第221話 きんつばととばっちり
[まえがき]
誤字脱字衍字報告いつもありがとうございます。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アインにきんつばをお土産に包んでもらいタマちゃんに預かってもらった。
きんつばができるくらいなら羊羹もできるだろうし、もち米を用意すればおはぎもできるはず。
和菓子屋が開けそうだ。開かないけど。
「そういえばアイン、
「はい。今現在は栽培していませんが、食糧庫に在庫がありました」
「そういえば、牛なんかも見ないけど、牛肉もあるし牛乳もあるよな?」
「はい。そういったものも在庫として蓄えています」
「じゃあ、かなり古いの?」
「はい。前のマスターがここを離れてから一度も補充していませんので一番新しいもので150年近く経っています」
「えっ! そうなの?」
「古いと表現しましたが、食糧庫の中は時間経過がほとんどありません」
タマちゃんの体内と同じなのか。すごいな。
「食料の在庫は沢山あるの?」
「はい。1000人が1000年生活するに足る食料が食糧庫に入っているものとお考え下さい」
100万人が1年間生活するだけの量と考えると大したことない? いやいや、とんでもない量じゃないか。
「食糧庫の拡張は可能ですから、農場を再整備すれば在庫を増やすことは容易です」
「そういえば、俺の半地下要塞の近くの果樹園なんかは、種を植えて3日くらいで実が成るくらいものすごい速さで実が成るんだがここでも植物の成長は早いのか?」
「いえ。種類によって年に12回収穫できるものもありますが、たいていの物は年に6回の収穫です」
それでもとんでもないスピードだ。
「肥料なんかはどうしてる?」
「何も与えていません」
俺の果樹園だってそうだが、すごいことだな。
しかし、植物の成長スピードが俺の果樹園ほどではないのはなぜなんだ?
俺の半地下要塞の周り、というか池の周りだけ植物の生長が速いということなのか? いや、1階層のレモンの件もあった。
謎だ。そもそも謎だらけだから悪いことではないのでラッキーと思っていればいいか。
それと、俺が持ってきたと思われる果物だと効能が付いていたが、ここ産のもの、例えば紅茶や小麦にははっきりした効能は付いていなかったと思う。
効能は植物の成長速度に関連すると思っていればいいのか?
「分かった。
もうすぐ新館の工事が終わるじゃないか。そしたら工事していた自動人形たちはどうなる?」
「この館の木材部分はかなり傷んでいますので大規模改修をしようと思います。
何かマスターにお考えがありますか?」
「特にあるわけじゃないから、それでやってくれ」
「ではそのように」
「ミアたちも新館に移るわけだな」
「はい」
「分かった」
「今日はそんなところかな。
次は6日後。7時頃やってくる」
「新館にいらっしゃいますか?」
「新館は明日にも完成だったな?」
「はい」
「なら、明日の15時半ごろ新館の門の前に行くから中を案内してくれるか?」
「了解しました。明日の夕食はいかがします?」
「明日はすぐ帰るから要らない」
「了解しました」
まだ2時半だったが特に何かすることもなかったので、俺はうちに帰ることにした。
「それじゃあ、ちょっと早いが俺は帰る」
リュックを背負い、フィオナが肩に止まったところで、うちの玄関前に転移した。
「ただいま」
『お帰りなさい。今日はずいぶん早いのね』
「うん」
靴を脱いで廊下にあがりリュックを置いてタマちゃんからきんつばの入った小箱を渡してもらった。
このまま母さんに渡そうと思ったのだが、立派な木の箱に入っているものの包装されているわけでもないので買ってきたものではないことは一目瞭然。
俺が作るわけない以上、人からもらったということになるのだが、どう言って渡そうか。
これはかなり困ったぞ。
仕方ないのでリュックと小箱を持って2階の自室に戻った。
リュックを床に置いたらタマちゃんはすぐに中から這い出て自分の段ボールのうちに入って四角くなった。
フィオナは俺が服を着替えることは分かっているので俺の肩から飛んで自分のふかふかベッドに飛んでいき足を延ばした。
きんつばの取得経緯の説明が面倒というかいい説明が浮かばなかったので、俺とタマちゃんとフィオナで食べることにしてタマちゃんに箱ごと預かってもらった。
父さんと母さんには俺がスーパーできんつばを買ってきて渡すことで勘弁してもらおう。
ということで普段着に着替えた俺は、近くのスーパーまで駆けていき、スーパーの店員にきんつばを売ってないか聞いたらパン売り場の近くに売っていたので、そこできんつばを10個買った。そしたらきんつばはそれで売り切れた。
館のきんつばに比べてスーパーのきんつばは随分小さかった。ドンマイ。
うちに帰った俺は母さんに「きんつばが急に食べたくなったから買ってきた」と言ってレジ袋にバラで入ったきんつばを渡しておいた。
「あらー、珍しいものを食べたくなったのね。
ちょうど3時だから今食べる?」
「今はいい」
「急にきんつばが食べたくなったんじゃないの?」
「買ったらそれほどでもなくなったから」
「買い物すると、そういうことってあるわよね」
実際はそういうことではなかったのだが、そういうことになってしまった。
そうだ。母さんにタマちゃんが話せるようになったことを教えてやろう。
「母さん、驚くことがあるんだけど、聞く?」
「何? 母さんは滅多なことじゃ驚かないわよ」
「そうかなー。驚くと思うよ」
「そこまで言うなら話しなさいよ」
「ちょっと待って。今呼ぶから」
「呼ぶ?」
「うん。『タマちゃーん、下りてきてくれー』」
『はーい』
「えっ! 今人の声が聞こえたよね?」
「うん。聞こえた」
「誰か一郎の部屋にいるの?」
「タマちゃんとフィオナがいる」
とか話していたらタマちゃんが食堂に入ってきた。フィオナも付いてきてタマちゃんの上でくるくる飛び回っている。
「タマちゃん?」
「さっきの声はタマちゃんでしたー」
「うそ、人の声だったじゃない」
「タマちゃん、母さんにあいさつしてくれ」
「タマです。お母さん、言葉を話せるようになりました」
母さんが目を見開いて、口に手を当てて固まってしまった。
「驚いたでしょ?」
母さんが声を出さずに数回うなずいた。
「タマちゃんは話せるようになったけど、ほかに変ったところは何もないから今まで通りにね」
母さんが再度言葉を出さずにうなずいた。
「じゃあ、タマちゃん戻っていいよ」
「はい」
タマちゃんは食堂を出ていきフィオナはタマちゃんについていかずに俺の肩に止まった。
その辺りで母さんも再起動したようだ。
「驚いたー。一郎に負けちゃったー」
「母さん、うちでスライム飼ってることも秘密だけど、しゃべれるようになったことはもっと秘密だからね」
「分かってる。
口外なんて絶対しないけれど、実物見てなければだれも信じないと思うわよ」
「だろうね」
「フィオナちゃんはしゃべれないの?」
「フィオナは変わらず。少しだけ」
「それは残念。なら特訓続けなきゃいけないわね。
一郎はタマちゃんを特訓したの?」
「いや。急に話せるようになったんだ。フィオナに言葉を教えていたからそれで感化されたんじゃないかな」
「そうなのかなー」
「だから、母さんの教育方針は間違っていなかったってことじゃないかな?」
「そうよね。母さん自信が湧いてきた。一郎が学校に行ってる間頑張るからね!」
母さんに妙なスイッチが入ってしまった。
右肩に止まったフィオナを見たら何だか固まってしまってフィギュア化しているような。
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