第209話 自動人形2。ミア5
食事が終わりフィオナの顔を濡れ布巾で拭いてやって、ミアと連れだって食堂を後にした。
ミアとは階段を上がったところで別れて俺は書斎に向かった。
書斎の前の廊下には台車が置いてありその隣にアインと自動人形が1体立っていた。
台車の上には西洋風の棺桶が載っているのだが、どうもその棺桶が休眠装置のようだ。
「マスター、工事用自動人形1体と休眠装置です」
「ありがとう」
「休眠装置はどうやって使うんだ?」
「上部がフタになって、このボタンを押すとフタが開き、自動人形が中に入ります。
所定の位置に自動人形が着くとフタが閉じ、内部の自動人形が完全に再生するとフタが開き自動人形は外に出ます」
「カイネタイトディスクはどうやって交換する?」
「カイネタイトディスクの交換時にはここのランプが点灯します。ランプを押し込むと、装置のこの部分が開き、要交換ディスクが持ち上がってきますので要交換ディスクを取り外して新しいディスクを取り付けます」
「なるほど、ありがとう。
自動人形と休眠装置を貰っていくけどいいかな?」
「もちろんです。どうぞ」
「じゃあ、タマちゃんに収納してもらう」
俺は書際の中に向かってタマちゃんに廊下まで出てくるように言ったら、すぐにタマちゃんが書斎の扉を開けて這い出てきた。
「タマちゃん、そこの自動人形と台車の上の棺桶を収納してくれ」
一度震えたタマちゃんが広がって棺桶を先に収納してそれから自動人形を収納した。
「アイン、ありがとう」
「台車を返してきます」
アインは台車を押して廊下を歩いていった。
「タマちゃん、リュックに戻っていいぞ」
タマちゃんは書斎に入っていき、その後について俺も書斎に入っていった。
タマちゃんはリュックをひっくり返すことなく器用にリュックの中に入っていった。
俺はタマちゃんに感心しながら机の椅子に座り一息ついた。
タマちゃんも口が利ければいいのに。
そもそもタマちゃんには口がないから、言葉を発することはできないんだろうけどアインや妖精女王のフェアのように頭の中に向かって話すことができる先例があるから話せるようになる可能性がないわけではない。
フィオナの場合は妖精女王まで進化すればああいった形で話せるようになるはずだ。
そんなことは絶対ないと思うけれど、フィオナが話せるようになって、一郎なんか大嫌いとか言われたらショックだろうなー。
午後から何かする気もあまりなかった俺は、椅子に座ったまま目を瞑ってうつらうつらしてしまった。
何だか夢を見たような見なかったような感じで目が覚めて時計を見たら3時だった。2時間以上寝てたようだ。
フィオナは、椅子に浅く腰かけてふんぞり返って寝ていた俺の腹の上で横になっていた。
俺が目覚めたことに気づいて俺を見上げてニッコリ笑った。
かわいいなー。
フィオナが話せるようになったら、絶対『一郎大好き』って言ってくれる。そう確信した。
館からうちに帰った俺は果物類を母さんに渡して、空になっていた『治癒の水』のポリタンクも今日汲んだポリタンクと交換しておいた。
もちろん母さんは喜んでくれた。
その日の夕食後、部屋に帰ったらスマホにメールが着信していた。
見れば氷川からだった。
『今日なんとか10億達成した。長谷川のおかげだ。ありがとう』
と、あった。
10階層で無理なく稼げるようになっていた以上氷川の10億達成は時間の問題だったものな。
『おめでとう。よかったら明日一緒に潜らないか?』と返信しておいた。
『Sランクの手続きは9時10分には終わるだろうから9時30分に渦の先でどうだ?』と、すぐにメールが返ってきた。
俺も『それでいい』と返信しておいた。
お祝いに何かやるとして何がいいかな?
万能ポーションでいいか。
3本も持たせれば十分だろう。即死さえしなければ全快するだろうし。
うちを7時に出て館で朝食を食べてから果物をいくらか摘んでおくか。
昼食は館で用意して氷川を驚かせてやろう。
氷川はあのおむすびを用意してくるだろうから、こっちで昼食の用意をするとメールしておいた。
『あそこにキッチンを作ったのか?』と返信があったので、『そんな感じだ』と答えておいた。
そのあとダンジョン管理庁の河村さんに自動人形についてメールしようと思ったのだが、よく考えたら出所の説明が厄介だった。そのうちでいいな。
しかし、果物もそうだが、運搬手段を確立しない事には俺とタマちゃんで宅配おじさんにならざるを得ないところがネックだ。
2点を転移で結べる装置のようなものがあればいいのに。理想はあの渦なんだよな。
ダンジョンに渦がある以上、ああいったものを発生させるなにかがどこかにあると思うんだが。
小説なんかに出てくるが、ダンジョンの最下層にあるというダンジョンコアを手に入れれば何でもできるかもな。そんなものがあるとしてだけど。
そして翌朝。
館に飛んで、ミアと朝食を摂った。
朝食は昨日と同じような和洋折衷で、ソーセージとじゃがバター、厚揚げをスライスして甘辛く味付けしたもの。白っぽいチーズの載ったサラダ、温泉玉子、白飯にネギの味噌汁。そして白菜の漬物。
食事しながらミアに勉強の様子を聞いてみた。もちろん俺はミアの言葉は分からないので日本語だ。ちゃんと伝わらないかもしれないがネイティブジャパニーズに慣れた方がいいものな。
俺はミアに向かってゆっくり口調で話をしてみた。
「ミア、日本語の勉強はどうだ?」
「ソフィアがえほんよむ。えほんすこしよめる。もっとはなす」
かなりちゃんとした日本語だ。とくに『よめる』という可能を表す表現ができたところは素晴らしい。英語だと動詞の原形に『can』を付けるだけだが日本語だと『読める』はもう別の言葉のようなものだしな。
副詞の『少し』『もっと』が正確に使われているところも評価が高い。
「すごいじゃないか」
「かりんとれんかがんがる。わたしがんがる」
「そこは『がんがる』じゃなくて『がんばる』だ」
「わたしがんばる」
「うん。そうだ」
ミアにご学友をつけたのは正解だったようだ。われながらグッドジョブだった。
「運動のほうはどうだ?」
「うんどうすき」
「ほう。それでどんな運動してる?」
「3にんはしる。ぼーるなげる。きのけんふる」
剣を作ってもらったのか。
素振りは体を鍛えるにはいいものな。
危険な魔法は論外だが、ある程度基礎体力をつけ体がしっかりしてきたらそれ以外の魔法盤を使わせてもいいな。
学問の才能と武術の才能と魔術・魔法の才能。ミアにどんな才能が眠っているか分からないからどんどん試してやろう。
その才能を伸ばしていけば、必ずミアはあの世界に戻って自立できる。
「そういえば、ミアの住んでた街に学校ってあったのか?」
「がっこうある。かねもちのこいく」
カリンとレンカだけでなくもっと多くのご学友と過ごしてもらいたいから、いずれは学校に通わせてやろう。
寮があるなら寮住まい。ないようならどこかのうちを借りてもいいし買えるなら買ってもいい。
ソフィアがいる以上交渉は簡単だし。
金持ちの子女が通う学校ということはお金さえ出せば通える学校って事だろうから入学自体は簡単だろう。
食後のデザートで最後に出されたプリンというかプリンアラモードを食べ終えて、フィオナの手と顔を拭いてやり、それから俺とミアはフィオナを連れて食堂を出た。
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