第230話 屋敷
ミアを通わせようと思っているラザフォート学院の近くの屋敷を買うことにした。
ラザフォート学院自体をまだ見ないうちに決めてしまったのだが、問題ないはずだ。
もし問題があるようならすごく困るのだが、問題ないよな。ちょっと心配になってきた。
屋敷の戸締りをしたうえで俺たちはフォーレットさんと馬車に揺られて商業ギルドに戻っていった。
再度さっきの応接室に通された。そこで金貨100枚、金貨25枚の筒4つをリュックの中のタマちゃんから受け取ってテーブルの上に置いた。
フォーレットさんは書類などを持ってくると一度席を外していたのだがすぐに戻ってきた。
「金貨100枚です。確かめてください」
フォーレットさんは金貨の紙筒を破って中の金貨を持ってきたお盆の上に数えながら積んでいった。
「王国金貨100枚確かに。
これが仮契約書になります。こちらとこちらにサインお願いします」
俺はもちろんこの国の文字など書けないのでソフィアがフォーレットさんが持ってきた付けペンを使ってサインした。なんて書いてあるのか分からないが、フォーレットさんが何も言わないところを見ると何も問題ないのだろう。
フォーレットさんが仮契約書の1部を渡してくれたのでリュックの中に入れてタマちゃんに預けておいた。
「受け渡しは、5日後以降となります」
来週は確か土曜は学校だ。昼からでもいいがここは余裕を見て日曜日にしよう。
「ソフィア、7日後の9時と伝えてくれ」
「はい。
7日後の9時でいいですか?」
「はい。7日後の9時にこちらにお越しください。残金と交換で鍵と書類をお渡しします」
ラザフォート学院にこれから行ってパンフレットを貰ってくればたいていのことは分かるだろう。その前に冒険者ギルドに行くか?
いや待て、ここであの大金貨が金貨150枚で売れるなら売ってしまおう。20枚売れば金貨3000枚だ。
「珍しい金貨を持っているんですが商業ギルドでは買い取りとかやっていますか?」
「はい。やっています」
「それはありがたい」
リュックの中のタマちゃんからあの大金貨を1枚出してもらった。
「これなんですが、いくらで引き取っていただけますか?」
「係の者を呼んできますので少々お待ちください」
5分ほど座って待っていたらフォーレットさんが初老のおじさんを連れて戻ってきた。冒険者ギルドで鑑定してくれた鑑定士のおじさんとどことなく似ているような気がしないでもない。
「1級鑑定士のホイマンさんです」
フォーレットさんがその後簡単に俺のヘルメットと通訳のことをホイマンさんに説明してくれた。
確かダンジョンギルドの鑑定士のおじさんもホイマンさんだったような?
目の前のホイマンさんとダンジョンギルドのホイマンさん、顔もそっくりに見えてきた。
「ダンジョンギルドで鑑定士のホイマンさんに会ったことがあるんですが」
ソフィアに通訳してもらったところ、
「あれは、わたしの弟になります」と返ってきた。
やっぱりそうだったか。どうでもいいことかもしれないがこれがコミュニケーションというものだろう。通訳を介している以上コミュ力50パーセント減の現状大切なことだ。
「それで、鑑定するのはこの金貨ですな」
そう言ってホイマン兄が手袋をはめて大金貨を手に持ち裏表を確かめた。
「ほう。保存状態もよろしい。通常ベズレ大金貨は王国金貨150枚で買い取らせていただいていますが、ギルドの買値とすると160枚の価値がありますな。
王国金貨160枚でお売りになりますか?」
「全部で20枚あるんですが、それも買い取っていただけますか?」と、通訳してもらった。
「傷などを見て価格は前後しますが、もちろん買い取らせていただきます」
俺はリュックのタマちゃんから5枚ずつ大金貨を渡してもらってホイマン兄の前に並べていき最後に4枚大金貨を並べた。
1枚1枚ホイマン兄が丁寧に裏表を確かめて、
「どれも見事なベズレ大金貨です。ベズレ大金貨20枚、王国金貨3200枚で引き取りましょう」
「その中から、今回の残金800枚を引いてもらいますか?」
ソフィアが俺の言った言葉を通訳して伝えたのだが、ホイマン兄は最初意味が分からなかったようだ。すぐにフォーレットさんが簡単に説明をしたので理解できたようだ。
「分かりました。
それじゃあフォーレットさん、経理に行って王国金貨800枚の預かり証と王国金貨2400枚を用意してください」
「2400枚は現金で?」
「現金で」
フォーレットさんはすぐに立ち上がって部屋を出て行った。
ホイマン兄がフォーレットさんに指示を出した。ホイマン兄はここでお偉いさんのようだ。
ダンジョンギルドのホイマンさんはそんなに偉そうには見えなかったがお偉いさんだったかもしれない。
