第179話 異邦人3
ダンジョンギルドのジェーンさんとホイマンさんとジェスチャーを交えて会話することに成功し、大金貨とゴブレットを売って金貨350枚を手に入れた。
俺が街のことを知りたいと、どう
「ここはミスドニア王国の地方都市のひとつシュレア市です。市の中心産業はここシュレアダンジョンです。
ダンジョンからもたらされる物品を買い求める商人たちや旅行者のための宿泊施設や飲食施設さらに歓楽街なども揃っています」
「市の人口は公式には10万と言うことになっていますが、実際は15万を超えているのではないかといわれています。
そういったこともあり、市内には治安の悪い場所が何個所かあります。
イチローさんほどの方ならそういった場所は雰囲気で分かるでしょうから、トラブルを避けるためにも近づかない方がよいと思います。
このギルドの面しているのがメインストリートになっています」
俺はその言葉に日本語で「ありがとうございます」と答えて頭を下げた。
意味は伝わったようだ。
「それではイチローさん、何かありましたら遠慮なくいらしてください」
武器を装備してリュックを背負った俺をジェーンさんが先に立って、事務室の出口まで案内してくれた。
ジェーンさんがカウンターの隅を上げてくれたのでそこを通ってホールに出た俺は再度頭を下げてホールの先の扉に向かった。
ダンジョンギルドを出たところ、確かに広い通りが左右に走っていて、馬車が行き来し、人の往来も多い。
俺がギルドを出たタイミングでフィオナがリュックから出て俺の肩に止まりフィギュアになった。
太陽の感じから言って大通りは南北に走っているようだ。
南北どちらに向かって歩いても良かったが、建物からいきなり外に出たものだから太陽が眩しかったせいで俺は北に向かって歩き始めた。
通りのずっと先に山脈というほどではないが青い山並みが見えた。
振り返って見ると同じようにずっと先に山並みが見えた。
どちらの山並みも数百キロは離れている感じだ。
通りに面した建物はどれも石造りで俺がかつていたあの世界より進んだ感じがする街並みだった。
腕時計を見ればまだ9時半。
昼食は館で食べると言って出てきているのでここでは食べられないが、いつでも行き来できるのでそのうちだ。
あれ? いつでも行き来できると言ったがまだここにきて転移していない。転移できなければ島流しになってしまう。
少し焦った俺は半地下要塞に転移を試みた。
問題なく転移できた。
ふう。
これで一安心だ。
畑に成った真っ赤なイチゴをひとつつまんで軽く水洗いして口に入れた。
あんまーい!
さすがに大剣は街歩きには邪魔なのでタマちゃんに預かってもらい、先ほどのギルド前に転移を試みたところこっちも問題なく転移できた。
いきなり現れた俺を見とがめる人もいなかった。
通りに出た俺は再度人の流れに乗って通りを北に向かって歩いていった。
通りには武器、防具を揃えた冒険者もいて俺の格好が特別奇異ではないと思いたかったが、やはり人目を引くようで、通り過ぎる通行人は必ず俺を振り返える。
一番目立つのは白銀のヘルメット。
これを外すと周囲の言葉が雑音になってしまうので頭から外せない。
次が防刃ジャケット。
この世界の連中からすれば超モダーンに映るに違いない。
そして、白銀のメイス。
値段的にものすごーく高級な武器に見える。
白銀のヘルメットと相まって、ビクトリアさんも言っていたが貴族かお金持ちの世間知らずのボンボンと勘違いされかねない。
それはそうと、ビクトリアさんに遭うことはもうないだろうが、もし遭ったら今回の礼をしないといけない。
ジェスチャーで意思を伝えるのは大変かもしれないけど、誠意だけは簡単に伝わるだろう。
俺がお上りさんよろしく街並みを眺めながら通りを歩いていたら、俺の10メートルほど後ろをつかず離れず尾行している人物がいることに気づいた。
スリか物取りか、はたまた人さらいか?
