第172話 28階層
アインを館に残して坑道奥に転移した俺は、フィオナを肩に乗せ、タマちゃんの入ったリュックを背負い渦に向かって歩いていき、そして通り抜けた。
渦を抜けた先は、26階層と同じ石組みの石室だった。
部屋全体も天井からの明かりで明るい。
26階層の石室と違うところは、部屋の形が正方形ではなく長方形。
渦から出た俺の正面に扉がひとつだけ付いていた。
扉は両開きの扉で、26階層の石室の扉と同じに見える。
後ろを振り返ると渦は壁にくっ付いているようで裏側はなかった。
ちゃんと渦を伝って元の坑道奥に戻れるのか試したところ、ちゃんと戻れた。
今度は、裏側から渦に入ったところ、出た先はダンジョンセンターではなく先ほどの石組みの石室だった。
ここは新たな階層と考えてもいいとは思うが、石組の部屋の感じは部屋の形は違うものの26階層の石室と酷似しているので26階層の延長の可能性がゼロというわけでもない。
何であろうと実質的に28階層だ。
26階層は階段下とゲートキーパーのいた部屋以外どこまでも同じ部屋が並んでいただけの階層だったがこの階層は少なくとも長方形の部屋があるわけだから構造は違っているだろう。
そこで思い出した俺はクロ板で覚えた罠を見つける魔法ディテクトトラップを意識した。
いままで一度も罠がなかった関係で罠があった場合どういった反応があるのか分からなかったのだが、今回、部屋の真ん中に四角く赤い点滅が見て取れた。
赤く点滅しているところに罠があるのだろう。便利じゃないか。
罠の種類は分からないが、とにかく物騒なので罠を解除する魔法、ディスアームトラップを意識したところ赤い点滅が消えた。
罠の解除は成功したようだ。
こっちも便利だ。
ただ、罠を見つける魔法の使用法というか、魔法効果の持続時間が不明だ。
部屋限定かもしれないがそうでないなら持続時間のようなものが分かっていた方が便利だ。
腕時計を見たらもう4時20分。
切りがなくなってはまずいので扉の先がどうなっているのかだけ確かめてそれで撤収しよう。
部屋の中にひとつだけあった扉を開けたら、その先は通路になっていて、通路の左右には扉がいくつも並んでいた。
ディテクトトラップは渦のある部屋限りではなかったようで通路の床は扉の少し先からところどころ赤く点滅していた。
この階層かなりエグイな。
罠を見つける魔法がなければエライことになっていたのだろうが、少なくとも26階層で罠を見つける魔法のクロ板を手に入れているはずなので、罠だらけなのは意地悪と言えば意地悪だが、親切と言えば親切だ。
その通路の先は突き当りでT字路になっているように見える。
ここは文字通り迷宮のようだ。
仮称28階層をチラ見した俺は一度専用個室に戻り、そこで武器類をロッカーにおさめ、カードリーダーに冒険者証をタッチしてからうちに戻った。
部屋に戻った俺は荷物を片付けて普段着に着替えた。
その間にタマちゃんはリュックから出て定位置の段ボールに戻って四角くなって寛ぎ、フィオナはだいぶ疲れていたようで、俺の肩からふかふかベッドに移ってすぐに横になった。
俺も少し疲れていたのでベッドに横になっていたら『父さんが出たからお風呂に入りなさーい』と下から声がしたので着替えを持って部屋を出た。
フィオナは眠ったままだ。
風呂の中で湯舟に浸かりながら、ドラゴン撃破と新階層発見について河村さんにメールするかどうか考えた。
今回はドラゴンを丸々1匹タマちゃんが収納しているし、ドラゴンのボウリングの球まで持っている。ものすごく面倒なことになりそうな予感がするので止めておこ。
知的生物もろの館のこともあるし。
それに教えたところで、俺以外の冒険者に関係することなどなさそうだし。
なんだか秘密がまた増えてしまった。
仮称28階層でモンスターをたおして手に入る核は26階層の核より大きいはずだけど、どこで手に入れたか聞かれたらどう答えよう?
今日手に入れたドラゴンの
今の俺にとってお金はそれほど重要ではないし、ドラゴンが集めていたということはアレもおそらく
しかし、27階層というか新世界だけど、あれって、サイタマダンジョンだけの新世界なんだろうか?
64個の全ダンジョンにあの超大空洞が漏れなくついているとすると、ドラゴンなんか目じゃないくらい大問題になるよな。
ダンジョンが発見された当時、64個のダンジョンが内部でつながっているかもしれないと言われていたそうだから、サイタマダンジョン以外の26階層から渦を抜けたとしても新世界=27階層側のあの渦に出るのかもしれない。
いや、それはないか。
もしそうなら、27階層から26階層へ戻ったらそこはサイタマダンジョンの26階層だった。
やはり、別のダンジョンから入った場合、その先が新世界につながっているのなら、新世界のどこか別の場所に出るというのが正解のような気がする。
正解がどうあれ、それで何が変わるわけでもない。
そのうちゲートキーパーの核をいただきにトウキョウダンジョンに行ったら26階層まで下りて確かめてやってもいいしな。
いろいろ湯舟の中で考えていたら長湯になってしまった。
俺は湯舟から上がって急いで体と頭を洗い、一度湯舟に浸かってすぐに上がった。
夕食は俺が風呂から上がるのを待っていたようで着替えて食堂に行ったらお皿が並べられて父さんも母さんも席についていた。
ちょっとまずかったかな。
今日の夕食はアジフライふたつと俵型のコロッケが2つ。おそらく俵型のコロッケはクリームコロッケだ。
それに小カブの味噌汁が付いていた。
アジフライとコロッケの載った平皿の上にはトマトと一緒にキャベツの千切りがどっさり載っている。
「いただきます」
母さん謹製のタルタルソースをアジフライとコロッケひとつずつにかけた。
残りのアジフライとコロッケにはウスターソースをかけた。
まずはアジフライを一口。
サクサクの衣のアジフライがうまい!
ご飯を一口食べて今度はコロッケだ。
コロッケの中身はトロトロ熱々のクリームシチューでカニの身が入っていた。
母さん洋食屋始めてもいいんじゃないかと思うほどだ。
キャベツにはウスターソース。
柔らかくてみずみずしい! このキャベツは春キャベツだ。
ご飯を一度お代わりして、最後に味噌汁を飲みほした。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさま」
夕食を終え食器を流しに下げた俺は、2階に上がって部屋に戻りしばらくベッドに横になって腹ごなしをしつつ、28階層について少し考えた。
28階層を探索するにあたって罠を見つける魔法ディテクトトラップと解除する魔法ディスアームトラップは必須なので、発動を容易かつ確実にするため少し練習することにした。
こういった系統はどこで発動させても問題ないので、ベッドに寝転がったまま名まえを唱えるだけで無意識に発動できるよう練習していたら、そのうち眠くなりそのまま寝てしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます