第225話 夢の遊園地2
うちを出る前ばたばたして少し遅れたので新館の食堂の入り口前に直接転移したところ、ミアはもう席についていた。
「ミア、おはよう。少し遅れた」
「イチロー、おはよう。たくさんまってない。だいじょうぶ」
俺は食堂に入ってタマちゃん入りのリュックを入り口の横に下ろして、席に着いた。
ほとんど間を置かず16号がワゴンを押して食堂に入ってきて料理を並べ始めた。
今日の朝食はマスだと思うが気持ちは塩じゃけ。厚焼き玉子にほうれん草とベーコンの炒めた物。千切り大根のお浸し。千切り大根のお浸しの中にはニンジンと油揚げが入っていた。
先週豆腐の味噌汁だったから油揚げの出現は必然だったな。
そして白飯と味噌汁。今日のみそ汁の具はシジミに似た貝だった。ダシが利いてうまい!
なぜかおむすびが3つ平皿の上にのっかていた。
「16号、これは?」
「タマちゃんさんの朝食です」
よく気が付くなー。
俺さっきいきなり現れてまだ3分経っていないんだけど?
まあいいけど。
「「いただきます」」
俺とミアの『いただきます』にタマちゃんの『いただきます』も交じってた。
そして、食堂の入り口の横に置いておいたリュックから3本の偽足が伸びてあっという間におむすび3個が消えてしまった。そしてリュックから「ごちそうさま」と声がした。
まあいいけど。
もちろん今日のミアは箸を使っている。見た目外国人の女の子が完全に箸を使いこなしているのがスゴイ。
今日の食後のデザートはコーン立てに刺さったコーンに載ったバニラアイスだった。
一体どうなってるんだ!? とは言わなかったが、濃厚なバニラアイスで、ものすごくおいしかった。
ひょっとしてミアは毎日こんなものを食べているのだろうか?
ちょっとうらやましいぞ。
食事を終えてフィオナの手と顔を拭いた俺は、タマちゃんの入ったリュックを背負ってミアを引き連れて食堂を出た。
階段を上って2階でミアと別れる時、
「出かける支度をして俺の書斎に来てくれ」と、言っておいた。
「わかった」
書斎に入ってリュックを下ろし10分ほど待っていたらミアと一緒にカリンとレンカがやってきた。
「「おはようございます、マスター」」
3人ともゴスロリ風お嬢さまだった。
「カリンとレンカもいっしょにいきたい」
カリンとレンカは食事できないからそこがネックなんだよなー。しかしそう言われると断れないなー。
ミアはそれなりに日に焼けているけどカリンとレンカの肌の色、特に顔の色は真っ白なのでまるでお人形だ。
ふたりとも自動人形だから人形でいいんだけど。
それと10歳くらいの女の子にマスターと呼ばれるのはちょっとマズいかもしれない。
何かの加減でおまわりさんに職務質問されたら3人の素性を説明のしようがない以上、とんでもないことになるからな。
「カリンとレンカ、今日だけでいいが、俺のことはマスターじゃなくてイチローと呼んでくれ」
「「了解しました。マスター、イチロー」」
ふたりとも分かってるんだよな?
俺はリュックを背負って3人に「転移するから3人とも俺の手を取ってくれ。大きな建物の近くに現れるからミアは驚かないようにな」
3人が俺の手を取ったところで代々木にあるトウキョウダンジョンセンターの近くに転移した。
ミアは目を見張って周囲を眺めている。
カリンとレンカはそういった人間らしい反応がない代わりに周囲を警戒していた。
周囲に人がいなかったわけではないが、誰も俺たちがいきなり現れたとは思っていないようで注目を集めては、……。
何だか注目を集めていた。
どうもミアたち3人と俺の右肩でフィギュアの真似をしているフィオナが注目を集めているようだ。それは仕方がない。
幸い俺たちに向かってスマホを向けている者はいなかった。
俺はミアとカリンと手をつなぎ、レンカはミアと手をつないでトウキョウダンジョンセンターの前から原宿駅に向かって歩いていった。2年参りの時秋ヶ瀬ウォリアーズの面々と手をつないだ時のことを思い出してしまった。
券売機で子ども3人と大人ひとり、舞浜までの切符を買った。
3人に切符を配り改札機への入れ方を教えてやった上で、カリン、レンカ、ミアの順に改札を通って最後に俺が改札を通った。
カリンとレンカが間違えず改札を抜けたのをミアも見ていたおかげで、思いがけない事故が起こることもなくすんなり改札を抜けられた。カリンとレンカを連れてきてよかった。
初めてだと何かと失敗する可能性があるが今のところオーライだ。
改札から少し歩いて階段を下り、ホームに立ったらちょうど電車が入ってきた。
ホームの扉が開いて、電車の扉が開き中から人が降りてきた。
降りてきたのはほとんど冒険者風の人だった。
俺は足元に気を付けるよう一言言って3人を引き連れて電車に乗った。行き先は東京駅。そこで乗り換えて舞浜だ。
日曜日の朝だったこともあり山手線は結構空いてはいたが座れるほどではなかったので、例のごとく4人で手を繋いで連結部の近くの広い場所で立っていた。
「ミア、乗り物に揺られていると気分が悪くなることがあるから、そうなったらすぐに教えてくれ。俺が治してやるから」
「わかった」
ミアは電車が東京駅に着くまで30分くらい立ってたが気分が悪くなることも立っていることが苦痛になることもなかったようで、窓に流れる景色やドアの上のモニターに映る映像を見て目を丸めていた。
東京駅に到着し、3人を引率して電車を降りホームの掲示板に従って乗り換えホームに移動した。これが隣の駅まで歩いていってるのではないかと思うほど距離があった。
10分少々かかって乗り換えのホームに到着した。歩いている時もきれいに清掃された地下道もミアにとっては珍しかったようでキョロキョロしていたが、疲れた感じではなかった。もし疲れたように見えたら俺がスタミナの魔術ですぐに元気にしてやるけどな。
もちろんカリンとレンカに疲れた感じは全く見えなかった
やってきた折り返しの電車に乗ったところ、もちろん座れなかったが、今日の目当ての遊園地についてミアに話しておいた。
「たのしそー」
そうだろう。そうだろう。あそこはこれくらいの子どもにとって夢の国だものな。
15分ちょっと電車に乗って舞浜駅で降り、改札も手慣れたものですんなり抜けられた。
俺は安心して3人を引率して遊園地に向かった。
遊園地に向かう人の流れに乗ってだらだらと歩くだけなので間違えようはない。
俺たちが歩いているのは専用歩道でどこからともなく陽気な音楽が流れている。
みんな前を向いて歩いているし向かいからほとんど人は歩いていなかったので俺たちは特に注目されることもなく遊園地の入り口までやってきた。
そこでチケット売り場を探したのだが、見当たらない。というか閉まってる?
入り口の改札に立っていたお姉さんのところに行って聞いてみた。
「あのう、チケット売り場閉まってるんですけど、いつ開くんですか?」
「予約窓口は開いていますが、こちらの売り場は閉まったままですよ」
「えっ? じゃあ今日のチケットは?」
「本日の当日券は売り切れですしキャンセル待ちのお客さまも大勢いらっしゃいますので、入場は無理だと思います」
「そ、そうですか」
ヤッチマッター!
[あとがき]
これを書いている時期(2024年2月)、アソコのチケットの窓口販売が流動的だったのでその辺りは適当です。
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