あまり気にすることなく見慣れぬ風景を楽しみながら歩いていたのだが、俺の後をつけてくる人数がふたりに増えていた。
こうなってくるとスリの可能性は少し下がり、物取り、人さらいの可能性が高まってきた。
何が起ころうとどうってことはないと思うが、自己防衛がどこまで許されるのか分からない以上、街中でのもめごとは避けた方がいいのは確か。
とはいうものの、俺をつけていたふたり組が歩みを速めて俺に迫ってきた。仕掛ける気か?
もめごとの方から俺に近づいてきたらどうすればいいの?
受けて立ってもいいのだが、ちょうど俺の左手に軽食屋?があったので開いていた扉から店内に滑り込んだ。
「いらっしゃい」
店番の女の子が元気に迎えてくれた。
何も言えないので、軽く会釈だけしておいた。
店の中から通りを見たら、俺を追いかけていたふたり組はそのまま店を通り過ぎて行ってしまった。
今までふたり組を背後の気配だけで感じとっていただけだったのだが、通り過ぎていったのは痩せ気味の背の高い男と太り気味の背の低い男のふたり組だった。
店に迷惑はかけないという分別は持っていたようだ。いや、単純にこの店が連中の縄張り、シノギの一軒だった可能性もある。
店に入った俺は店のシステムが全く分からないのでまごまごしてしまったがすぐに店番の女の子がテーブルに案内してくれた。
メイスをベルトから外し床に置いたリュックに立てかけて席に着いた。
白銀のヘルメットを着けたままなのだが、自分でもいたいたしい。
で、俺はこれから何をすればいいんだろ?
普通は何か注文するんだよな?
これはこれで困ってしまった。
隣のテーブルで身なりのいいおじさんがお茶を飲みながらパンケーキのようなものを食べていたので俺はそれを指さした。
「紅茶とパンケーキですね?」と確かめられたのでうなずいて答えた。
ほとんど苦労することなく注文できたのでうれしくなった。
ちょっとしたことでも幸せな気分に浸っていたら、すぐに俺の頼んだ紅茶とパンケーキがやってきた。
紅茶にはミルクポットが付いてきたので、ミルクティーにもできるようだったが、砂糖に類するものは付いていなかった。
その代りパンケーキにはイチゴジャムとバターが付いてきた。
何もつけずに食べたところパンケーキ自体は甘さは控えめだった。
誰かが俺を注目していないかざっと見渡したところ、誰の視線もなかったのでフィギュア中のフィオナにパンケーキの端をちぎってジャムをつけて食べさせてやった。
紅茶は最初そのまま飲んでみた。
俺の舌では日本で飲む紅茶とここの紅茶の味の違いは分からなかった。
次にミルクを入れて飲んでみた。
やはり日本で飲むミルクティーとここのミルクティーの味の違いは分からなかった。
飲み食いしながら店の中を見回し、代金の支払い方法を観察していたら、隣のテーブルのおじさんがテーブルに小銭を置いて席を立ち店を出ていった。
テーブルの上に置かれていたのは銅貨に見える。
俺の持ち合わせは金貨だけなんだけど、おつりもらえるんだろうか?
金貨を350枚も持っているくせに、すごく気になる。
そう思いながら食べていたら、別の客が店の女の子を呼んでお金を払っていた。
おじさんは銀貨を女の子に渡して女の子はエプロンの中から取り出した硬貨をおじさんに渡した。
おつりはくれるようだ。
しかし、金貨でのおつりは店から嫌がられそうではある。
そうこうしていたらホットケーキを食べ終え紅茶も飲み終えていた。
俺はポケットの中の金貨の筒から金貨を1枚取り出し、店の女の子に向かって手を振った。
女の子は俺に気付いてくれてすぐにやってきた。
俺が金貨を見せたところ、
「お客さま、銀貨はお持ちではありませんか?」と聞いてきた。
俺は極力済まなそうな顔を作って頭を振った。
白銀のヘルメットをかぶっている以上
それでも女の子は「少々お待ちください」と言っていったん奥に引っ込み、すぐに戻ってきて俺に小ぶりの金貨1枚と銀貨9枚、それに銅貨5枚を手渡してくれた。
俺は日本語で「ありがとう」と言って、メイスをベルトに付けてリュックを背負った。
これで俺のことはおかしな人ではなく、異邦人だと分かってくれたはずだ。
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