第229話 家
商業ギルドらしい建物の正面に立って建物を見上げたが不親切にも看板らしいものはかかっていなかった。
出入り口から商人っぽい一般人が出入りしているので、この建物が商業ギルドで間違いはないだろう。
ソフィアと一緒に建物に入っていったら、そこはかなり広いロビーで大理石か何かでできたロビーの床は磨き上げられていた。結構繁盛しているようだ。
そのロビーの真ん中あたりに受付嬢らしき女性がふたりカウンターの先で控えていた。
俺たち以外の人はそのままカウンターを素通りしてその先の窓口のようなところに向かっているので、受付嬢は俺たちのようなご新規さまのために控えているのだろう。
俺とソフィアはカウンターの前まで歩いていき、ラザフォード学院の近くで手ごろな家を買いたいと、用件を伝えた。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
俺たちはふたりのうちの若そうに見える受付嬢に連れられてホールの先にあった階段を上り2階にあった部屋に通された。
中にはソファーとテーブルの応接セットが置かれていたので、応接室だ。
「担当の者が参りますので、こちらでしばらくお待ちください」
受付嬢はそう言い残して部屋を出ていった。
俺はタマちゃん入りのリュックを足元に置いてソファーに座りソフィアは俺の隣に座った。ソファーはふかふかではなかったが革張りでテーブルは黒光りしていた。
かなりの高級品と見たが、俺の鑑定眼ではあてにはならないので実際は安物かもしれない。
何もすることもなく、ふたりしてソファーに座っていたら30歳くらいに見える女性が分厚い台帳を両手で抱えるようにして現れたので、俺とソフィアはソファーから立ち上がった。
「お待たせして申し訳ありませんでした。わたくしは当ギルドで土地建物を扱っていますドロシー・フォーレットと申します」
俺は名まえを名乗ったあと、人と会うのに失礼にも白銀のヘルメットをかぶったままだったのでこれについて理由を説明してわびておいた。もちろんソフィアに通訳してもらっている。
「そうでしたか。少し変わった方だと思っていました」
このフォーレットさん、歯に
この感じだと
「それでラザフォート学院の近くの物件ですね?」
「はい。よろしくお願いします」
俺が何も言わなくてもソフィアが答えてくれた。有能だな。
ソフィア、後はよきに計らってくれていいぞ。
「広さはどれくらいをお考えですか?」
「マスター、お願いします」
全部はさすがに任せられないか。
「子ども3人と大人がソフィアとあと護衛に2人くらいいた方がいいよな」
治安がお世辞にもいいとは言えないこの街だ、護衛は必要だろう。
人造人間でも護衛職ってあるか知らないがアインに言えば何とかなる。はず。
「大人3人と子ども3人で住める大きさでお願いします。子ども用の寝室は1つでもいいと思います」
「それでしたら、寝室5、居間、台所と食堂、納戸のついたこの物件はいかがでしょうか?
子どもの足でも学院の正門まで15分もかかりません」
フォーレットさんが持ってきた台帳をめくって家の見取り図を見せてくれた。
大きさ的には問題ないようだが、風呂がないのが気にかかる。
その前にトイレと水はどうなってるんだ?
そのことをソフィアに聞いてもらった。
「トイレと井戸は隣の家と共用になります」
それはちょっと遠慮したいな。
家の中には人間はひとりしかいないわけだから近所づきあいは極力したくない。
トイレと井戸が共用でない家はないかソフィアに聞いてもらった。
「それですと、かなり大きな物件になります。
たとえば、この屋敷になります。学院まではここも歩いて15分ほどになります」
寝室の数が10、その他もろもろも広くなった図面を見せてもらった。ここまで来るとお屋敷だな。
部屋の数はあまり多いと無駄だが、何かの役に立つこともあるだろう。
ただ、風呂場が見当たらない。
とはいえ、こういった世界で風呂が一般的なのかと言えば、大抵は一般的ではない。少なくとも庶民の手の届くものではないと考えていいだろう。
ミアを風呂には入れてやりたい。
屋敷を手に入れたら、改装してしまえば何とかなるか。
館から作業員と資材を運べば2日もあればなんとかなるだろう。
「この家はいくらくらいのものですか?」
「即金ですと王国金貨900枚になります」
高いのか安いのか見当もつかないが、そもそも金貨は900枚今手元にないんだよな。今タマちゃんに預かってもらっているのは確か金貨290枚ちょっとのハズ。290枚にまけてもらいたいところだが、お話にならないというか怒られるレベルだろう。
こういったものは定価で買っておくと、上客ということで商業ギルドが後々便宜を図ってくれる可能性がないではない。
いずれにせよ、あの大金貨なりドラゴンのお宝のなにがしかを冒険者ギルドで買い取ってもらえば代金については何とでもなる。今は実物を見てみないと。
「現地で見せていただくことができますか?」
「はい。馬車を正面玄関前に回しますので、玄関前で少しお待ちください」
俺はリュックを背負い、ソフィアと連れだってフォーレットさんの先導で部屋を出て商業ギルドの玄関に向かった。
フォーレットさんは俺たちと階段下で別れ台帳を抱えて奥の方に駆けて行った。
5分くらい商業ギルドの玄関前で待っていたら俺のいたあの世界でも見慣れた2頭立ての箱馬車がやってきて俺たちの前に止まった。
馬車の中からフォーレットさんが下りてきて、後ろの席にどうぞと言われたので俺とソフィアが先に乗り込んで後ろの席=前向きの席に座り、フォーレットさんはソフィアの向かいに座った。フォーレットさんの横の空いた席にはさっきの分厚い台帳が置いてあった。
俺たちが席に着いたところですぐに馬車は走り出した。
「現地はここから遠いんですか?」
「ラザフォート学院はシュレアの中心部から少し離れていますので、この馬車で20分ほどかかります」
あまり不便なところだとマズいが、学校があって付近に民家があるならそれほど不便な場所ではないだろう。
馬車が大通りを走り始めてすぐにそれなりに大きくて立派な建物が見えたがそれは市庁舎ということだった。
そして馬車に揺られながら街並みを眺めて20分。
「あそこに見える赤い塀がラザフォート学院になります」
レンガで出来た塀が続いて正門が見えてきた。塀の内側には木が植えられていて中の様子はほとんどわからなかった。
見えてきた正門も赤いレンガで出来ているので赤門だな。
由緒正しい学校に違いない。
開いた赤門からラザフォート学院の中の様子が見えたが立派な建物が何棟も立ち並び生徒らしき子どもたちが歩いていた。
生徒は大学生には見えないのだが、大学のような雰囲気があるようなないような。
馬車は赤レンガの角で大通りから赤レンガ沿いに曲がって小路入って行き、再度曲がってしばらく進んだところで止まった。
馬車の止まったところもお屋敷だし、周囲もみんなお屋敷だった。
「こちらの屋敷になります」
フォーレットさんが先に馬車を降り、俺とソフィアが続いた。
鉄格子でできた両開き門扉には鎖が巻かれ南京錠が取り付けられており、その南京錠をポケットから取り出したカギでフォーレットさんが外し、鎖をほどいた。
門扉から見える屋敷の前庭は草ぼうぼうだった。
これだと整備するのは一苦労だし、庭がこうだと中も推して知るべし。かもしれない。あまりひどいようだと別の物件にするしかないな。
俺とソフィアで人が通れるくらい門扉を押し開いてやった。
「ありがとうございます」
フォーレットさんを先頭に門の中に入っていき庭を横切って行った。
「わたくしどもが責任を持って庭なども手入れして引き渡しますからご安心ください」
良かった。
窓は鎧戸が締まっていてガラス窓かどうかはわからないけれどこれまでの建物にはどこも窓ガラスがはまっていたのでそこは心配ないだろう。
屋敷の玄関の扉はフォーレットさんが別のカギで開けた。
この扉も両開きで結構大きい。
扉を開けて屋敷の中に入ると、そこはかなり広い玄関ホールで、意外と傷んでもいなければ汚れてもおらず拭き掃除くらいで済みそうな感じだった。
そこから屋敷の中を一通り見て回ったのだが、玄関ホール同様傷んでもいなければ汚れてもいなかった。屋内はちゃんとメンテされていたようだ。そして窓には窓ガラスがはまっていて外側が鎧戸になっているだけだった。
最後に裏庭を見て回った。裏庭には井戸があり、覆いが掛けられ手押しポンプが付いていた。
試しに手押しポンプのハンドルを上下して見たらポンプから勢いよく水が噴き出してきた。
これなら問題ないだろう。
「ここに決めます。手続きはどうすればいいですか?」
「前金で王国金貨100枚お支払いいただき、仮契約書をお渡しします。受け渡し日、残りの代金王国金貨800枚と交換で屋敷のカギと本契約書をお渡しします。本契約書は土地の証書も兼ねています」
「そういえば税金とかはどうなりますか?」
「この土地ですと、土地の使用税が1年あたり王国金貨20枚かかります。初年度は購入代金に含まれていますので次年度お支払いください。お支払いは市庁舎の窓口になりますがわたくしどもも代行していますのでご利用ください」
とりあえずの100枚は即金で払える。よかった。
ミアたちが生活していく上で金貨2000枚分くらい工面すれば当面何とかなるだろう。
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