第173話 28階層2、黒スライム
翌朝。
支度を整えた俺は銀の指輪をはめて7時には館の書斎に転移した。
そうしたらアインが待っていた。
『マスター、おはようございます』
アインの頭の中の朝のあいさつという概念が『おはようございます』という日本語になって俺に届いたんだろう。
「おはよう」
俺の『おはよう』も朝のあいさつの言葉から、アインの頭の中で前の主人の言語に訳されて理解されるのだろう。
などと、朝も早くから考察してしまった。
『マスター、食事の準備ができています』
リュックを下ろし、タマちゃんは書斎でお留守番だ。
フィオナを肩に乗せたままアインに連れられ食堂に移動し席に着いた。
すぐにワゴンに載せられて料理が運ばれきて俺の前に並べられて行った。
この状況を父さん母さんが見たら魂消るだろうなー。
だけど、一度はふたりにこの館を見てもらいたい気もする。
驚く父さんと母さんの顔を見ながら食事したら楽しそうだものな。
今日のメインは、鮭かマスか分からないが赤身魚の結構デカい切り身のムニエルにレモンの輪切りが添えられていた。付け合わせにベークドポテト。
カリカリのベーコンとゆで卵の輪切りが載ったレタス?のサラダ。
スープはコーンスープ。
そしてバターロールとどう見てもクロワッサン。
クロワッサンがあることに驚いた。
バターとイチゴジャム。それに黒っぽいジャム。ブルーベリーだろうか?
鑑定指輪をはめていないのでわからなかった。
グラスに入った飲み物はリンゴジュースだった。
もうここはホテルだな。
フィオナ用にも小皿が付いていたので、小皿にイチゴジャムとブルーベリージャムらしき黒っぽいジャムをスプーンで入れてやった。
朝食をおいしく完食したあと、今日はテーブルにナプキンが置いてあったのでナプキンを少量のウォーターの水で濡らしてフィオナの口と手を拭いてやり書斎に戻った。
書斎に戻ったらアインが待っていて道路工事の進捗状況を報告してくれた。
『路線の調査を終え、図面を作成しそれに基づき必要資材を集計しました。
すでに備蓄資材で旧道の修復に取り掛かっています。また採集班が不足分の石材調達のため石切り場に出発しており、本日中に資材の調達は終了します。
道路の修復と延長は3日後に完成します』
何だか社長になって秘書から報告を受けているみたいだ。
『マスターの拠点近くに建設する新
俺の半地下要塞があまりにもシャビーだから近くに館を建てると言ってたものな。
まあいいや。適当にやってくれて。
「了解」
『新館を構えるにあたり、新たな自動人形を作成します』
「適当にやってくれ。
できれば言葉が話せて、俺みたいに顔の造作があった方がいいけど、作れるかな?」
『言葉が話せるというのは音を出すという意味でしょうか?』
「そう」
『了解しました。
昨日マスターから頂いたコアがありますので3体製造可能です』
コアって核のことだよな。やっぱり自動人形に使えるんだ。
今日は28階層の探索をするつもりだから、25階層の核より大きな核が手に入るはず。
そっちを使った方がより性能が高くなるよな。
「アイン、もう少し大きな核を手に入れるアテがあるから高性能自動人形の製造はそれまで待ってくれ」
『了解しました』
「ところで、アイン。今いる自動人形たちもコアがあればレベルアップするのか?」
『高性能化可能です』
「わかった」
ならば28階層でなるべくたくさん核を集めた方がいいな。
それじゃあ、そろそろ行くとしよう。
「アイン、俺はアインの言うコアを採ってくる」
『昼食はいかがしますか?』
「12時にここに戻るから用意しておいてくれ」
『了解しました』
俺はタマちゃんの入ったリュックを手に持って、武器を装備するため専用個室に転移した。
リュックを床に下ろした俺は、入出館用とダンジョン出入り用の2つのカードリーダーに冒険者証をタッチし、ロッカーの数字を合わせて2本のメイスとナイフ、そして大剣クロを取り出して装備した。
ヘルメットを被ってキャップランプを点灯しようとしたところで、28階層は明るかったことを思い出してやめておいた。
そのあとリュックを背負いヘルメットを被って手袋をはめ準備完了。
俺はフィオナが肩に止まっていることを確かめて28階層、渦のある部屋に転移した。
昨日部屋の中の罠を解除したのだが、罠が生き返っているかもしれない。
念のためディテクトトラップ。
手ごたえというとちょっと表現的におかしいが、罠を見つける魔法が発動したことは感覚的にわかった。
この部屋には赤い点滅はなかった。
少なくとも半日は罠の復活はないと考えていいだろう。
俺は部屋を横断して扉を開け通路に出たところ、昨日と変わらず通路の先の方に赤い点滅が何個所もあった。
ディテクターでは扉の先のことは分からないが、つながった通路なら探知可能なので、俺はディテクター×2を唱えた。
そうしたらそれなりに反応があった。その中の反応のひとつがこっちに向かってくる。
何が現れるのか待っていたら通路の突き当りのT字から黒っぽい何かが現れた。
距離にして100メートルほど。
そいつがこっちに滑るように向かってきた。結構速い。
スライムだ。
真っ黒いスライムが1匹。
罠はこいつには効かないようで、赤く点滅する床の上も平気で横切った。
ズルいぞ!
28階層で単独出現した以上ただのスライムではないのだろうが、ここは直線の通路。
遠距離攻撃し放題だ。
それでも何が起こるか分からないのでフィオナにはリュックの中に入っているよう言おうと思ったら俺が言う前にフィオナは俺の肩から飛びあがって後ろに回った。
これでフィオナは安心だ。
俺は右手を出して黒いスライムに向けてファイヤアローを1発発射した。
白く輝く光の矢が黒光りするスライムに命中して孔を空けたように見えた。
これで終わったかと思ったが、スライムは接近を止めることはなく、孔も空いたはずだが塞がったようだ。
確かにただのスライムではないようだ。
ここでファイヤーアローを連射してやればいずれスライムをたおすことはできるのだろうが、かなりの確率で核を壊してしまうだろう。
となると何か他の手が欲しいのだが。
考えているうちにスライムは30メートルくらいまで迫ってきた。
そうだ! 電気の力で焼いてやれ!
手のひらに周囲の電気が集まるイメージで『サンダー』を放とうとしたら、いきなりスライムから真っ黒な偽足が1本俺に向かってきた。
俺はサンダーから速射可能なファイヤーアローに切り替えて迫る偽足を迎撃した。
偽足はうまく焼き切ったのだが、20メートルくらいまで迫ってきた黒スライムから10本以上の真っ黒な偽足が湧き出て俺に向かって伸びてきた。
この距離と本数から言って全部の迎撃は間に合わない。これはマズいかも?
転移で退却と思ったところ、俺の後ろから金色の筋が10数本伸びて、迫ってきた黒い偽足を吸収してしまった。
そのまま金色の筋は近づいてくる黒スライムを四方八方から襲って、そのまま黒スライムは消えてしまった。
伸びていたタマちゃんの偽足が1本にまとまり戻ってきた。そして俺の手のひらの上にスライムの核を置いていった。
手にした核の大きさはソフトボール大。ゲートキーパーの核くらいの大きさだ。
これならアイン並みの高性能自動人形ができるはずだ。
「タマちゃんサンキュウ」
絶体絶命のピンチというほどでもなかったが、とにかくタマちゃんに助けられた。
この28階層、今までの階層から一気に難易度が上がったな。
俺たちじゃなかったら、最初から全滅だ。
ディテクターの反応からすると、そいつらは位置を変えてはいない。俺の気配を感じていないようだ。
ディテクターの反応は放っておいて、先に通路上の罠を解除してから最初の扉を開いてみるとしよう。
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