第189話 28階層5、鑑定
フィオナとタマちゃんの鑑定を終えた俺は『ほんとに人間なのか』とか、『異常』だとか、『人外』とか言われていたので俺自身を鑑定することにした。
人間が人間であることの哲学的証明はあっちに置いて、鑑定すれば白黒はっきりする。
ちょっとドキドキしながら俺自身を鑑定するよう意識を向けた。
『名まえ:イチロー・ハセガワ
種族:ヒューマン
種族特性:全ての能力が平均的。
変異体特性:全ての能力が種族の平均値を大きく上回る。物理耐性、魔法耐性、ともに高い。
次の進化先:不明
称号:フィギュア男、人外、ドラゴンスレイヤー』
ヤバい! 俺ってジェニュインの人間じゃなかった。
将来人間と結婚して子ども持てるんだろうか?
ネアンデルタール人とホモサピエンスは交雑してたって話もあるから問題ないはず。だよな?
新人類というわけでもなさそうだからセーフ。と思いたいのだが、次の進化先がなし。ではなく不明。
フィオナの場合、次の進化先は不定(進化までの行動に左右される)だったから、それより可能性は低いんだろうけど、これって将来的に何かに進化する可能性があるってことだよな。
羽が生えるとかうろこが生えたりして外見が大きく変わるとすごく困るんですけど。
まあ、ダンジョンに長いこと潜っていたらだれでも
俺を鑑定するヤツなどいないから、まあいいや。どうしようもないし。
なにごともテイク・イット・イージー。
この部屋は入り口しか扉がなかったので、次の部屋だ。
通路に戻った俺は次の部屋の扉に手をかけて押し開いたところ、部屋の中にはカニがいた。
まだディテクトトラップの効果は続いているはずだが、念のためディテクトトラップを発動したが床の上に赤い点滅は現れなかった。
カニの甲羅の大きさは2メートル。
爪の大きさが大きい方で1メートル。
小さい方で50センチ。
そいつが突き出たふたつの目玉で俺の方を見ている。
これほど大きくなければ食欲も湧くのだが、ここまでデカいとあまりおいしそうには見えない。
シロでなぎ払ってしまうと核が消えてしまう可能性が高い。このシロ、すごい武器だが何気に使いづらい。
俺はシロの代わりに背中からクロを引き抜いてカニに向かって突っ込んで行った。
俺にバフ効果がまだ続いているからかもしれないがカニは図体どおり動きが鈍いようだ。
すえもの切りの感じでクロを振るったところ、硬そうに見える外殻など関係なくクロは何の抵抗も受けず、カニの爪や脚をスパスパ切り飛ばし、最後にカニの甲羅の真ん中を縦割りしてやったらカニは左右に両断されて床の上に伸びてしまいそのまま動かなくなった。
カニの立っていた後ろにちゃんと銀の宝箱があった。
開錠魔法を意識してふたを開け中を見たら、クロ板が出てきた。
この階層でもクロ板が出てきたとは驚いた。
さっそく鑑定だ。
『魔法盤:レビテートが刻まれており、破壊することでレビテートを習得する』
クロ板の本当の名まえは魔法盤だったか。レコード盤という名まえもあることだし、しっくりくる名まえだ。
さて、レビテートというと、空中に浮かぶというか床にタッチせずに歩けるって事だろう。
となると、床設置型の罠は無視していいってことだな。
さっそく試して見よう。
俺は、レビテートの魔法盤を両手を使って折ったところ、今までのクロ板と同じで簡単に折れ砂のように崩れてそのうち消えていった。
今回も何かが変わった自覚はなかった。
それでも床から足が浮き上がることを意識したら床の上に空気の壁ができたようになって靴の裏が床から少し浮き上がった。
空気の層だから足が滑って踏ん張りがきかないか。と、いうとそうでもなく、しっかりした床の上と同じように足に力が入る。
これなら罠を踏むことない。
さらに言えば雪の降った翌朝、凍った道なんかでも滑らずに済む。実生活でも重宝しそうだ。
カニの死骸は食欲をそそるような感じではなかったのでタマちゃんに処分してもらって核だけ受け取った。
この部屋には入り口の向かいにも扉があったので、開けてみた。
次の部屋の中にいたのは緑色のスライムだった。
床には赤い点滅がいたるところにある。
レビテート中の俺にとってはちょうどいい。
俺は赤い点滅を無視してスライムに向かって突っ込んで行った。
スライムがゆっくり変形してこちらに向けて盛り上がってきた。
構わずクロで切りつけたら、スライムはそのまま潰れて緑の液体になった。
床に広がった緑の液体からかなり強い刺激臭が立ち上ってきた。
スライムの色が色だったので、猛毒を持っていた可能性もあるし現在進行形で部屋の中に広がっている刺激臭も猛毒の可能性があるのだが、今のところ俺は何ともない。スライムを切りつけたクロもなんともない。
肩に止まっているフィオナが心配だったけれど、顔を見たらニッコリ笑ったのでだいじょうぶなようだ。
タマちゃんはなんでも食べるわけだから毒も毒ガスもだいじょうぶだろう。
そう思っていたらタマちゃんの偽足が伸びてスライムの体液で濡れていたクロの表面を拭いてくれた。
サンキュウ、タマちゃん。
俺は床に転がったスライムの核をタマちゃんに拾ってもらい表面をきれいにしてもらってリュックに入れた。
そのあとスライムの後ろに隠れていた銀の宝箱を開けた。
宝箱の中から出てきたのは万能ポーションだった。
取るものを取った俺は急いでその部屋から撤退して扉を閉め、念のため解毒魔法を意識しておいた。これで問題ないだろう。
さっきの部屋は行き止まりだったので、俺は通路に戻って次の部屋の扉に手をかけた。
力いっぱい扉を開けたら、部屋の真ん中に大きな宝箱がひとつ鎮座していた。
それを見た俺は半分笑いながらタマちゃんに処理してもらい、核を手に入れた。
今の擬態モンスターはかわいそうになるくらいモブだった。
部屋の中は空になったし、入り口以外の扉のない部屋だったので、通路に出た俺は次の扉に手をかけた。
今度の部屋の真ん中にいたのはぼろをまとったスケルトンだった。ただこのスケルトン、脚の部分が下に行くほど薄れていて、床に付いているはずの足が見えない。
どう見ても幽霊だ。
うごめく黒い影を吸収できたタマちゃんに頼んでも良かったのだが、何でも切ることができるクロで斬ってやる。
俺はクロを構えて突っ込んで行ったら、そいつは俺に向かって右手を上げた。
俺は構わず、幽霊をクロで袈裟切りにしてやったら、幽霊は横隔膜に響くような悲鳴を上げながら消えていった。
幽霊がいた床の上には核がゴロンと転がっていた。
俺は核を拾い上げ後ろ手でリュックの中に放り込んだ。
そこまでは良かったのだが、核を持った俺の右手がどうもかゆい。
右手の手袋を外したところ、5本の指全部の指先が黒ずんでいた。
マズくないか?
俺はヒールの魔術を自分の手に向かって唱えたのだが、かゆみと一緒に黒ずみは少しずつ指の付け根の方に広がってきた。
これはそうとうマズいぞ。
そうだ!
万能ポーションだ。
タマちゃんに万能ポーションをひと瓶渡してもらった俺は、左手で瓶の栓を外して一気に飲み干した。
指の付け根まで黒くなっていた俺の右手の指、5本全部が床に落ちてしまった。
痛くはなかったのだが、指が落っこちた指の付け根が猛烈にかゆくなってきた。
そこから小さな指が生えてきて、そいつがにょきにょきと伸びながら太くなりかゆみが引いたら元の指の大きさになった。
手を握ったり開いたりしてみたのだが違和感はまったくなかった。
万能ポーションの効果を試せたわけだが、こういった形で試したくはなかった。
万能ポーションを持っててよかった!
俺の指が腐ってしまったのは、おそらく幽霊の呪いか何かが原因だったのだろう。
出会いたくない相手だ。
床の上に転がった俺の指が何気に不気味なのだが持って帰るわけにもいかないのでそのままにしてしまった。
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