそうだ。
洗い場の正面には鏡が貼られ、蛇口と固定式のシャワーが3組取り付けられていた。
蛇口関係はうちの風呂の方がモダーンだが、これはこれで趣がある。
湯はどうやって沸かすのか知らないが、謎エネルギーで稼働する給湯器が取り付けられているのだろう。
風呂場を確認した俺は一度新館の書斎に転移して資材を置いてきたことと風呂場の出来を確認してきたとアインに伝え、うちに転移した。
夏休みに入ったらダンジョンで泊りがけツアーをすることもあるだろうから、その時はシュレア屋敷の風呂を使わせてもらってもいいかもしれない。
ツアー以外でお風呂の匂いをさせてうちに帰ったら母さんがあらぬ想像をしそうなのでツアー限定だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌日の正午。ダンジョン管理庁のホームページに6月末時点のランク別年齢別人数表が掲載された。
19歳の欄に1名。22歳に2名、23歳に2名のSランク冒険者が新たに表示された。
[あとがき]
新たな5名のSランク冒険者はご想像の通りです。
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