第208話 自動人形


 昨日夜の段階では28階層で狩をしようと思っていたのだが、屋敷での大型の核の需要もなくなっているし、どうしても狩をしなくてはならないわけでもない。


 朝食を終えて書斎に戻った俺は机の椅子に座って腹の調子が落ち着くのを待ちながら、今日の予定を再検討することにした。


 それで結局、新館の工事現場を視察することにして池のふちに転移した。

 うち用の野菜と果物類も補充しようと、先にイチゴとトマト、それにナスビを摘んで、その後果樹園に回ってそれなりの数果物を摘みタマちゃんに預けた。


 新館の方に歩いて行くと、建築現場ではかなりの数の自動人形たちが立ち働いていた。

 既に屋根ができ上り、外壁の石材が積まれて、外壁のでき上った部分から順に窓が取り付けられていた。


 俺は新館の工事現場から散歩がてら、石畳の道に沿って作られた運河の工事を見ながら館に戻っていくことにした。


 フィオナは右肩から飛びあがって俺の周りを飛んだり、周囲を回ったりしている。

 久しぶりに自由に飛び回れる広いところに出たのでうれしいのだろう。

 そろそろフェアリーランドに里帰りしてもいいか。


 運河工事だが、運河の側壁に沿って杭を打って補強する工事を進めていた。こちらに投入されている自動人形の数は運搬係を含め文字通り数え切れないほどだった。


 これだけの数自動人形が作られ、かつ管理できているわけだから、自動人形の量産、運用体制ができ上っているのだろう。


 ダンジョンセンターというか冒険者の世界では機械化といえばクローラーキャリアしかないけれど、自動人形が使えるようになれば小回りも利くし役立ちそうだ。


 ある程度の戦闘能力があるなら、ソロ活動の助けにもなるし、そうすれば1日の水揚げはかなり増えるはず。


 レンタル料1日8時間で1万円くらいなら使う人はそうとう出るんじゃないか?

