第188話 石像の間3、ナイフの力
俺のストーンバレットの連射で頭部の3分の2近くを失った大巨人は仰向けに倒れながら自分が座っていた巨大な椅子を巻き込み、その椅子と一緒に砕けてしまった。
今さらどうでもいいことだが大巨人も他の巨人同様死んでしまうと脆くなるようだ。
こいつらがいわゆるモンスターだったのか不明だが、モンスターだったら核があるだろう。
タマちゃんが巨人の頭を吸収しても核はなかったようなので核がない可能性が高い。
それでも試しに1体分の巨人像をタマちゃんに収納してもらい核を探してもらったが核はなかったようだ。実にけしからん。これではタダ働きじゃないか!?
大広間の中の敵は全滅させたものの俺の
光っているのは俺がナイフを突っ込んだスリットだ。
イベントが進行してくれないので若干焦っていたのだが、これで一安心。
瓦礫の山の先のスリットの前まで行ったところ、スリットだけでなく、スリットから出ているナイフの
これ、どうすればいいんだ?
とりあえず、ナイフの柄を持って右左にねじろうとしてみたけれど、ナイフはびくともしなかった。
世の中には押して回すようなカギがどこかにあったことを思い出したので、俺はナイフの柄をグッと押してみたところ、スリットの周りが丸い形で奥に5センチほど引っ込んだ。
そこで俺がナイフを右に回すよう力を込めたら、簡単にナイフが90度回り最後にカチッとスリットの奥の方から音がして、赤く光っていたものが今度は青い光になった。
これで何かをクリアしたはずなので、イベントが進行するハズなのだが。
俺は数歩後ろに下がってスリットのある壁をざっと見回したのだが何も変化はないようだった。
振り返って大広間の中を眺めても、扉は閉まったままだしイベントが進行している気配は何もない。
何とかしてくれよ。
俺はナイフを90度左に回して元の位置に戻したところ、今までキッチリはまっていたナイフが緩んだ。
緩んだ以上ナイフを引き抜いた方がいいような気がして、試しに引いたらナイフは簡単に引き抜けた。
引き抜いたとたん、青く光っていたスリットの周りの光が消えてしまった。
その代り引き抜かれたナイフの刃が全体的に青く光っていた。
なんだ?
ナイフがレベルアップしたのか?
取りあえずナイフを鑑定してみたところ、鑑定結果は相変わらず「片刃のナイフ」だったのだが、鑑定を意識したと同時に俺の頭の中にアインのテレパシーとは違うのだが意味のある声?が響いた。
いわく。
『なんじ、ナイフの力を使うや?』
ナイフの力?
何だかわからないが、使わないと答えればそれでお終いだろうから使った方がいいだろう。
俺はその問いに肯定の意志を込めてイエスと頭の中で答えた。
『ナイフの力は解放された』
その声?と同時に俺が手に持っていたナイフは光を失い、クロ板を折った時のように手の中で砂のように崩れて、床の上にこぼれていった。
床の上に積もった砂は見てるうちに消えてしまった。
それと同時に大広間の扉が勝手に開いた。イベントは終わったということなのだろうが、ナイフが消えただけで何も起こらなかった。
いったいこの大広間でのイベントは何だったんだ?
おっかしいなー。
俺は先ほど頭の中の言葉を思い出していた。
『ナイフの力を使うや?』
『ナイフの力は解放された』
ナイフ自身は砂になって、その砂もやがて消えてしまったわけだからナイフは解放されたのかもしれないが、あの言葉は『ナイフ』ではなく『ナイフの力』が解放されただった。
少なくとも俺はナイフの力を使った。
そして、その力が解放された。
何かに作用するのが『力』だとすれば、力が解放されれば、なにがしかの変化がどこかに起こったと考えていいはずだ。
扉が開いたのが変化と言えば変化ではあるが、それだけではあまりにも寂しい。
この部屋の中では扉が開いた以外に目立った変化はなかった。
となると、変化したのは、この階層のどこかなのか?
俺はこれ見よがしにお帰りはこちらとばかりに開いた扉に向かった。
扉の先には来た時と何か違った景色が広がっているかも? と、少しだけ期待していたのだが、来た時と同じ一本道の通路が続いているだけだった。
今回のイベントは消化不良だがいつまで考えても分からないものは分からない。
腕時計を見たら時刻は10時半。昼にはまだ時間があるのでこの階層を調べるという意味でも、もう少し核を集めてやるか。
転移でモンスターがいるであろう石室に続く扉の並ぶ通路まで戻った俺は、まずディテクトトラップを発動させ、さらにディテクター×2を発動させた。
周囲に異常はない。
最初の扉に手をかけて開けたところ、部屋の真ん中に黒大トカゲがいた。
そして床の上には何個所か赤い点滅が見て取れた。
黒大トカゲはゆっくり口を開けてファイヤーボールを放ったのだが、驚くほど火球のスピードが遅い。
俺はクロを背中から引き抜き、赤い点滅を避けながら大トカゲに突っ込んで行った。
飛行中のファイヤーボールはあまりにも遅い。俺は余裕でかわして目だけを動かした大トカゲの横合いからクロを振り下ろした。
手ごたえがほとんどないまま大トカゲの頭は間抜けな顔をしてゆっくり床に転がった。
そのあと、ファイヤーボールの爆発が背後で響いた。
まだ力を増す魔法と素早さを増す魔法の効果が続いているみたいだ。
大トカゲの後ろには銀の宝箱があった。
先に部屋の中の罠を全部解除してから宝箱を開けたところ、中からポーション瓶が出てきた。
あまり期待はできないがいちおう鑑定してみた。
『ポーション瓶:封入されている万能ポーションを服用すればあらゆる状態異常および後天的障碍を直ちに癒す。ただし、死者の蘇生はできない』
あれ? 鑑定が詳しくなってる!
鑑定指輪がレベルアップしたのだろうか? ありがたや。
後天的障碍を直ちに癒すということは、部位欠損も治るって事だろう。
まだポーション瓶が2つあったはず。
タマちゃんに出してもらい鑑定したところ、どちらも万能ポーションだった。
次は白銀のメイス、シロの鑑定だ。
『名称:白銀のメイス
種別:打撃武器
銘:シロ
特性:攻撃を意識して振るうことで、メイスヘッドから先の球状範囲が消滅する。球状範囲の大きさは、メイスが振るわれる速度が増すほど大きくなる』
なるほど。
大剣クロも鑑定しておくか。
『名称:
種別:斬撃武器
銘:クロちゃん
特性:あらゆる敵を断ち切る。自己修復、不壊』
あらゆる敵かー。となると以前フェアリーランドにいた黒いもやも斬れるってことだよな。これはありがたい。
自己修復、不壊となるといくら硬いものを切りつけても折れない上に、どこかが欠けても元通りになるってことだろう。
これもすごい。
しかし、名まえがクロちゃんって。
物の鑑定はレベルアップしたことがはっきりしたけれど、もしかしてフィオナやタマちゃんも鑑定できるのか?
まずはフィオナだ。
いつの間にか肩に止まっていたフィオナに、俺の右手のひらに乗ってくれるように頼んだ。
俺の目の前に開いた右手の上に乗ったフィオナを見たら、羽が6枚になっていた。
知らぬ間に進化していたようだ。
さっき巨人たちをたおす前は6枚羽ではなかったはず。
巨人をたおしたことでレベルアップしたんだろうな。そう言う意味では巨人戦が無駄ではなかったってことか。
それでは、レベルアップしたフィオナを鑑定してみよう。
『名まえ:フィオナ
種族:フェアリー・クイーン
種族特性:フェアリーの進化種。プレイン・フェアリーと比べ、圧倒的に敏捷。超高速で移動可能。魔法耐性が非常に高い。物理耐性はないが、一般的な物理攻撃は命中しない。
特殊:妖精の鱗粉を振り撒くことで、対象を眠らせ、操ることができる。
次の進化先:不定(進化までの行動に左右される)』
フィオナ、フェアリークイーンに成ってるよ。しかもまだ進化するようだ。
いままで危なそうなときはリュックのポケットに避難していたけれど、これからは避難して動けなくなるより、フィオナに任せておいた方が安全みたいだな。
妖精女王のフェアは俺と話せたけど、フィオナは話ができないようなので、フェアは6枚羽根でもフィオナよりもレベルの高いフェアリーの可能性が高い。
今後フィオナが進化したら話せるようになるかもしれないということだ。
フィオナが話せるようになったら楽しいだろうなー。
次はタマちゃんの番だ。
「それじゃあ、タマちゃん。リュックから降りてきてくれ」
リュックから床に下りてきたタマちゃんを鑑定。
『名まえ:タマちゃん
種族:ゴールドグラトニースライム(グラトニースライムの変異体)
種族特性:捕食力が非常に高い。あらゆるものを捕食の対象とする。
偽足を無数に伸ばすことができる。偽足もあらゆるものを捕食できる。
絶対物理耐性を持つ。魔法耐性も非常に高い。
変異体特性:体内に物体を無尽蔵に収納できる。取り込まれた物体は時間経過しない。
次の進化先:不明』
こっちも名まえがタマじゃなくってタマちゃんだった!
それはいいが、タマちゃんはとんでもないスライムだった。
「タマちゃん、サンキュー。リュックに戻ってていいぞ」
タマちゃんは俺の防刃パンツを伝わってリュックに戻っていった。
ところで、元勇者の俺って人間だよな?
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