第218話 タマちゃん発声。26階層再探索
食堂を出て階段を上ったところでミアとは分かれ、俺は書斎に戻った。
タマちゃんにリュックから出るように言ったらタマちゃんはするするとリュックから這い出て床の上でスライムっぽい形を取った。
机の椅子に座った俺は呼び鈴を鳴らしてアインを呼んだら、アインはいつものように20秒して書斎に入った来た。
「マスター、どういったご用でしょうか?」
「できるかどうかわからないんだけれど、タマちゃんが言葉をしゃべれるようにしたいんだ。
タマちゃんも自動人形をレベルアップした時のように言葉をしゃべれるようにできないかな?」
「発声器官がタマちゃんさんにはないようなので新たに製作する必要があります。これは自動人形を流用できますから製作は可能です。
しかし、発声器官を直接コントロールする方法が今のところありません」
やはり無理なのか。
「タマちゃんさんが文字に対応するスイッチを押すことができるならその文字に合わせて音を発生させることは可能です。その時スイッチを押す力や速さなどで音の強弱や高低、いわゆるイントネーションをつけることも可能かと思います。
ただ、これにはかなりの訓練が必要と思います」
「訓練ならそんなに必要ないと思う。何せ、タマちゃんは天才だから」
「分かりました。ではさっそく装置を作りましょう」
「頼んだ。
でき上った装置自体はタマちゃんの体の中に入れてしまうから大きくても構わないから」
「了解しました」
アインはそう言って書斎から出ていった。
タマちゃんのリコーダー特訓は無駄になったかもしれないが、あれはあれでタマちゃんの隠れた才能を発見したわけだから無駄ではなかった。いや、大いに有意義だったのだ!
「タマちゃん、リュックの中に入っていていいぞ」
タマちゃんは床に置いたリュックがひっくり返らないように器用に中に入っていった。
タマちゃんの偽足は万能だけど、体の中に取り込んだスイッチ群を押すことができるのかいささか心配ではある。
とはいえタマちゃんの体内は異空間のようなものだし、なんにせよタマちゃんは天スラだから大丈夫だろう。
発声機械の製作にどれくらいの時間がかかるか聞かなかったけれど、自動人形の部品?を流用するとか言っていたのでそんなに時間はかからないはず。
楽しみだなー。
声質の希望を言わなかったけれど、どんな声なのだろうか?
そういえばここの自動人形たちで顔の造作のある者は全員女性型だった。
声の質などどっちだろうとかまわないけれど既存の部品を流用するとなると女声になるような気もする。
なんであれアインが有能で助かった。
俺はとりあえずすることもなくなったので、タマちゃんの入っているリュックを背負い、フィオナを肩に止めたまま新館の様子を見に行くことにした。
半地下要塞の前に転移で現れた俺は思い出してうち用に治癒の水を20リットルのポリタンクに汲んで、果物類も摘んでおいた。
池の向こう側で建設中の新館は俺の目では完成しているように見えるが、路上には家具のようなものを載せた荷車も新館に向かっているし、内装とかの作業をしているのかガラス窓越しに自動人形たちが立ち働いているのが見える。
運河にも水が流れているようだし、次の日曜日には完成しているだろう。
安心した俺は半地下要塞に久しぶりに入って、靴を脱いでリュックを置き、ハンモックに横になっていろいろ考えた。
新館にも書斎ができて本棚のようなものもできるだろうから、何かカッコ付けに本でも並べてやるか。
急いでいるわけではないが果物類の安定的な出荷とか自動人形利用の件もある。
何とかして渦の発生装置のようなものを手に入れたい。
確実と言っていいか分からないが、そういったことができるのはダンジョンの最深部に存在してダンジョンの全てを
文字通りダンジョン王に成ることだ。
実際のところダンジョンコアが存在するかは不明だが、夢はある。
しかし、サイタマダンジョンを下りていったらこの階層に出てしまった。
ここが本当にサイタマダンジョンの27階層なのか? と言われれば甚だ疑問なところでもある。
可能性があるのは、フィオナの案内で26階層の渦にたどり着いたが、他に下り階段があったのかもしれない。
とにかく全ての部屋を当たったわけではないので何とも言えない。
ここは思案のしどころだ。
もう一度26階層を探索してみるか。
フィオナも6枚羽のフェアリークイーンに進化してるし、フィオナの階段レーダーも進化している可能性がないわけではない。
よし、やってやろう。
問題はあの階層では目印になるものが何もなくて、飛んで行けるのが25階層からの階段下と渦の部屋だけしかないから、どちらから進んでも泊りがけで探索しないと毎回振出しなんだよな。
それでも、あの階層はスケルトンに出会えば魔法盤確定だから、ニーズもあることだし行ってみるか。
階段が本当にあるとして簡単に見つからなくてもあと1カ月もすれば夏休みだし何とかなるだろう。
スケルトンの武器とか宝箱はもういらないから核と魔法盤だけ回収していこう。
そうと決まったら、フィオナの階段レーダーがレベルアップしているかだけでも確かめるとしよう。
ハンモックから下りた俺は、リュックの中のタマちゃんからヘルメットを受け取って装備し、リュックを担いで靴を履き、手袋をして26階層に転移した。
行き先は26階層の渦の部屋。下り階段があるとして25階層からの階段下よりこっちの方が近いような気がしたからだ。
なぜなら、25階層からの階段下から行く方が下り階段が近いのなら、フィオナがそっちに案内したはずだからだ。
今の俺は素手だが、爬虫類スケルトンはストーンバレットで簡単にたおせるので素手で十分だ。
いや、この前魔法盤で覚えた解呪(アンカース)を使ってみるのも面白いかもしれない。
渦の前に立った俺は、右肩の上に座っているフィオナに向かって、
「フィオナ、下り階段があるかもしれないんだが、位置がわかるかい?
分からないなら首を横に振って、分かるなら首を縦に振ってくれ」
そう言ったら、フィオナが首を縦に振った。
やはり階段があったのか。
「フィオナ、その階段に案内してくれるか?」
俺がそう言ったらフィオナが「ふぃふゅ」と言ってうなずいた。
フィオナの『はい』だか『うん』は「ふぃふゅ」のようだ。
イエス、ノーくらいならボディランゲージで十分だが、やはり言葉があった方がいい。
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