第203話 ダンジョン管理庁管理局管理課6。中村結菜4、ダンジョンデビュー


 時間が少し遡って6月、月初日の午後。

 場所はダンジョン管理庁管理局小会議室。

 小林企画課長と山本課長補佐そして河村課員がミーティングを行なっていた。


「昨日魔法封入板のオークションは無事終了しました」と、昨日のオークションにオブザーバーとして出席していた山本課長補佐が報告した。

「山本くん昨日はご苦労さま」

「どうも。

 オークションへの参加人数は98名。案内を出した99名のSランク以上の冒険者のうち参加しなかったのはSSランクの長谷川くんただひとりでした。Sランク冒険者は全員万障を繰り合わせ参加したようです」

「長谷川くんは出展者のようなものだし当然だが、最低金額がかなり高額だったにもかかわらずSランク冒険者たちはみな魔法に興味があったようだな」

「各チーム、攻略に行き詰っている中での打開策になり得ることも大きいですから。

 これが落札価格です」

 そう言って山本課長補佐が小林企画課長と河村課員に1枚のペーパーを配った。

「この価格をもとに正式販売価格を決定し、3カ月後、9月1日より販売を始めます。

 落札価格から3カ月分の先行料を差し引いた価格が正式販売価格ということになります。

 数に限りがあるものですから購入は予約制で、魔法封入板の種類毎に昨年12月末時点での累計買い取り額順位に基づき販売します」

「了解した。

 ほかに何かあるかな?」


「はい。サイタマダンジョンセンターから連絡があったんですが、長谷川さんがゲートキーパー並みの核を182個持ち込んだそうです」と、一郎担当の河村課員が報告した。

「どういうことだ? しばらく長谷川くんからの持ち込みが途絶えていたそうだがその間にゲートキーパーを182体撃破、つまり182階層分潜ったということかね?」

「いえ、長谷川さんもゲートキーパーを撃破したとは言ってなかったそうですし、その182個についてはほとんど同じ大きさだったそうで、おそらくどこかの単一階層でモンスターをたおしたものと思われます」

「ということは、彼は現在、ゲートキーパー並みのモンスターがうようよいる階層で単独行動しているということか?」

「はい。そうだと思います」

「もはや、人間離れしているってレベルじゃないな」

「本人に詳しいことを聞いてみましょうか?」

「本来自由である冒険者の行動についてわれわれが立ち入り過ぎてもな」

「了解しました。

 それと、長谷川さんの例の果物の件ですがどの果物も長谷川さんのいう効能が顕著に***確認されたようです」

「そうだろうな。

 ところで、いちおう生ものだから扱いはモンスターの肉類と同じになるのかな」

「おそらくそう思いますが、日持ちが異常に良いようです」

「ほう。モンスターの肉も日持ちがいいがやはりダンジョン産のものは植物でも日持ちがいいというわけか。商品性が高まったわけだ」

「はい。

 長谷川さんから買い取った場合、ダンジョンセンターから都内のデパートなどに卸してもらうことになるのでしょうが、量が限定された商品ですから相当高額になるものと思われます」

「だろうな。冗談ではなくリンゴ1個で10万はするだろうなあ。効能が人づてに伝わってくれば1個50万もあり得る」

「ですね」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺は結菜のダンジョンデビューに付き合ってうちの近くの停留所からバスに乗りサイタマダンジョンセンターに到着した。