「そのヘルメットといい、ベズレ大金貨といい、これほど物をお持ちということは他にもお持ちではありませんかな?」
ホイマン兄が上目遣いで俺を見つめる。
「持っていないわけではありませんが、お金が必要になった時買い取りお願いします」
「ハハッハ。
2カ月ほど前だったか弟が異国のダンジョンワーカーがベズレ大金貨と珍しいゴブレットをダンジョンギルドに持ち込んできたと言っておりました。
その節はよろしくお願いします」
顧客情報を勝手にばらされたわけだが、特に困ることもないから別にいいだろう。
そういった話をしていたら、フォーレットさんが台車の上に金貨の山をのっけて戻ってきた。
「王国金貨25枚の筒が96個。2400枚です。そして、こちらが王国金貨800枚の預かり証書になりますので、屋敷の受け渡し時にお出しください」
金貨2400枚の見た目はそれほどでもないのだが、1枚20グラムとしても全部で50キロ近くになる。
最初に預かり証をリュックの中のタマちゃんに預け、その後金貨の筒をどんどんタマちゃんに預けていった。予想通りホイマン兄は目を細めて俺のリュックを見ていた。
50キロの金をリュックに無造作に入れているわけだし、見た目すごく変ですよねー。
帰る時リュックを重そうに持った方がいいのだろうか? 今さらだな。
「それでは7日後。よろしくお願いします」
俺は席を立ってリュックを軽々背負いソフィアを伴って部屋を出た。
すぐにフォーレットさんは俺たちに追いついてロビーホールの先まで見送ってくれた。
これでひとつ仕事が片付いた。次はラザフォート学院だ。
商業ギルドの建物を出た俺たちは大通りを少し歩いて横道に入り、そこでラザフォート学院の正門近くに転移した。
正門の横には守衛の詰所のようなものがあったのでそこでソフィアが来意を告げてくれた。
そうしたところ、詰所の中からおじさんがひとり出てきて事務室に案内してくれることになった。
親切だな。ここも生徒数不足で経営が厳しいのだろうか?
何棟かの学舎を抜けた先の建物まで案内され、玄関を入ったところの窓口でおじさんが中に向かって俺たちの用件を伝えてくれ、自分は帰っていった。
受付の中からはおばさんが現れて、事務室?の中に入るように言われた。
ここでは話を聞くだけで特に交渉することはないはずなので、ソフィアに任せても大丈夫と思う。
「ソフィア、入学要綱を聞いてくれ。入学させたいのは3名だからな。
それと俺はサイタマ国出身ということにしてくれ」
「はい」
おばさんの後に続いて部屋の中に入り、案内された応接セットにソフィアともどもおばさんの向かいに座った。
そこでソフィアが俺の異様な風体も含めて自己紹介して、用件を話してくれた。
「サイタマという国からいらっしゃったんですね。わたくしは寡聞にして存じ上げない国名です。
さっそくですが、編入のことについてご説明いたします。
まず、この学校は5年制の学校で入学、編入どちらについても年齢制限はありません。入学試験は年に1度。この場合1年生として入学します。
編入の場合も試験を受けていただき、そこでの成績を見て編入先の学年が決まります。編入試験は年に2度あります。次回の編入試験は9月5日です。今日の日付が6月30日ですから65日先になります」
「入学金、編入金はどちらも王国金貨20枚。1年間の授業料が王国金貨15枚になります。編入時に合計王国金貨35枚を支払っていただきます」
「分かりましたありがとうございます。
編入試験の手続きは今可能でしょうか?」
「はい」
ソフィアが3人分の編入試験の手続きをして、代金金貨3枚を俺が支払っておいた。
最後に3人分の受験票のようなものとパンフレットを貰った。
今の説明はもらったパンフレットに全部書いてあったようだ。俺には読めない言葉なので別にいいけど。
よーし、これで今日のミッションは成功裡に終わった。
事務室を出て校庭というのかキャンパスというのか知らないが、そこを正門に向かって歩きながら編入試験の日付について考えた。
編入試験は9月5日と言われたが、太陽暦の9月とこの国の9月が同じではないのでその辺をこの国の言語を習得する際、ミアの知識を受け継いでいるはずのソフィアに聞いてみた。
「この国でも館と同じく1年は360日で30日を1カ月としています」
なるほど。ますますこの世界と館のある世界が同じ世界である可能性が高まった。時刻もほとんど変わらないのでこの国と館の経度まで同じということになる。そして太陽のあるこの世界がダンジョンの中の世界ではない可能性が高まった。
それと、今日の日本日付は6月28日。7月が31日、8月が31日なので、編入試験のあるこの国の9月5日は
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