第222話 新館
週が明け月曜日。
今日は新館が完成しているはずだから放課後見に行くつもりなのでちょっとだけウキウキして玄関の扉を開けたら外は雨だった。梅雨だものな。
玄関に戻って傘を取りだし傘を差して学校に向かった。横風であおられた雨は服が濡れるので嫌だが、今日のように風もなく上からまっすぐ降ってくる雨はそんなに嫌いではない。
当たり前だが道を歩く人もみんな傘を差している。俺の傘もそうだが、たいていはビニール傘だ。
学校に着いて庇の下で傘を畳んでバタバタ開閉してつゆを払い、玄関に入ってクラス別に置かれた傘立てに傘を突っ込んだ。みんな同じような傘なので名まえは必須だ。俺の傘にはタグをつけて俺の名まえを書いている。
うちのクラスの傘立ての中には数本傘が立っていたのだがどれも乾いた傘だったので忘れ物だろう。
靴を上履きに履き替えて教室に向かった。
「おはよう」と言いながら教室の扉を開けたがいつも通り俺が一番だったので誰も答えてはくれなかった。
席についてカバンから教科書とノートを机の中にしまってから外を眺める。
そうこうしていたらクラスメートたちも「おはよう」と言いながらガラガラと教室の扉を開けて入ってくる。
俺は外を見ながら「おはよう」とあいさつする。
授業中教室から窓を通して眺める雨の景色は格別だ。
校庭を眺めても誰もいないし、先生の声とチョークの音しか聞こえないところが特にいい。
などと外を眺めていたら先生に指された。
よそ見していようが先生の話は耳に入っているし授業内容だってちゃんと理解しているので簡単に答えられる。
そして授業は淡々と進んでいき休み時間になった。
雨が降り続いているのでほとんどの生徒は席についたまま近くの者と話をしたりしている中、俺は相変わらず外の雨を見ていた。
休憩時間が終わるとクラスメートたちは各自の席に戻り、先生が教室にやってきて授業が始まり、俺は授業を聞きながらまた外を眺める。
タマちゃんが機械の助けを借りて話せるようになった。
これまでモンスターには人間並みの知性はないと思われていただろうから、公表すれば衝撃的だろうなー。
タマちゃんもそうだが、俺自身もプラス付人間だしなー。
あと、タマちゃんの中にはドラゴンが丸々一匹入ってるけどあれも出したらとんでもないことになるよなー。
ドラゴンなんかより、人の住む異世界に自由に行き来できることが分かったことのほうがデカいよな。
俺の屋敷と自動人形のこともある。
俺自身、何を目指しているわけではないけれど、爆弾抱えてるよなー。
休憩時間中窓の外を見ながら宇宙人や未来人、超能力者がやってこないかなーとか考えてもみたが、少なくとも俺は超能力者のような者だったので、傍からすれば窓の外を眺めてたそがれているように見えるだろうが、決してたそがれているわけではない。
結局のところ無難にその日の授業を終えた俺は、掃除当番でもなかったので速攻で荷物をカバンに詰めて教室を出て玄関に急いだ。
俺は靴を履き替えて傘立てから傘を回収して庇の下で傘を差し雨の中に飛び出して校庭を横切り、校門を出たところで新館の門の前に転移した。
新館の門の前には俺を待っていてくれたらしいアインが立っていた。
当たり前かどうかわからないがここには梅雨などないようで、今日もいい天気だった。
「マスター、お待ちしていました。
お荷物と傘をお持ちします」
傘を畳んだ俺はカバンをアインに渡し傘は自分で持ってアインの後について新館の門をくぐり中庭に入っていった。
花壇もあれば噴水もある。
かなりしゃれた庭だ。
アインは俺のことを何も聞かないが、変な主人と思ってるだろうなー。
玄関の大きな両開きの扉をアインが開けた先には旧館と似たような玄関ホールになっていた。
中に入ると新築の木の匂いもわずかにする。
扉の脇にちゃんと傘立てらしき上の空いた箱が置いてあったのでそこに傘を差し込んでおいた。傘立てだよな?
