第178話 異邦人2、会話
[まえがき]
全話のビクトリアの容姿について、3月29日14:50、大した意味はないんですが作者都合により修正しました。
俺がある意味落胆していたら、使いこまれた感じのする革鎧を着た女性が俺の前に立った。彼女の被る革製のハーフヘルメットの脇から金髪がのぞいているのが見えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
親切なダンジョンギルドの副ギルド長ジェーンさんのおかげで、大金貨が1枚売れて金貨150枚手に入った。
これで街に出て買い物ができる。
「イチローさん。装備から見ても一流のダンジョンワーカーでしょうから、先ほどのベズレ大金貨の他に何か売れるようなものをお持ちではありませんか?」
そう言われておいそれと出せるようなものが……。
そうだ。ドラゴンの光物が文字通り
俺は一度うなずいて、足元に置いたリュックに手を入れて、小声でタマちゃんにドラゴンの光物のうち金色のゴブレットを1つ出してくれるように言って、受け取ったゴブレットをテーブルの上に置いた。
「ほー、見事なゴブレットですね。
これはうちの鑑定士に見せなければ値段が付けられません。
少しお待ちください」
再度ジェーンさんは席を立って部屋を出てしばらくして初老の男性を連れて戻ってきた。
「1級鑑定士のホイマンさんです。
それじゃあホイマンさん、このゴブレットを鑑定してください」
ホイマンさんはうなずき、ゴブレットを手に取り丹念に観察した。
「これは300年前から280年前、西ゴルンのアゾブレム王朝時代に王族の祝賀用として作られたゴブレットです。
脚の裏側のこの部分にアゾブレム王家の紋章が刻まれています」
そう言ってホイマンさんがゴブレットをジェーンさんに渡した。
「アゾブレム王家の紋章かどうかはわたしは分からないけれど、紋章が確かにある」
いわれがある名器なのか?
「アゾブレム王朝と言うと250年?くらい前にブラックドラゴンによって一夜にして滅んだという王朝ですよね?」
「実際はドラゴンによって一夜にして滅んだのは王都だけでしたが、王都がブラックドラゴンにより焼き払われて1年ほどで滅んでいますので、一夜にして滅んだといっても過言ではないかもしれません」
その話のブラックドラゴンというのはまさかあのドラゴンじゃないよな?
もし、その話の中のドラゴンがあのドラゴンだったのなら、館や俺の半地下要塞のある島とこの世界は同じってことになる。
可能性は高い。
もう一つの可能性は、転移能力を持っていた。分からん。
「副ギルド長、そういうことですので、このゴブレットはかなり希少なものになります」
「ということは、これはアンティークですよね?」
「はい。オークションでは金貨200枚からでしょうか」
「イチローさん、これはどこで?」
さっきと同じで渦の方向を指さした。
「ダンジョンからですか?」
俺はうなずいた。
「どの程度の深さでしたか?」
深さは階層のことなんだよな? 27階層?だったので俺は両手の指を2回広げて、それから左手の中指と人差し指を立て、右手は5本の指を開いて見せた。
「27階層!」
俺はうなずいた。
「ここシュレアダンジョンで現在ダンジョンワーカーたちが攻めている最深階層は18階層です。
まさか、イチローさん、ブラックドラゴンをたおしてこのゴブレットを手に入れた? そんなことはないですよね?」
これは否定疑問文だと思うけど、ここの言葉でも内容が肯定ならイエスで否定ならノーでいいのだろうか?
