第224話 夢の遊園地


 何事もなく金曜までの学校が終了し、今日から土日の連休に入った。

 魔法盤のニーズが高そうなので、この土日連休は26階層を適当に流して核と魔法盤を集めるつもりだ。


 俺はいつも通り防具を着込んで支度を終え、7時にはタマちゃんとフィオナを連れて新館の書斎に転移した。


 書斎ではアインが待っていたので朝のあいさつを交わし、最初に聞いておきたいことをたずねた。

「アイン、俺は以前たおしたドラゴンの死骸をそのまま持ってるんだが、ドラゴンって料理して食べられるのかな」

「わたしでは分かりかねますが、おそらく食べられるのではないでしょうか。7号に聞いてみます」

「7号ってここの料理人シェフだったっけ?」

「はい」

「じゃあ頼む」

「かしこまりました」


 朝食の準備はできているということでアインと一緒に食堂まで行き、アインはそのまま厨房の方に歩いていった。


 この食堂の広さは旧館の時使っていた食堂と同じくらいの広さで、同じように真っ白なテーブルクロスのかかったテーブルの真ん中には赤白黄色の大きな花が生けられた花瓶が置かれていた。


 俺がいつもの位置に着いて少ししたところでミアが食堂に入ってきた。

「おはようミア」

「イチロー、おはよう」

 ミアがいつもの位置に着いてすぐ、16号がワゴンを押して食堂に入ってきて料理をテーブルの上に並べていった。


 今日の朝食はいわゆる日本式西洋料理、いわゆる洋食だった。

 ベーコンエッグにケチャップのかかったハッシュドポテトとマッシュルームの炒め物、トマトとマスの薄切り?をのっけたグリーンサラダ。お椀に入ったナスビの味噌汁に皿に盛られたご飯。それに緑茶。

 今日のミアはナイフとフォークのようだ。俺は箸だけどな。

 

 今度納豆を持ってきたらここでも納豆を作れるようになる気がする。

「ミア、勉強はどうだ?」

「べんきょうしてる」

「勉強は楽しいか?」

「うーん。たのしくない」

「そうか」

 そりゃそうだな。

「でも、じぶんのため。がんばる」

「えらいな」

 ミアの日本語以外の勉強がどの程度進んでいるのかは分からないが、少なくとも日本語については目を見張る進歩だ。

 ただ、ミアにはご学友としてカリン、レンカをつけてはいるもののそれだけだ。

 なにか気晴らしがあってもいいような気がする。

 今日明日と俺は26階層で魔法盤狩をしようと思っていたのだが、それは今日だけにして、明日はミアを連れて東京見物でもしてみるか。


「ミア、明日は勉強をお休みして俺が普段住んでいる街の見物に行くか?」

「いきたい」

「じゃあ、明日行こう」

「わかった」


 実際は俺の街ってわけじゃないが東京見物にするか?

 しかし、お子さまのミアを連れ歩くとなると、遊園地系統に連れて行くのが良いだろう。


 千葉にあるくせに東京と冠した遊園地となるとはるかかなたの記憶しかないので、俺の転移では無理だが、8時にここを出たとしてもトウキョウダンジョンセンター前に転移して、原宿駅そこから電車に乗って移動すれば10時までには遊園地に到着できるだろう。

 よし、それで行くとしよう。


 洋風朝食を食べ終え、食後のデザートとして出されたプリンを食べた俺はハチミツで汚れたフィオナの手と顔をおしぼりで拭いてやり、ミアと連れ立って食堂を後にした。


 階段の先でミアと別れ書斎に帰ったところ、アインが待っていた。


「マスター、7号にドラゴンの料理についてたずねたところ解体も含めて問題ないそうです」

「ということは、ドラゴンの胴体をここに置いておいた方がいいな」

「はい」

「どこに置こうか?」

「玄関前の芝の上でしょうか」

「わかった。後で置いておく。

 解体したら食糧庫に保管するんだろ?」

「はい。そうなります」

 26階層に行く前に置いておこう。


「それと、明日朝食を食べたら、ミアを連れて俺の住んでるとこを見物させようと思う。

 それなりの格好をさせてくれ。用意はできるだろ?」

「はい」

「じゃあ、そういうことだからミアの明日の勉強はお休みだ」

「かしこまりました」



 アインが書斎から出ていったところで、俺は棚の箱から鋼鉄のメイスを取り出してベルトに下げ、手袋とヘルメットをリュックの中のタマちゃんから受け取って装備し、リュックを背負った。