 ダンジョン管理庁から見ても核の買い取り量が相当増えるだろうからウハウハだろう。

 アインに言ってサンプルを1体もらってそのうちダンジョン庁の河村さんに見てもらうか。

 問題は稼働時間だな。アインの話だと自動人形は1カ月連続で働けるらしいが、その後どうなるのか聞いていない。

 まさか充電式ではないだろうが、その辺り確かめないと使ってもらえないしな。

 運用に差し支えないことが分かったとしても、河村さんにも自動人形や館の話はしていないから、話をするにしても当分先になりそうだ。



 そんなことを考えながら資材を積んだ荷車や空荷車が行き交う道を歩いて昼前に館の門の前に帰り着いた。

 いままで屋敷の中庭はあまり注意していなかったため気付かなかったが館の倉庫兼工場に荷車がひっきりなしに出入りしている。

 どこかにある採掘、採集場から材料を運び込み、加工して工事現場に運んで行くのだろう。


 時刻は11時50分。面倒だったので門前から転移で書斎に戻った。

 タマちゃんの入ったリュックを下ろして、アインを呼び鈴で呼んだ。


 いつものように20秒後にアインが部屋の中に入ってきた。


「アイン、工事作業用の自動人形のことについて聞きたいんだが?」

「はい。何でしょうか?」

「アレの稼働限界と、補給? そういったものを知りたいんだ」

「工事作業用の自動人形の場合、作業強度にもよりますが、10日から20日で稼働限界を迎えます。

 作業限界を迎え完全停止した状態でも休眠装置で24時間休眠することで元通り連続作業できるようになります」

 なるほど休眠装置というのが充電器のような役割を持つんだな。

「工事作業用の自動人形とその休眠装置に予備ってあるのかな?」

「工事作業用の自動人形は現状全て稼働しているため予備はありませんが、製造は可能です。

 休眠装置は予備があります」


 10日で1日休むとすると、休眠装置1台当たり10体の自動人形に元気を注入できるということだな。

「自動人形はそうやって作業と休眠を繰り返したとして、どれくらいで動かなくなるんだ?」

「休眠装置で休眠することで内部の不具合等も修復されるため半永久的に稼働します」

 自動人形については休眠装置さえあればメンテナンスフリーと考えていいようだ。

 となると、大切なのは休眠装置だな。


「休眠装置を稼働するためには何か必要なんじゃないか?」

「はい。カイネタイトと呼ばれる鉱石を粉末状にしたものを特殊な条件下で円盤状に焼成したカイネタイトディスクと呼ばれる物が必要になります」

「そのカイネタイトディスクはそのうち取り換えないとならない?」

「使用頻度などによって前後しますが3年から5年ほど経過すると急速に劣化するため、その辺りで取り換えます」

「そのカイネタイトは簡単に手に入る?」

「はい。カイネタイト鉱山で採掘することで容易に手に入ります」

「ということは、休眠装置も簡単に製造できるし、カイネタイトディスクを取り換えることで休眠装置自体も稼働し続けられるということか?」

「はい」

「カイネタイトの埋蔵量は?」

「正確なところは分かりませんが、現在採掘中の鉱体の直径は50メートル、高さ200メートルあります。そのうちまだ数パーセントも採掘していません。

 現在、同様の鉱体が付近に数カ所見つかっていますので、実質的に無尽蔵と考えて良いと思います」

 すごいな。大々的に自動人形を売り出しても何の問題もなさそうだ。

「だいたい分かった。昼食が終わったら自動人形を1体作ってくれるか?」

「はい。予備の休眠装置も用意しておきます」

「頼んだ」


「マスター、そろそろ昼食の準備が整った時間です」

 時計を見たら12時5分前だった。


 書斎を出て食堂に入ったらまだミアはやってきていなかったが、すぐにやってきた。

 ミアが席に付いたところで16号によってワゴンが運び込まれテーブルの上に料理が並べられていった。


 今日の昼食はビーフシチューに各種の焼き立てのパン。トマトとレタスとマスの薄切り、おそらくマスのマリネの載ったサラダだった。

 それに俺にはコーヒーが付いていた。ミアには紅茶のようだった。

 お子さまにはコーヒーは苦いかもしれないからな。

 コーヒーだけなら俺も砂糖とミルクを入れる派なんだが、食事中だとブラック派だ。というか、今日からブラック派になった。


 ビーフシチューの中のビーフが大きくて柔らかくてとってもおいしゅうございました。

 シチュー中に入った野菜も大きく切ってあるけど味がしみ込んでおいしい。

 シチューにまだ温かくて柔らかいパンを浸して食べるとこれもまた絶品だった。

 食事中コーヒーを飲んだことは今まであまりなかったのだが、おいしかった。

 俺が持ってきたインスタントコーヒーのハズなのだが俺がうちで勝手に飲んでるインスタントコーヒーと比べて全然味が違うのだ。

 銘柄は同じはずなのになぜだ!?

 何かインスタントコーヒーをおいしく淹れる秘訣があったということなのだろうか?


 シチューを一度お代わりしてシチュー皿に残ったシチューをパンですくってシチューはお終い。


 ミアが食べ終わったところでデザートが出された。

 昼食のデザートは、イチゴのムースだった。もちろん俺はムースなる言葉は知らなかったのだが16号に聞いたら教えてくれた。ひとつ賢くなった。

 

 俺の横で小皿の上のハチミツを食べて満足していたフィオナにイチゴのムースのソース部分をスプーンですくって小皿の横の辺りに入れてやったら、その中に手を突っ込んで食べ始めた。

 かなり好みの味だったようであっという間に全部食べてしまって俺の方を見るのでまたすくって入れてやった。

 それを食べたところでさすがにお腹いっぱいになったようで小皿から離れて、テーブルクロスの上に座り込んだ。


 ミアもフィオナのその様子を見ていて『○#&』とか言っていた。おそらく『かわいいー』と言ったのだろう。


 かわいいは正義というのは全世界共通概念だという実例だな。




[あとがき]

最初休眠装置の動力はモンスターの核にしようかと思ったんですが、いろいろ面倒そうなので、カイネタイトディスクとしました。カイネタイト、カイネタイトディスクは、

『真・巻き込まれ召喚。~』のヒロイン、アスカの誕生から第1文明崩壊までを描くSF『ASUCAの物語』(全42話、11万字)https://kakuyomu.jp/works/1177354054916821848 から転用しちゃいました。


インスタントコーヒーをおいしく淹れる秘訣。いろんなところで書いているんですが、水で粉を溶いてから熱湯を注ぐと見違えるような味になります。ヨ。

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