第175話 28階層4、白銀のメイス、シロ


 赤鬼のいた部屋はそれで行き止まりだったので俺は通路まで戻って次の扉を開いた。


 今度の部屋の中には蜘蛛の糸がそこら中に張り巡らされていた。

 部屋の奥の方にモンスターの気配がするのだが、蜘蛛の糸に隠されて姿は見えない。

 蜘蛛の糸は火で焼き払えば簡単に燃えるのだが、俺のファイヤーは火炎放射器ではないので指先からせいぜい30センチくらいまでしか届かない。


 火炎放射器魔術があればこういう時便利なんだがないものは仕方ない。

 その代用としてファイヤアローを部屋中全体にばらまいてやったら、いい塩梅に蜘蛛の巣が消えていった。

 ついでに部屋の奥の方にあったモンスターの気配も消えてしまい大蜘蛛の死骸らしきものが部屋の奥に残っていた。


 その死骸はかなりの部分が消えてなくなっていたものの、これまでの大蜘蛛からは考えられないほど巨大だった。

 元の大きさは胴体だけで3メートルはあったのではないかと思う。

 蜘蛛の死骸をタマちゃんに片付けてもらったら、その後ろに宝箱があった。

 今度の宝箱は金色で平べったくかなり横長だった。

 セオリー通りならちょっといいアイテムが入っているはず。

 部屋の中には赤い点滅はなかったが、ディテクトトラップの効果も消えているかもしれないので再度ディテクトトラップを意識しておいた。

 これでディテクトトラップは発動したはずだが、部屋の中に赤い点滅は現れなかった。


 赤い点滅が現れれば魔法が発動中であることが分かるのだが、そうでないと罠がないのか魔法が切れているのか分からない。

 発動したことだけは感覚的にわかるのだが、効果が持続中なのかどうかが分からないところはこの魔法の欠点だ。


 今の場合は発動直後だったので、ディテクトトラップの効果が切れていることはないので、俺は安心して金色の宝箱の前まで行き、そこで宝箱を開ける魔法を意識した。


 目の前の宝箱は宝箱に擬態したモンスターではなかったようで、ちゃんと蓋が開いてくれた。


「おー」

 宝箱の中から出てきたのは銀色に輝く片手用メイスだった。

 鑑定したら『白銀のメイス』という名まえだけ分かった。名まえじゃなくって分類名?かもしれない。

 銀のメイスではなく『白銀』のメイスということは、金色の箱に入っていたことだし銀と違う謎金属の可能性が高い。


 さらに言えばこれが儀式用とか魔術の補助道具でなく本当に武器として使用するものならば、ただの銀では強度不足なのでおそらく白銀という謎金属製と考えて間違いない!


 白銀のメイスを手に持って素振りを数回したところ、重さ的にはそれほどでもなかったので破壊力は高くはなさそうだが、重心はしっかりしているし持ち手グリップは手にしっくりなじむ感じがした。


 メイスのグリップの先には孔が空いていたので俺のベルトのフックに吊り下げられる。

 最初に買ったメイスを外してタマちゃんに預かってもらい、白銀のメイスをそこに吊り下げた。

 白銀のメイスは曇りなく輝いている。

 背中にクロ、そして腰のシロだ。


 タマちゃんに預けておけばどうってことないかもしれないけれど、何かあったらマズいので忘れず武器預かり所に行って刻印かタグ付けしてもらい登録してもらわないといけない。


 その前にシロを実戦で使わないと。


 今俺のいる部屋は入り口以外扉がなかったので、再度通路に出てまた次の扉の前に立った。


 部屋の中からはこれまでの部屋同様何の気配も漂ってきていないが、この階層では渦のある部屋以外全ての部屋の中にモンスターがいたので今回もモンスターが待ち受けていると考えていいだろう。

 フィオナが俺の肩からリュックに移動したあと、白銀のメイス、シロをベルトのフックから外して右手に持って左手で扉を押し開いた。


 部屋の中にはちゃんとモンスター、鎌首をもたげた大ヘビが待ち構えていた。

 そいつは鎌首の先の3角形の頭の先に付いた口の先からチョロチョロとふたつに割れた舌を出し、ふたつの冷たい赤い目で俺を見つめている。


 俺が一歩部屋の中に入れば襲い掛かってくるのだろう。

 逆に言えば今のまま動かなければ襲ってきそうにないので、遠隔攻撃し放題だ。

 今回はシロの試運転なのでそういうことはしない。

 舐めプかもしれないが、こっちにはタマちゃんもいることだしどうとでもなるだろう。


 行くぞ!


 俺は大ヘビ目がけてダッシュした。


 俺が3歩目を踏み出した時には大ヘビの牙の生えた大口がすぐそこまで迫っていた。

 こいつ、素早い。

 俺は走りながら、迫ってくる大口に向けてシロを斜め下から振り上げた。

 シロのヘッドが大ヘビのアゴの斜め下を捉えた。


 その瞬間シロのヘッドが青白く輝いた。


 そのままシロのヘッドは何の手ごたえもなく空を切って通過していったのだが、白のヘッドが通過したあとの大ヘビは首から上というか頭が完全に消滅していた。


 なんじゃ、コリャー?!

 こいつはとんでもないメイスだぞ。

 人前では絶対使えない。


 頭を瞬間的に失った大ヘビの胴体は首の付け根から赤い血をまき散らせながらしばらくのたうっていたがそのうち動かなくなった。


 気付けば部屋の奥に銀色の宝箱があった。どうもモンスターが絶命すると宝箱が現れる仕様のようだ。


 大ヘビの胴体をタマちゃんに処理してもらって手に入った核はこれまでの物と同じだった。

 これで手に入った核は6個。



 核の次は宝箱だ。

 フィオナがリュックから出てきて俺の肩に乗って宝箱をのぞき込んでいる。

 宝箱を開ける魔法を意識したら蓋が空いた。

 中に入っていたのはポーション瓶だった。

 見た目は大トカゲをたおした時手に入れたポーション瓶と全く同じ。

 鑑定したところポーション瓶。中身はポーションだった。

 アレと同じと考えていいだろう。

 手にしたポーション瓶をタマちゃんに渡して収納してもらった。


 縦長のこの部屋には奥の方にひとつだけ扉があった。


 俺が扉の方に向かうとフィオナは素早くリュックに引っ込んだ。

 見た目通り身が軽い。


 扉に手をかけ押し開いた部屋の中は空だったがなんと上り階段があった。そしてご丁寧に3カ所ほど床が赤く点滅していた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る