 フィオナがちゃんと肩に止まったことを確かめて新館の玄関前に転移して、目の前の芝の上にドラゴンの胴体を出してくれるようタマちゃんに頼んだ。


 背中のリュックからタマちゃんが這い出してきて芝の上に金色の膜が広がったと思ったらその膜が浮き上がり、タマちゃんまくの下からドラゴンの胴体が現れた。

 こうして見ると、かなりデカい。

 何人がかりで解体するのか分からないが、そのうちなんとかなるだろう。

 仕事を終えたタマちゃんは俺の体を伝わってリュックの中に戻っていった。


 もう一度フィオナが肩に止まっていることを確かめたから26階層の渦の前に転移した。


 半日では階段に到達できないので今日はフィオナのナビゲートなしで爬虫類スケルトンの乱獲だ。


 ……。


 結局午前中の4時間ちょっとで45個の核と魔法盤を手に入れた。

 ミアとの昼食をはさんで、今度は25階層からの階段下に転移してそこから爬虫類スケルトンの乱獲をした。こちらも4時間ほどで42個の核と魔法盤を手に入れた。

 ちなみに今日の昼食もカレーだった。ミアのご所望だったようだ。

 トッピングにゆで玉子とカボチャが載っていた。とくにカボチャは絶品で甘さが辛さとちょうどマッチしていた。うちではカボチャカレーを食べたことがなかったのだがこれほどカレーに合うとは思わなかった。

 デザートはイチゴソースのかかったヨーグルトだった。これもおいしかったです。



 俺は4時半に新館に戻り、メイスを置いて明日の7時にやってくるとアインに告げてうちの玄関前に転移した。

 


 翌日。

 俺もさすがに防刃ジャケットを着て東京かっこ千葉の遊園地にはいけないと思い、灰色のズボンに半袖のシャツ。その上に灰色の夏物のジャケットを着てうちを出た。

 ジャケットは少しきつかったが、許容範囲だ。

 タマちゃんとフィオナはお留守番だ。

 部屋を出る時「タマちゃん、フィオナ、お留守番頼む」そう言ったら、タマちゃんは「行ってらっしゃい」と言ってくれた。

 フィオナは俺を見つめて何かブツブツ言っていた。


 うちを出る時「5時ごろ帰る」と、母さんに告げたのだが「フィオナちゃんの面倒は母さんがちゃんと見るから、もう少し遅くてもいいのよ」と言われてしまった。

 そのとき、さっきのフィオナの顔を思い出してしまった。


「遅くなるようなら電話するよ」と、言って玄関の扉を開けて外に出たら、天気はあいにくの曇りだった。

 これは雨が降るかもしれない。

 タマちゃんを連れていない関係で俺の荷物は財布とうちのカギとスマホと冒険者証、それにハンカチだけだ。冒険者証は首から下げているが後のものはいずれかのポケットだ。

 折りたたみ傘としても傘なんて持ち歩きたくない。

 タマちゃんがいれば何かと役に立つはずなので、ちょっと見た目は悪いがやっぱりタマちゃんをリュックに入れて連れて行こう。


 俺は玄関の扉を開けてうちに戻った。

『あら、どうしたの?』

「雨が降りそうだから傘を持ってく。タマちゃんも連れて行くから」

『タマちゃんも?』

「うん」

 タマちゃんと傘に何の関係があるのか母さんにはわからないものな。


 2階に上がって部屋に入ったらフィオナが何か言いながら俺の周りを飛び回り始めた。

「タマちゃん、やっぱり一緒にいこう」

 と、タマちゃんに声をかけたらタマちゃんが、

「了解しました」と答えて段ボールから這い出して、リュックの中に入ってしまった。

 それを見たフィオナは飛び回るのを止めて俺の肩に止まってしまった。

 これはフィオナも連れていかざるを得ないな。


 玄関に下りた俺はそこから「フィオナも連れて行くから」と台所にいるらしい母さんに言ったところ『そうなの? とにかく気を付けていってらっしゃい』と返事が帰ってきた。


 下駄箱の中の傘立てから俺の傘を取り出し、リュックを下ろしてタマちゃんに預けようとしたら、タマちゃんの偽足が俺の左肩をチョンチョンと叩いた。

 何だろうと思ったら、タマちゃんが、

「主、このままでも収納出来ます」と言ってくれた。

「じゃあ頼む」

 タマちゃんの金色の偽足が俺の手元に伸びてあっという間俺の手にしていた傘がタマちゃんに取り込まれてしまった。

 タマちゃんのいる生活に慣れてしまうと人間ダメになるな。


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