よくわからなかったけれど、もともと言葉ができないのでうなずいた。
「ドラゴンをたおしたんですね?」
再度うなずいておいた。
「そのリュックにゴブレットが入っていたということは少し前にドラゴンをたおしたということでしょうから、何か証拠になるようなものをお持ちですか?」
なんだか、ジェーンさんの目の色が変わったんだが。
証拠になるものといえば、ドラゴンの頭と胴体。
どちらも出せるけど、出すにあたってタマちゃんが見えてしまうよな。
ならばドラゴンのうろこはどうだろう。
しかしうろこだと、落ちていたのを拾うこともありそうだし。
となるとドラゴンの牙しかないか。
たしか長さ的には50センチくらいだったような。
宝箱の中から中身を取り出せるタマちゃんなのでドラゴンの頭から牙を抜くくらい簡単だろう。
俺はリュックの中のタマちゃんに小声でドラゴンの牙を1本出してくれるよう頼んだら、すぐにリュックの中からドラゴンの牙が生えてきた。
その牙を受け取ってテーブルの上に置いた。
牙は思ったより大きく、80センチくらいあった。
色は黒なのだが先端から3分の1くらい半透明でいかにも硬そうだ。
「これがドラゴンの牙!?」
「わたしも実物を見るのは初めてです。
まさしく文献に載っていたドラゴンの牙の記述と同じものです。
生きている間にドラゴンの牙の実物に巡り合うことができたとは!
わたしはなんと幸せ者なのか!」
ホイマンさんは、すごく感動してくれたようだ。
「ドラゴンスレイヤー」と、ジェーンさんがぼそりと言った。
「このことは王都に知らさなければいけません」今度は俺に向かってジェーンさんが言った。
王都に知らせる? そんなことしたら大ごとになるんじゃないか?
そんな面相なことをされたら困る!
俺はそこで激しく首を振ってアピールした。
「王都に知らせてはマズいのですか?」
そこで俺はうなずいた。
「一国を滅ぼしたドラゴンをたおした英雄を王都に知らせないわけにはいきません」
そのドラゴンと俺のたおしたドラゴンが同じかどうか確証なんてどこにもないんだけど。
俺がどう見ても渋っている顔をしていたので、ジェーンさんが、
「イチローさん。分かりました。
王都への連絡は取りやめます。
イチローさんはこのシュレア市に滞在されますよね?」
滞在したいことはやまやまだが、
俺は首を振らざるを得なかった。
「ど、どちらに行かれるんですか? どこか行く当てがあるんですか?」
行く当てなどあるわけないのだが、うちに帰るとどういえばいいんだ?
仕方ないので再度立ち上がった俺は、ジャスチャーでまず三角屋根を作って、その下に2本の縦棒を両手で描いた。
「きのこ?」
「家!」
ジェーンさんとホイマンさんが同時に答えた。
俺は「家」と答えたホイマンさんを指さした。
再度俺は家を作り、そこに歩いていくジェスチャーをした。
「家に入る!」
「家に入る!」
ふたりとも少し外れていたので、俺は頭を一度縦に振り、その後一度横に振った。
そしてもう一度家を作り、今度は家から出て、少し歩いてUターンして家をもう一度作りそこに入っていくジェスチャーをした。
「家に帰る!」
「家に帰る!」
ふたりに通じたようだ。
俺はそこで大きくうなずいた。
そしたら、ジェーンさんが驚いた顔をしていた。
一種の遭難者と思われていたのだろうから無理もない。
「イチローさんの国に帰れるんですか?」
俺はそこでうなずいた。
それだけではちょっと意地悪なような気がしたので、再度両手で家を作りそこから歩いて出るジェスチャーをしたから、右手を大きく回して俺の座っていた椅子を指さした。
「ここにも来ることができる?」
そこで俺は大きくうなずいた。
俺にはジャスチャーの才能があったようだ。
「了解しました。
それでこのゴブレットですがお売りになりますか?」
俺にとっては一山いくらの品物だし惜しくはない。
大きくうなずいた。
「買い取り価格は金貨200枚でもよろしいですか?」
こういった組織では、経費がかかるし、オークションに出せば手数料も取られるだろう。
どういう仕組みなのかは分からないが税金も引かれるはずだ。
良心的な価格のような気がする。
俺はまたまたうなずいた。
「今から用意します」
そう言ってジェーンさんは一度部屋を出て、すぐに戻ってきた。
そして、お盆に金貨を載せた女性ふたりが部屋に入ってきた。
「金貨200枚です」
金貨200枚はひとりでは重かったようだ。
俺は頭を下げて、リュックの中のタマちゃんに預けた。
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