第170話 ゴールデンウィーク10、敵性生物2


 ヘルメットを被りキャップランプを点灯し、防刃手袋をはめた俺は、アインに洞窟の前で待機しているように言って洞窟の中に入っていった。



 洞窟の入口は遠目では岩の裂け目のように見えていたが、高さが10数メートル、横幅が7、8メートルもあった。


 洞窟の路面は入り口付近は土や木の葉などで覆われていたが、奥に進むにつれてそういったものはなくなりちゃんとした岩になった。

 見た目は2階層から25階層までと同じ坑道型ダンジョンだ。

 ただ、洞窟の内部はダンジョン内のように発光しておらず、光がなければ何も見えない。


 洞窟に入って50メートルほど進んだところでディテクター×2を発動した。

 そうしたらいきなり500メートルほど先にはっきりとした反応があった。

 500メートルではっきりした反応となると、相当なものだ。

 少なくとも今までのゲートキーパーよりもよほどはっきりした******存在ということが分かる。


 念のため俺の右肩に止まっていたフィオナにはリュックのポケットに移るように言ったら飛び上がって見えなくなった。リュックのポケットに入ったようだ。


 俺は曲がりもなくまっすぐな洞窟の中をディテクターの反応に向かって進んでいく。

 距離300メートルで気配を感じ始めた。


 ……。


 反応との距離が100メートルを切った。

 なぜか坑道の岩肌がキャップランプの光を反射してきらめいているのが気になる。

 水晶でも岩肌からのぞいているのかと思ってよく見たら岩肌がガラス化していた。

 岩肌がガラス化するにはそれなりの熱が必要だよな。

 俺が思いつくのは賢者オズワルドのファイヤーストーム。

 あとは、見たことはないがドラゴンのブレス。

 この先にいるのはまず間違いなく『敵性生物』

 とすると、ちょっとヤバくないか?

 

 少し前から坑道は徐々に広がり始めていて、この先は大空洞になっているようだ。

 キャップランプの光芒はまだ反応の本体を捉えてはいないが圧迫感を伴った気配をビンビン感じる。


 向こうは俺のキャップランプの明かりをとっくに捉えているはずなのだが動きはない。


 距離は70メートル。

 坑道は大きく広がり空洞となって、その空洞の奥に巨大な黒い塊が見えた。


 距離は50メートル。

 その塊に俺のキャップランプの明かりが乱反射している。

 そして40メートル。

 黒い塊が形を崩した。

 塊りから首が伸び、ふたつの赤い目がこちらに向いた。


 赤い目の付いた頭部は黒光りするトゲで覆われている。

 間違いなくドラゴンだ。

 そのドラゴンが目を一度細めてゆっくりと口を開き始めた。

 ドラゴンののどの辺りが中から赤く発光している。

 ブレスが来る。

 直撃さえしなければいい。

 ただ、空洞内は坑道に比べればたしかに広いが、それほど自由に動き回れるものでもない。

 俺は、防御も兼ねてインバースアイシクルをドラゴンの前面からドラゴンに向けて発動させた。

 俺のインバースアイシクルが空洞の路面から突き上がるのとドラゴンのブレスがほぼ同時で、ブレスは路面から5メートル近くまで突き上がった数十本の氷の円錐コーンをなぎ払っていったが、俺に届く前に消滅してしまった。


 ドラゴンの体の下から突き上がった俺のインバースアイシクルはドラゴンの体を持ち上げはしたが外皮を突き破ることはできず、ドラゴンが体を揺らしたら砕け散ってしまった。

 防御はうまくいったのだが、攻撃も不発だった。


 五分五分だ。


 再びドラゴンの喉が赤く発光し始めた。

 またブレスだ。

 インバースアイシクルを撃てば防げるがそれでは千日手になってしまう。

 今度はサンダーを試してやろう。

 同時に撃ったとしても圧倒的に高速なサンダーが先にドラゴンに届く。

 それに先ほどのドラゴンのブレスの速さなら、どうにかかわせる。


『サンダー』


 ドラゴンが口を半分開けたところでサンダーの紫電がドラゴンの体に命中した。


 サンダーの電撃自体はドラゴンに明白なダメージを与えたようには見えなかったが、ドラゴンはのどの奥を赤くしたままブレスを吐くのを止めそのままの姿勢で止まってしまった。

 


 こいつ感電して力が入らなくなったな。

 俺とドラゴンとの距離は40メートル。

 その空洞の路面には、先ほどのインバースアイシクルの残骸が無数に転がってはいるが俺なら速度を落とさずその残骸を縫って走れるから、3秒でこいつにたどりつける。

 そしてもう0.3秒あればこいつの首を落とせる。

 一瞬で結論を出した俺は加速した知覚の中で背中のクロを引き抜きドラゴンに向かって本気で***突撃した。


 1秒、ドラゴンはまだ動かない。

 2秒、ドラゴンの目が俺の動きを追って動いた。

 3秒、ドラゴンの口が開き始め、口の奥が輝いた。

 俺はドラゴンの目を見上げながらジャンプした。

 ドラゴンはジャンプ中の俺に口を向けようと頭を動かし始めた。

 ドラゴンの頭上まで飛び上がった俺は、俺を見上げるドラゴンの頭部に向かってクロを振り下ろした。

 クロの刃引きされた刃先がドラゴンの頭部に迫る。

 ドラゴンの口の輝きが強くなってきたが、まだだ。


 クロの刃先がドラゴンの頭部、眉間の下あたりを捉え、ゆっくりドラゴンの上アゴを押し下げていき開きかけていたドラゴンの口が下に向き始める。

 クロを振り下ろす反動で俺の体の落下が一瞬止まった。

 俺の足元をドラゴンブレスがかすめていき、そのあとクロがドラゴンの上アゴから下あごを縦に切り裂いた。


 俺が路面に両足をついたとき、ドラゴンが絶叫した。

 俺は数歩バックステップでドラゴンとの間合いを取った。

 ドラゴンは後ろ足で立ち上がり、翼を広げ更に絶叫し続けた。

 こいつは痛みに耐性がほとんどないようだ。今まで痛い目に遭ったことがなかったのだろう。


 ドラゴンは絶叫しながら切り裂かれた口から盛大に血をまき散らしたので文字通り血の雨が降った。


 俺の大事な防刃ジャケットにもかなりの量のドラゴンの血がかかってしまった。

 今現在血の雨を浴びて絶賛ヘルメットと防刃ジャケットが汚れまくっている俺からすると、一種の範囲攻撃だ。

 ドラゴンの血を浴びると浴びた部位はいかなる武器も通用しない不死身になるという話が本当であったとしても、これは嫌な攻撃だ。


 ヘルメットの視界がかなり悪い。

 それでも気配だけでドラゴンの動きは手に取るようにわかるので特に問題はない。



 俺は翼を広げて立ち上がったドラゴンの片足のクルブシに向かって突撃しクロを水平に振り切った。

 クロはドラゴンの足首の骨の半分を断ち切った。

 ドラゴンはその痛みに耐えかねたか、地団駄を踏んだ。

 その拍子に、傷めた足首がボキリと折れてそのまま横転した。

 こういうのって頭に血が上って見境がなくなったって言うんだろう。


 俺はじたばたするドラゴンの頭の付け根、首の先端にクロを振り下ろした。

 ドラゴンの首は1度では切断できず3度クロを振り下ろしてやっと切断できた。

 路面に転がったドラゴンの赤目がしばらく動いていたが、そのうちドラゴンの目は色を失った。


 久しぶりの強敵だった。


 俺がドラゴンをたおしたのがうれしかったかリュックのポケットの中に入っていたフィオナが飛び出して、俺の周りを回り始めた。


 ドラゴンの体は素材の宝庫だと向こうの世界では言われていたのだが、こっちの世界でもニーズがあるのだろうか?

 ドラゴンはタマちゃんに吸収せずに丸ごと収納してもらおう。

 タマちゃんは蓋のない宝箱から中身を取り出せたから、吸収しないでも核だけドラゴンから抜くことができると思うけど、もしできないようなら俺が直々ドラゴンの体から抜くだけだ。


 その前に記念撮影をしておこう。

 写真を公開するかどうかは未定だが、あって悪いものじゃないからな。


 俺は防刃ジャケットの内ポケットからスマホを取り出して、フィオナが映り込まないよう注意して数枚ドラゴンの写真を撮った。

 ドラゴンと俺とのツーショットの集合写真は撮らなかった。




[あとがき]

短編『異世界から帰ってきたらもうひとりの俺がいた件』https://kakuyomu.jp/works/16818093074345067690 公開しました。

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