第190話 28階層6
幽霊の呪い攻撃のようなものを受けた俺は右手の指を5本とも失くしてしまったのだが、万能ポーションのおかげで全快できた。
今回も運がよかった。
万能ポーションを持っていなかったら、呪いで腐っていく範囲が広がらないよう手首の辺りから自分で手を切り飛ばさなければならなかった。
ヒールの魔術があるから止血出来て傷口もすぐに塞がるだろうが、俺の右手がなくなってしまっていたら母さん泣くだろうな。
そうならなくてホントに良かった。
部屋の中にはまた銀の宝箱があり、開けたところ、中にはポーション瓶が入っていた。
鑑定したら万能ポーションだった。
親切設計だったようだ。
これからもお世話になりそうな万能ポーションの在庫が減らずに助かった。
この部屋の中には、入り口も含めて4方向にひとつずつ扉があったので順に開けていくことにした。
最初は右の扉。
手をかけて押し開いたところ、部屋の真ん中には例の腰ミノと棍棒の赤鬼が立っていた。
俺はクロを引き抜き赤鬼に向かって突撃し、クロあらためクロちゃんを一閃しそして通り過ぎた。
棍棒を振り上げようとしていた赤鬼の右腕ごと首を切り飛ばしてやった。切断された赤鬼の頭は床に転がり、赤鬼の腕と首の切断面から血しぶきが上がった。
背中の鞘を左手で横に倒して軽く血振りしたクロちゃんを鞘に戻し最後に鞘の向きを調整した。
よく考えたら、この赤鬼いつ生れたのか知らないが、生れてから俺がこうやって目にするまで部屋の内側だけ眺めて生きてきたことになる。
生き物を初めて目にしてゼロコンマ数秒後には致命傷を受けていた。
ある意味、哀れなヤツではある。
哀れついでにタマちゃんに処理してもらい核に変身してもらった。
赤鬼の後ろにあった銀の宝箱の中身も万能ポーションだった。万能ポーションはありがたい。
この部屋は入り口しか扉のない行き止まりの部屋だったので、元の部屋に引き返して次の扉を開けた。
部屋の中にいたのは巨大ナメクジだった。
そのナメクジは半透明で内臓が透けて見える。
2つの目玉が俺を見たと思ったら、バシッ! という大きな音と一緒に視界が一瞬途切れてしまった。
なんらかの攻撃を受けたらしい。
とはいえ、俺自身にダメージはないようでどこも痛くもかゆくもない。
ただ、何かが焦げた臭いがする。
何をされたのか後で考えることにして、俺はお返しにウィンドカッターを放ってやった。
それだけでナメクジは上下に両断され、中のもろもろが床にこぼれ出た。
タマちゃんに処理してもらって核をリュックに入れた時気づいたのだが、俺の大事な防刃ジャケットの胸の辺りから防刃パンツにかけて幅10センチくらいが焦げていた。
さっきの攻撃は電撃だったようだ。
焦げたのはジャケットの表地だけで中身は何ともないようだけど、これは買い替えだ。もったいないことをした。
ナメクジの先には銀の宝箱があった。中にあったのは魔法盤だった。
手に持って鑑定したところ、
『魔法盤:全体魔法スローが刻まれており、破壊することでスローを習得する』
全体魔法ということは、群れに対して有効ってことだな。
今の俺の高速性能から言って、あまり使うことはないかもしれないが、いちおう覚えておくか。
俺は手にした魔法盤を両手で折った。
これでスローを覚えた。はず。
この部屋には扉の正面にも扉があったのでその扉に手をかけて開けたところ、部屋の真ん中に金属製に見える鎧を着たスケルトンが3体立っていた。26階層のスケルトンとは違って3体とも人の骸骨に見える。
その3体は3体とも幅広の剣と金属製の丸盾を持っていたがヘルメットは被っていなかった。
そいつらが俺を見るなり剣を振り上げガシャガシャ音を立てて向かってきた。
26階層の爬虫類スケルトンと比べて動きがかなりいい。
ちょうどいい。
3体に向かってスローを意識したら、3体ともホントに動きが緩慢になってしまった。
俺はクロちゃんを引き抜いて順にスケルトンの首を刈ってやった。
床に落っこちたスケルトンの3個の頭は3個とも砕けて中から核が転げ出てきたので拾ってリュックに入れた。
頭の無くなったスケルトンは鎧ごとバラバラになって混ざってしまった。
たいしてお金になりそうもないし面倒だったのでスケルトンの装備は回収しないことにした。
その代りスケルトンが最初に立っていた場所には久しぶりに金の宝箱があった。
さーて、何が出てくるかなー?
金の宝箱の中に入っていたのはまた魔法盤だった。
鑑定したところ、
『魔法盤:全体魔法解呪が刻まれており、破壊することで解呪を習得する』
これで、アンデッド系や幽霊系は一撃でたおせるはずだ。さらに俺が呪いを受けた時、俺を解呪すれば呪いを打ち消せるはず。
さっきみたいに腐ってしまった指は治らないのだろうが、呪いのせいで腐っていく範囲が広がることは食い止められるのだろう。
さすがは金の宝箱だ。いいものが入っている。
俺はさっそく魔法盤を折って解呪を覚えた。はず。
宝箱というのは正月の福袋みたいだ。高い福袋の中にはいい物入ってるものな。
この部屋は行き止まりだったので、ふた部屋戻って最後の扉に手をかけた。
扉を開けたところ、部屋の中にはあの幽霊がいた。
何かされる前に解呪を意識したら幽霊は絶叫しながら消えていった。
解呪、スゴイ。金の宝箱に入っていただけのことはある。
幽霊のいた場所の床の上には核が転がっていて、その先には銀の宝箱があった。
核を拾い上げてリュックに入れた。これでちょうど40個の核を手に入れたことになる。
そして、銀の宝箱の中には万能ポーションが入っていた。
時計を見たら11時50分だったし、この部屋は行き止まりだったので館に帰ることにした。
大収穫だった。
館の書斎に転移したらアインが待っていてくれた。
『マスター、昼食の用意はできています』
俺はタマちゃんの入ったリュックを下ろしてから武器を外していき、それからヘルメットと手袋を外して焦げてしまった防刃ジャケットも脱いで椅子の背にかけておいた。
そのあとリュックの中から核を取り出して机の上に並べていった。
全部で40個だけどひとつひとつがソフトボールくらいの大きさなのでかなりの量になる。
「これも使ってどんどん自動人形たちをレベルアップしてくれ」
『かしこまりました。
入れ物に入れて作業場に運びます』
俺は入れ物を取りに行くアインと一緒に書斎を出て途中で別れて食堂に移動した。
食堂までの途中の洗面所で手を洗って、いつもの席に着いたらすぐにミアもやってきていつもの席に付いた。
すぐに料理が運ばれてきた。
今日の昼食のメニューは、
具だくさんのクリームシチューとサラダ。サラダの上にはローストビーフのようなものがのっかっている。ドレッシングはフレンチ風のものとクリームタイプのものが置いてあった。
それにバターロールとスライスされたライ麦パン。それにバターとジャム数種類、そしてハチミツ。
飲み物はグラスに水と、オレンジジュース。
水は治癒の水だった。
鑑定指輪ははめたままだったので『治癒の水』を鑑定したところ、
『治癒の水:傷病を癒す。欠損部位の再生はできない。特殊な病気は治癒できない』
なるほど。特殊な病気以外は治ると考えていいわけだ。ダンジョン庁の河村さんの話だとガンが治ったらしいから、ガンでさえ特殊な病気ではないということなので、特殊な病気はホントに特殊な病気なのだろう。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
おっ! ミアの『いただきます』のイントネーションはちゃんとしていた。ほんの数時間でここまで進歩したのか。スゴイじゃないか!
フィオナにハチミツをやってから温かいシチューをスプーンですくって口に入れた。
おいしー。
ミアはシチューをすくったスプーンをフー、フーしてから口に入れていた。
それでも熱ーい。って顔をするのがかわいい。
シチューはパンに付けてもおいしそうだったので俺はライ麦パンをちぎってシチューをつけて食べたところ、ライ麦パンの独特の酸味がシチューにあっていた。これはうまい。
ミアも俺の真似をしてライ麦パンを小さな手でちぎってシチューをつけてもぐもぐした。
これだとフーフーしなくて済むものな。
合間に葉野菜をローストビーフでくるんで口に入れた。かけたドレッシングはフレンチ風の方だ。
ローストビーフが柔らかいので野菜と一緒に簡単にかみ切れる。
どこでどうやって仕入れているのか分からないが、高級牛肉のようだ。
……。
食が進む、食が進む。
ミアの前に並べられた量は俺の半分より少し多いくらいだったが、食べ終えたのは俺の方が少し早かった。
ミアが完食したあと、桃が出された。
俺が持ってきた桃だ。
鑑定したらやっぱりそうだった。
『活力と癒しの桃:疲れを癒し、気力も充実する。中程度の傷病を癒す』
ミアは桃をひと切れ食べたらお腹いっぱいになったようだ。
俺は3切れ、桃の半分でお腹がいっぱいになってしまった。何せデカいから。
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