 現在は結菜とふたりで武器屋の中で武器を物色している。


 並べられた武器を見ながら結菜が俺に聞いてきた。

「やっぱり刃の付いた武器は高いんだね。

 一郎は何使ってるの?」

「俺は大剣とメイス2本だな」

「何それ?」

「大剣はちょっと手強いやつ用。普通はメイスを1本だけだ。

 雑魚モンスターが沢山いたらメイスを右左に1本ずつ持って2刀流だ」

「訳分かんないこと言わないでよ」

「一度に10匹くらいを相手にするときメイス1本だと5秒近くかかるが2本だと3.5秒で済む」

「ますます訳分かんないじゃない」

 訳が分からない。と、言われたからちゃんと説明したんだが。


「俺のことはどうでもいいけど、結菜はどういった武器を使いたいんだ?」

「最初はカッコよくレイピアみたいなのを考えてたんだけど、そんなの売ってないようだし、短剣でもすごく高いし」

「個人の自由ではあるが、一番面倒のないのはメイスだぞ。

 刀剣類や槍とかの長物、弓なんか、どれもなんとか術とかなんとか道ってあるだろ?」

「うん。あるね」

「つまり、それだけ専門性というか技術があるってことだ。

 だけど打撃系にはそういったものはないんだ。メイスを例にとってもメイス術とかメイス道とかないだろ?」

「確かに聞いたことない」

「打撃武器はややこしい技術とか抜きで、とにかく正確に、速く、力強く振るだけなんだよ。そこはテニスのサーブと同じだろ?

 もちろん極めるのは大変だけど、正確でもなければ速くもなくヘナヘナの素人が扱ってもそこそこの威力がある優秀な武器だ」

「でも見た目がねー」

「テニスのラケットだってメイスの先が大きくなったようなもんじゃないか?」

「全然違うよ!」

「そうかー? 俺にとっては同じに見えるけどなー。それで結局どうする?」


 俺たちは歩きながら長物のコーナーを過ぎて弓などを売っている遠距離攻撃武器のコーナーに来ていた。

「クロスボウってどうだろ?」

「威力はある程度あると思うが、ソロだと一撃で仕留めないと後がないぞ」

「あっ、そうか。

 じゃあ、さっき通り過ぎちゃったけれど、孫悟空みたいな棒はどうだろ?」

「悪くはないと思う。2階層だと坑道の中だから取り回しが難しいと思うけど、Aランクの1階層ならその心配はまずない。

 杖術を極めるとなると大変だが、打撃武器として使う分には正確に、速く、力強くの大原則があるだけだしな」

「杖術ってつえだよね? それで棒を扱うの?」

「長いの限定だと棒術とも言うようだが、杖術は短いのから長いのまで扱うようだぞ。短い杖を使うくらいならメイスの方がよほど有効だからこの店では短いのは置いていないんだろ」


 結局話しているうちに俺たちは打撃武器コーナーにやってきた。

 そこで結菜が、ハンマーヘッドの片側が尖って、片側が普通の形をしたハンマーを指さし、

「これカッコよくない?」と、聞いてきた。

「そうだなー。メイスと違ってハンマーには方向があるから若干扱いが難しいけど、テニスやってた結菜なら問題ないはずだから、それでもいいんじゃないか」

 値段も手ごろのようだ。

「ちゃんと持ってみろよ」


 結菜がハンマーを右手に持って軽く振ってみた。

「ちょっと重たいかな。テニスラケット基準だから当たり前か」

「打撃武器なんだからある程度重くないとな。

 大型ハンマーじゃないけれど持ち手もある程度長いから両手で扱ってもいいんだし、それでいいんじゃないか?」

 結菜はハンマーを両手で持って軽く振った。

「これならいいみたい。テニスだとラケットを両手持ちで上から振り下ろすことってないけれど、両手打ちは普通にあるし」

「それでどうする?」

「じゃあこれにするかな」


 結菜がそのハンマーを持ってレジに向かったので俺も後からついていった。

 結菜は代金を払った後、店員から武器預かり所での登録について簡単な説明を受けた。


「登録はいつしてもいいから、帰りに武器預かり所で預かってもらう時に登録すればいいだろ。そのとき俺のナイフも結菜の名まえで登録してもらう」

「分かった」


「武器の用意もできたからダンジョンに入ろう。

 ところで昼食の用意はどうなってる?」

「お弁当用意した。

 一郎の分もあるから安心して」

「サンキュ」

 俺は予備食料をタマちゃんに預けているから何も問題ないけれど、俺の分まで用意してくれているなら有難い。


「それで、一郎はリュックしかないみたいだけど、武器は持たないでいいの?」

「ああ。問題ない。

 俺がモンスターを見つけるから、結菜がたおしてくれ」

「分かった。頑張ってみるよ」


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