第197話 シュレア4、掃除
反社の男たちに追い詰められてしまった俺は、ちゃんとした会話をするため代表者1名を残して残りの方たちにお帰り願うことにした。
俺は無造作に男たちの方に歩いていった。
4人の子分たちは腰が引けて後ろに下がりたいような顔をしていたが、兄貴分が怖いのかその場に立っている。
彼らにとっては未知の俺より既知の兄貴の方が怖いということなのだろう。
兄貴のメンツもあるだろうから、残すのは兄貴でいいか。
ローブの男は既に兄貴の後ろに下がっている。魔術師なのだろうが何気に動きがいい。
俺が後3歩歩けば前衛4人の短剣の間合いに入る。
それにもかかわらず、兄貴は何の指示も出さないものだから前衛4人が困っている。
1歩。短剣を持つ前衛4人の手に力が入った。
2歩。4人が自分の好みの型で短剣を構え直した。
3歩。たまらず4人のうちの真ん中の2人が切りかかってきた。
俺は俺から見て左側の男が振り下ろす短剣を避けながら男の短剣を握る右手首を左手でつかんで少し力を入れ、右手で男の手から短剣の柄を奪い取り、ついでに軽く前蹴りしてやった。
それだけで男は吹っ飛んで行った。内臓破裂はしていないと思うが確証はない。
次に奪い取った剣で、もうひとりの男が斜めから切りかかってきた短剣を弾き飛ばしてやり、前蹴りした脚でそのまま回し蹴りを男の腰に決めたらこっちも吹っ飛んで通りに面した倉庫の壁にぶつかって動かなくなった。
剣を持っているのはあとふたり。兄貴は武器を隠し持っているかもしれないが今のところ持っていないように見える。
刀なら峰打ちとか言って骨折程度で済ませる事ができるがあいにく奪い取ったのは両刃の短剣だったのでそこまではできない。
この国の医療技術だか回復魔術の水準がどの程度か知らないが、部位欠損の回復は不可能か可能だとしても簡単ではないだろうから、残りの連中も武装解除した上で蹴飛ばす程度にしておくか。
次に俺に切りかかってきた男の短剣を奪った短剣で弾き飛ばそうとしたら、俺の短剣は鈍い音立てて刃先から3分の1くらいのところで折れ飛んでしまった。
折れた時の音がおかしかったから最初からヒビが入ってたんじゃないか?
商売道具なんだからもっと上等な短剣を用意して、日々手入れしておけよ。
ちゃんと手入れしてたらヒビくらい見つけられただろ!
俺の短剣を折った男は、俺の短剣が折れたことを好機と思い再度俺に切りかかってきた。
実力差が分からないからこそ切りかかってきてくれたわけだ。
俺は手にしていた折れた剣を捨て、振り下ろされた短剣を最初の男同様に奪い取って、ついでにその男の下腹部を軽く前蹴りで蹴飛ばしてやった。
軽く蹴ったはずだが何かが壊れる音が靴底から伝わってきた。手加減が一番難しい。
短剣を持っているのはあとひとり。
俺が短剣を持った最後の男に近づいていったら、男は後退りした。
いい判断と思うが、兄貴がその男に向かって『何してる、切りかかれ!』と叱咤激励したものだから男は覚悟を決めたか短剣を振りかぶって俺に切りかかってきた。
力みかえっていようがそうでなかろうが俺にとっては大差ないのだが、肩に力が入って素人丸出しの剣の振りだった。
俺はバカらしくなって一歩前出ながら剣をかわし、男の頬を左手ではたいてやった。
男は顔を90度回転させ剣を握ったまま横に吹っ飛んでいき、通りの上で動かなくなってしまった。
横向きのむち打ちになったかもしれない。
残りは兄貴とローブの男なのだがローブの男の位置取りが明らかにおかしい。
わずかな時間で兄貴からだいぶ離れた後方に位置している。逃げる気満々のようだ。
こいつはもう放っておいていいだろう。
俺はエラそうに命令していた兄貴に近づいていった。
兄貴の顔は少し蒼くなっているようだが、健気にもその場に立っている。
その代りローブの男は俺が1歩前に出るとその2倍後ろに下がる。こいつホントにできる。
「お前、俺と話がしたいだろ?」
俺は兄貴に向かって低めの声でたずねた。もちろん日本語でだ。
俺が何を言ったのかは理解できなかったと思うが、これは相当マズい状況だということくらい理解できたはずだ。
男が何か言う前にローブの男が「俺は応援を呼んでくる」
そう言ってくるりと回れ右して走っていった。できる男は違う。
兄貴はそれに対して何も言わず俺の方を見ている。
俺はさらに兄貴に近づいていった。
もうお互いの手が届く範囲なんだが兄貴は立ったままだ。
こいつ、実力差を悟って、抵抗は無駄だと分かったのか?
そしたら男がいきなり俺に向かって「す、済まねえ。あんたがここまでの男とは知らなかったんだ。この通りだ。許してくれ」
男はその場でしゃがんで膝をつき手をついて俺に頭を下げた。これって土下座じゃね?
異世界の地でこれを見るとは思わなかった。
しかし、この期に及んで土下座ができるこの身の軽さは見上げたものではある。
俺は兄貴と会話するため白銀のヘルメットをかぶせようとヘルメットに手をかけたら兄貴がいきなり立ち上がり、立ち上がりざまにナイフを俺の腹に向けて突き出してきた。
俺の防刃ベストは人力程度では刃物は貫通しないはずだが、表地はそうでもない。
俺はとっさに男のナイフを短剣を持っていない左手で掴みそのまま力を入れたらナイフがバキバキと折れた。
防刃手袋をしていなかったのだが俺の手は無傷だった。結果オーライだったけど俺は逆に自分のことが心配になってしまった。
俺は左手の手のひらに残ったナイフの刃の残骸を振り捨てて、その手で兄貴が着ていたシャツの首元を掴んで引き上げた。
このままでは白銀のヘルメットを外せないので、タマちゃんの偽足に手伝ってもらって何とかヘルメットを外し、怯えた顔をした兄貴の頭にかぶせてやった。
俺を殺そうとした渾身の一撃が文字通り握りつぶされたんだから怯えもするよな。
「おーい、俺の言葉が分かるだろ? 分かるなら頭を縦に振れ」
兄貴は素直に頭を縦に振った。
「俺にちょっかい出すな。今度俺にちょっかい出したら文字通り皆殺しにするぞ」
再度兄貴は頭を縦に振った。
俺は兄貴の首元から手を放し、兄貴から白銀のヘルメット外してから兄貴を蹴飛ばしてやった。
兄貴は面白いように吹っ飛んでいきそのまま通りの上で大の字に伸びてしまった。
向うから仕掛けてきたことは事実だが、素人同然の連中に対してやり過ぎてしまった感じがしないでもない。
身に覚えは全くないのだが、俺ってどこか精神的に抑圧されていてそれが今噴出したってことはないだろうか? 自分ではわからない問題を考えても仕方ない。
白銀のヘルメットをかぶり直して時計を見たらまだ9時半だった。
今日もまた濃い1日になるのだろうか?
港も海も十分堪能したので、ここにいても仕方ない。
何もすることも無くなってしまったから、館での食生活向上のために食料品の買い出しに行くとするか。
俺は白銀のヘルメットを外してタマちゃんに預けてうちの近くの大型スーパーの近くに転移した。
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