第220話 タマちゃん発声2
アインが作った機械を取り込んだタマちゃんが少し練習しただけで話せるようになった。
天スラの辞書には不可能の文字はないようだ。
「タマちゃん、さっそくだけど何か俺に要望とかあるかな?」
「わが
タマちゃんの頭の中では俺のことを
「そうか。何かあればいつでも言ってくれよ」
「分かりました」
タマちゃんとの初めての会話はこれで終わってしまったのだが、何かタマちゃんに聞いておくことってあったかな?
そうだ。
「タマちゃんはどうやって生まれたんだ?」
「覚えていません。
気が付いたときは主のリュックの中にいてこの姿でした」
やはり、金色の核を吸収したことで進化か何かの変化が起こって意識が芽生えたんだろうな。
「タマちゃんの体内にいろんなものを収納してもらっているけど、容量とか何か制約とかない?」
「容量には際限がないようです。
そのかわりあまり種類が多くなると覚えきれなくなるのでそちらの制限があります」
「なるほど。
ちなみにその種類制限は数字的にはどれくらい?」
「分かりません。100万種類や200万種類ということはないと思います」
なんだよ。それって実質的に無制限じゃないか。
あと何か聞くことあったかな?
そうだ。いいことを思いついた!
「タマちゃんは、自分の体の形を自由に変えられるんだよな?」
「はい。変えられます」
「ということは、人の形にも成れる?」
「成れます」
「それじゃあ、試しに人の形になってくれ」
「はい」
別にシュルシュルというわけでもないがあっという間にタマちゃんは人の姿になった。
タマちゃんは当たり前だが何も着ていないので真っ裸の人間、それも女性になるかと思ったのだがちゃんと服を着ていた。
身に着けた服や靴はアインの着ているものと
それはいいのだが、問題は身に着けた服や靴もそうだが皮膚も髪の毛の色も純金色なのだ。
一部の
純金製の人の姿になったタマちゃんの周りをファンタジー全開のフィオナが何か言いながら飛び回っている。
「タマちゃん、金色もなかなか捨てがたいんだけど、せめて皮膚の色は肌色で、髪の毛の色は黒くならないかな?」
「試してみます」
変身したタマちゃんが着ている衣服は、俺が何も言わなかったせいか金ぴかのままだった。
けれど、露出した肌の部分は肌色になり、髪の毛も黒くなった。
ただ問題は肌の色が均質すぎてマネキンっぽい上、髪が違和感ありまくりでどう見てもカツラに見える。
しかも
幼稚園児の絵をもとに作ったマネキンが金色の立派な服を着ている。
これまでのシュールさなど児戯にも等しかった!
服はアインに用意させればいいけれど、肌の感じやその他もろもろを人に近づけるのはちょっと無理そうだ。
そもそも人に近づける必要もないからスライムスライムで十分だった。
「タマちゃん、ご苦労さま。元の姿に戻っていいぞ」
「はい」
金色の服を着た
やはりこちらの方が落ち着く。
フィオナは元の姿に戻ったタマちゃんでは面白くなかったのか、俺の肩に戻ってきた。
「ところでタマちゃんは人の姿になって、疲れたとかあった?」
「体型を維持するにはそれなりに意識する必要がありましたが、それほど大きな負担ではありませんでした」
「なるほど。分かった」
何であれ今日は大収穫だったな。
それはそうと、このことは母さん父さんには黙っていた方が無難なような気がする。
「タマちゃん、タマちゃんがしゃべれるようになったことはしばらくは誰にも秘密にしておこう。父さん母さんにはそのうち話そう」
「了解しました」
アインは律儀にずっと部屋の中でタマちゃんの発声から変身まで見ていたのだが、アインに聞いておくことがあったのを思い出した。
「そういえばアイン。ドラゴンのいた洞窟の奥にあった黒い渦のことを覚えているか?」
「はい」
「あの渦は、いろんな意味で離れた2点間を結ぶいわばゲートなんだが、ああいったものを作る装置のようなものに心当たりはないか?」
「前のマスターと部下の方々が去っていったときに使われた装置しか心当たりはありません」
「それって旧館の地下にあった金色ででっかい球体の装置のことだよな」
「はい。そうです」
やっぱりあれだけか。
地道にダンジョンの探索を続けて最下層を目指し、いるかいないかわからないダンジョンコアを見つけるしかないみたいだ。
雲をつかむような話だが、俺はそれでも何とかなると思ってるんだけどな。
だって俺、俺の人生の中の紛れもない主人公なんだし。
時計を見たら2時だった。あっという間に1時間過ぎたようだ。
「アイン、新
「建物は完成して、現在家具や機材、食料などの資材を運び入れています。
明日の午前中には運び入れ及び据え付け、資材の整理も終わりますので完了します」
「ご苦労さまだったな」
「いえ。マスターのために働けることがわたしたち自動人形の喜びですから」
なんだか、うれしいことを言ってくれる。
俺はアインたちにとってもいい主人にならないといけないな。
「アインは用事があるようなら行っていいから」
「はい。マスターはいかがなさいます?」
「俺はここで少し休んでおく」
「それでしたらお茶でもお持ちしましょう」
「ありがとう」
アインが書斎を出ていったあと俺は机の椅子に腰かけて一休みして、タマちゃんはリュックの中に入っていった。フィオナは俺の肩の上のままだ。
しばらくして、アインがトレイを持って部屋の中に入ってきたので俺は小テーブルの椅子に移動した。
「どうぞ」
そう言ってアインが緑茶の入った湯呑をテーブルの上に置いてくれた。
最後にお茶請けのおそらく『きんつば』が3つのっかった皿がテーブルに置かれた。
きんつば用に竹で作ったような
俺が渡した料理本に載ってたかなー?
「ありがとう」
最初にきんつばを食べてみたが、結構おいしい。というよりすごくおいしかった。
俺は
フィオナは両手できんつばを受け取って小さな口を大きく開けてかじった。
つぶあんなのでフィオナでは食べづらいかと思ったけれど、問題なかったようだ。
きんつばは好みの味だったようで、フィオナは手渡したきんつばをハムハムとあっという間に食べてしまった。
フィオナって実に幸せそうな顔をして食べるんだよなー。
今度はもう少し大きく切ったきんつばをフィオナに渡した。
フィオナはすごくうれしそうな顔をして両手できんつばを受け取ってハムハム食べ始めた。
俺はきんつばのあと緑茶をズズズーと飲んで、またきんつばを食べた。
フィオナに分けたとしても全部きんつばを食べきれなかったのでひとつはタマちゃんにやった。
「おいしかったです」とタマちゃんがリュックの中で答えた。
知らない人から見ればリュックがしゃべったわけだからこれも驚くだろうな。金色の人型に比べれば大したことないか。
沢山食べられるものではなかったが、タマちゃんの言葉通りきんつばはかなりおいしかった。
父さん母さんも和菓子が嫌いなわけじゃないから何個か包んでもらってお土産にしても良さそうだ。
お土産を渡した時にタマちゃんが話せるようになったことをさりげなくカミングアウトしよう。
「アイン、これってきんつばだよな?」
「はい」
「できれば10個くらい小箱に詰めてもらいたいんだが」
「承知しました。すぐ持ってまいります」
アインはそう言って書斎から出ていき2分ほどで木製の小箱を持って戻ってきた。
「ありがとう」
受け取った小箱はちょっと重かった。
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