第174話 28階層3、大トカゲ、宝箱


 28階層は一気に難易度が上がったようで、最初のモンスターから強敵だった。

 ディテクターの反応からするとT字路の先のモンスターは俺に気づいていないようだ。

 俺は先に通路上の罠を解除することにして、赤い点滅に対して順にディスアームトラップを唱えていった。


 見えてさえいればディスアームトラップは効果を発揮するようで、通路上の赤い点滅は全部消えて見えなくなった。


 それでは、一番手前の扉を開けてみよう。


 扉の前に立ったのだが部屋からは何の気配も感じられなかった。

 だからと言って部屋の中が本当に空っぽなのかは分からない。

 中にモンスターがいると考えて慎重に。


 少しだけ力を込めて扉を押したらカギはかかっていなかったようで、わずかに扉が動いた。

 そのまま一気に扉を開けたら部屋の真ん中に黒い大トカゲが1匹いた。

 そいつが大口を開けてドッジボールほどの橙色の火の玉を俺に向けて放った。

 それほど高速ではなかったので簡単に避けたところ、火の玉は俺の後ろの通路の壁に当たって大爆発した。


 火の玉はタダの火の玉ではなくファイヤーボールだったようだ。


 何とか爆風でつんのめるのをこらえたのだが、リュックのポケットに入っているはずのフィオナが心配だ。

 そう思っていたら背中のリュックの下の方からごそごそ動く気配が伝わってきた。

 フィオナは無事だったようだ。

 これで安心して大トカゲの相手ができる。

 ファイヤーボールを放った以上大トカゲは火系統には強そうなイメージがあるので、俺は大トカゲに向けてアイスニードルを連射してやった。


 3センチ径の氷の針と言いうより氷の矢が大トカゲに次々と突き刺さっていく。

 大トカゲは血を流しながらも健在だ。

 今までのヤワなモンスターだとアイスニードルは貫通していたが、やはりここのモンスターは防御力も上がっているようでそうとう打たれ強い。


 それじゃあということで俺は背中からクロを抜き放ち、大トカゲに向かって突進していった。

 大トカゲは俺に向かって口を開けかけたのだが、その口が開き終わる前に大トカゲの頭をバッサリと切り落としてやった。


 首から血を吹き出して床に転がった大トカゲの後ろには銀色の宝箱があった。

 その宝箱の前の床は赤く点滅し始めた。

 この階層からだいぶ仕様がエグくなっている。


『フィオナ?』と口に出そうとしたら、フィオナはいつの間にか俺の右肩に止まっていた。

 顔を見たらフィオナはニッコリ笑った。

 リュックのポケットの中にいたとはいえファイヤーボールの爆風をそれなりの勢いで受けたハズだったけど何ともなかったようだ。


 先に罠を解除してからタマちゃんにトカゲを片付けてもらい核を受け取った。

 受け取った核は先ほどの黒スライムの核と同じ大きさの核だった。


 次は宝箱だ。

 俺は宝箱の前に立って両手をかけて持ち上げようとしたのだが、宝箱は床に貼り付いたようで全然持ち上げられなかった。

 この銀色の宝箱は26階層で爬虫類スケルトンをたおして手に入れた銀色の宝箱とは本質的に違っているということなのだろう。


 別に宝箱のガワが欲しいわけではないので、試しに宝箱を開ける魔法を意識したら、いままでの宝箱とは仕様が違うようで上蓋**が開いた。


 箱の中に入っていたのはガラスの蓋の付いた小さめのガラス瓶が1つ。

 ガラス瓶自体はカットガラスとでもいうのか工芸品のような趣があり中に透明の液体が入っている。

 これって、ポーションだよな。


 タマちゃんから鑑定指輪を渡してもらい左手の中指にはめて瓶を鑑定したところ、予想通り『ポーション瓶』ということだけ分かった。

 予想通りとは言え、この答えにはがっくりだ。

 何のポーションか全然わからないじゃないか!


 いや待て。この鑑定は瓶を持って鑑定した結果だ。

 瓶の蓋を外して直接中身を見ながら鑑定したら鑑定結果がもう少しマトモになるかもしれない。


 瓶の蓋はすりガラスになっているようで中身がこぼれる感じはまったくしなかったけど蓋は簡単に抜くことができた。

 瓶の口から中を覗き込んでもう一度鑑定を意識したところ『ポーション』ということだけ分かった。

 こら! バカにしてるのか!


 とはいえ、中身は水ではなく、なんだか今まで嗅いだこともない不思議な匂いもしたし、無色透明だったが粘度も幾分あるようだった。

 何かしらのポーションに間違いないわけなので、ポーション瓶はタマちゃんに預かってもらった。



 この石室には俺が入ってきた扉しかなかったので、通路に出て次に手近な扉を開けることにした。


 次の部屋の中からも気配は漂ってこなかった。さっきも部屋の前からでは気配を感じなかったところを見ると、この階層の部屋の扉は26階層と同じように気配を遮断しているか扉を開けた瞬間モンスターが活性化する可能性が高い。

 なんであれモンスターが待ち受けていると思って対応するにしくはない。


 さっきのこともあるのでフィオナにはリュックの中に入っていくように言ったらすぐに俺の肩から飛びあがって後ろに回った。


 扉を開けたところ中にモンスターはいなかった。

 その代り、銀色の宝箱が1つ部屋の真ん中に置いてあった。

 今回の宝箱は大きなツヅラって感じで、今までの宝箱と比べるとかなり大きな宝箱だった。

 その宝箱の前の床が性懲しょうこりもなくまたも赤く点滅していた。

 懲りないやっちゃなー!


 すぐにディスアームトラップで罠を解除してやり、宝箱の前まで歩いていって宝箱を開ける魔法を意識した。


 これで宝箱の蓋が開くはずなのだが、宝箱は何の変化もないまま床の上でじっとしている。

 おっかしいなー。


 今まで意識しただけで発動していた宝箱を開ける魔法なんだが、何がいけなかった?

 そんなわけはないと思うのだが、宝箱がここまで大きいと宝箱を開ける魔法は効かないのか?


 目の前の宝箱にはさっきの宝箱と同じように蓋が付いている。

 ちょっと見ではカギ穴などないようだから手で開けられるかもしれない。

 ダメならタマちゃんに頼んで中身を抜き出すだけだ。


 俺は大きな宝箱の蓋を開けようと宝箱に近づき手を伸ばした。

 そしたらいきなり宝箱が蓋を開けて、俺に跳びかかってきた。


 蓋の裏側と開いた宝箱には牙が生えていた。

 確かにビックリはしたのだが、手足もないような箱のジャンプなどスピードも何もないのでバックステップで後ろに下がったら噛みつき箱はガシャンと音を立てて床に落ちた。


 床に落っこちた噛みつき箱が動き出す前に俺はクロを引き抜いて箱を真っぷたつにしたところ赤い切り口からどろりとした血が流れ出てきた。


 箱モンスターなのか箱に擬態したモンスターなのか分からないが、モンスターなら核があるはず。

 タマちゃんに箱を吸収してもらったらちゃんと核が手に入った。


 一度経験してしまえば、これからは部屋の中に宝箱だけポツンとあれば警戒することを覚えるわけだからもう脅威というほどじゃない。

 もし宝箱の形をしたモンスターが他のモンスターと一緒にいたら騙されるかもしれないが、噛みつき攻撃しかないのならそれほど怖くないものな。


 この部屋の中にも入って来た扉の正面に扉があったので、俺はその扉を開けてみることにした。


 フィオナは一度肩に戻ってきていたが、何も言わなかったけれど俺が次の扉に向かっただけですぐに後ろに引っ込んだ。

 これなら安心だ。


 扉に手をかけて押し開いたら、今度は部屋の真ん中に腰ミノだけ身に着けた赤鬼が立っていた。

 腰ミノだけでもあるとないとで大違い。そこだけは感心だ。

 そいつは金棒ではなく棍棒を持っていた。


 赤鬼の身長は3メートルほど。

 その赤鬼が棍棒を振り上げて向かってきたので、俺もクロを引き抜いて向かっていった。


 俺は、結構なスピードで振り下ろされた赤鬼の棍棒を斜め前方に***避け、赤鬼の胴体をクロの間合いに捉えた。

 赤鬼が振り下ろした棍棒は床にぶつかりかなり大きな音を立てた。

 俺はその時にはクロを振り切って赤鬼の胴体を両断し、重みでずり落ちる赤鬼の上半身の脇を数歩先まで抜けていった。


 振り返ると、赤鬼の上半身と下半身がべちゃりと音を立てて床に転がった。


 ふたつの切り口からいろんなものがそこら中に散らばって嫌な臭いが部屋にたちこめ始めた。


「タマちゃん。処理頼む」


 タマちゃんから金色の偽足が伸びて今回はいろんなものまで含めてキッチリ片付けたうえで核を手渡してくれた。

 手渡された核の大きさはこれまでこの階層で手に入れた核と同じ大きさだった。

 赤鬼の腰みのもタマちゃんは吸収してしまったようだが、時すでに遅し。


 何の捻りもないこの赤鬼が一番楽な相手だった。

 上下に両断したばかりに部屋中臭くなってしまったが、次回赤鬼に遭ったら首を斬り落とすようにしよう。

 ここでもひとつ教訓というかノウハウを得ることができた。

 ダンジョンは人を賢くもするのだ。


 床に転がった棍棒は何の役にも立ちそうもなかったのでそのままにしておいた。


 この階層からモンスターは一気に強化されたうえ、宝箱の中身がバラエティーに富み始めた。

 別のダンジョンになったのかと思わせるほどの変化だ。




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