アインは何も言わなかったので傘立てだったはず。
旧館では高い天井からはシャンデリアが吊り下がっていたがここでは平たい照明器具が付いて白っぽい光でホールを照らしていた。
見た目だけはまんまLEDの照明だ。
ホールの左右の壁際には花瓶が載った台が置かれ、花瓶には色とりどりの花が生けてあった。
人を本式に招待する時はいきなりじゃなくって門の前から庭を通って玄関経由の方がいいな。
玄関ホールの先は大広間。ここも旧館と同じような作りなのだが、ここの天井も見た目LED照明だった。モダンな感じがとてもいい。
アインの説明だと、
1階はこの大広間に大中小の食堂。そして厨房。
洗面所に
そして、ミアのために体育館。
あとは簡単なものを作製する作業場と備品室くらいで、ほとんど空き部屋ということだった。
それはそうだ。
ミア用の体育館だが、板張りの部屋で広さ的には俺の高校の講堂兼体育館ほど。2階部分も使っているため天井も俺の高校の講堂兼体育館の天井くらい高かった。
俺も俺自身どこを目指しているのか分からないのだが、この体育館もどこを目指しているのか不明だ。だが悪くはない。
そして風呂場をのぞいてみた。
脱衣場を含めて温泉の大浴場のようで、お湯と水を混ぜることのできる現代的な蛇口に同じくお湯と水を混ぜることのできるシャワーが付いていた。
湯舟もかなり大きく、ミアなら十分泳げるくらいあった。
しかし、どこもかしこも現代日本風なのだが、どこからそういった情報を得たのかものすごく不思議だ。
日本語を覚えるために俺の頭の中を走査したことがあったが、あの時こういった情報も一緒に抽出されたんだろうな。言葉の意味を知るためにも物品の情報は大切だし。
玄関ホールの階段で2階に上がったところで、ミアとカリンとレンカの3人がソフィアに連れられて立っていた。
「イチロー、こんにちは」「「マスター。こんにちは」」
「やあ、ミア、それにみんなこんにちは。
ミアたちはいつ頃こっちに移ったんだ?」
「ひるまえここについて、ひるはここのしょくどうでたべた」
「歩いて来たのか? 遠かっただろ?」
「ううん。4にんでにぐるまにのってきた。たのしかった」
「そうか。それはよかった。
それでこっちに移ってどうだ?」
「みんなあたらしくなって、おふろがおおきくなった。たのしみ」
「ほかには?」
「たいいくかんができた!」
体育館を作ろうと思ったのは誰だか知らないが、グッドジョブだったようだ。
外で遊ぶのもいいが、こういった施設があるに越したことはないものな。
ミアたちとそこで別れ、俺はアインに俺の部屋に案内された。
旧館と同じような書斎に入ると、机と立派な椅子。それに応接セットが置いてあった。
壁には作り付けの棚。
棚には鋼のメイスの入った箱が置いてあるだけで今のところ何もなかった。
そのうち何か仕入れて並べてやろう。
あと旧館の時と同じように扉が左右の壁についていた。
扉を開いてみるとこれも旧館の時と同様、片側が俺のプライベートルームでもう一方が会議室になっていた。
革張りに見える椅子に座って机の引き出しを開けてみたが、中は空だった。アインが言うには旧館の書斎の机の中の物はあのままだということだった。
「アイン、食料なんかもこっちに運んだの?」
「当面の食料を運びこちらの食糧庫に入れています」
「ここの食糧庫は向こうと同じ機能がある?」
「はい」
旧館の改修が終わったら遊ばせておくのはもったいないけれど、当面何をするあてもないからどうしようもない。
渦を作ることが自由にできるようになったらホテル経営も面白いかもしれないけど観光地じゃないから人気は出ないだろうなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます