第169話 ゴールデンウィーク9、敵性生物


 昼食時間まで時間があったので自動人形についてアインに聞いてみた。


「自動人形って、新しく作ることはできるの?」

『はい。作業用の自動人形はいくらでも製造可能です』

「ということは、アインのような自動人形は作れない?」

『わたしの場合特殊な素材が使われており、館内にその素材の備蓄はありません。

 素材の採集は不可能ではありませんが、非常に困難です』

「困難というのはどういうこと?」

『その素材は一種の結晶で、大型の敵性生物の体内からのみ採集できます。

 わたしたちはその敵性生物をたおす手段を持たないため、新たな素材を得ることは不可能になっています』

 それって、いかにもモンスターの核っぽいんだが。

 あいにく今現在モンスターの核の持ち合わせがないんだよな。


 昼食までまだ時間があるから、25階層にでも飛んで核を取ってきてやるか。

「アイン、その結晶というのは丸くて黒い石みたいなものか?」

『はい。見た目は球形で黒色。ツヤがあります』

「それラシイものの心当たりがあるから、ちょっと取ってくる。

 それまでここで待っていてくれ」

『はい』


 俺はタマちゃんの入ったリュックを背負いヘルメットを被って防刃手袋をはめた。

 フィオナは肩の上でおとなしくしている。

 それでは25階層に転移!


 25階層の適当な坑道に現れた俺はディテクター×2であたりを探った。

 すぐにモンスターらしき反応が複数見つかったので一番近そうな反応に向かって駆けだした。


 そこにいたのはヘラジカ3匹。

 ファイヤーアローで3匹をサクッとたおしてタマちゃんに処理してもらい、核を3つ手に入れた。


 1つを手に持って、残り2つを防刃ジャケットのポケットに入れアインの待つ書斎に転移した。

 アインに手に持った核を見せながら、

「アイン、これはお前の言う特殊な素材じゃないか?」

『はい、この素材で間違いありません。

 ただ、この大きさですと、わたしと同等の能力の発揮は難しいと思います』

 思った通りモンスターの核でよかったのだが、25階層のモンスターの核では小さかったようだ。

「これだと何の役にも立たないのか?」

『これはこれで高性能の自動人形の素材になります』

 アインが言う小さすぎる核で高性能の自動人形になるということは、やはりアインは超高性能ということだな。


「ここに3つあるから渡しておくよ。

 使うことがあるなら使ってくれ」

 俺はアインに手に持った核と防刃ジャケットのポケットに入れていたふたつの核を渡した。

『ありがとうございます』


 ちゃんとした核の心当たりがないのでやはりアインの言う敵性生物を狩ってくるしかなさそうだ。

「それでアイン。さっきの話の敵性生物ってどこにいるのか分かるのか?」

『はい』

「ここから遠いのか?」

『いえ。それほど遠くはありません。

 館から徒歩で6時間ほどの距離になります。

 ただ、現在その場所にその生物が生息しているかは不明です』

 そうとう時間が経っているわけだからモンスターがいなくなっている可能性は十分あるが、確かめてみていなければ仕方ないし、いたらラッキーだ。

 徒歩で6時間。アインの徒歩の移動速度は分からないが、走れば3時間でいいのか?

 いずれにせよ半日で何とかなる距離だ。


「わかった。

 午後そこに案内してくれ。アインはそこまで走れるんだよな?」

『はい。問題ありません』


 昼食までまだ時間があるからこれから専用個室に行って武器を取ってくるとしよう。

「アイン、ちょっと出かけてくる」


 タマちゃんが入っているがリュックは置いて専用個室に転移して、武器類をロッカーから出した。

 クロの装備は面倒だし、これから食事なので2本のメイスはベルトに下げたがクロは手に持った。

 いちおう武器をロッカーから出したので念のためカードリーダーに冒険者証をタッチしてから館の書斎に戻った。


 書斎に戻った俺はメイスをベルトから外しクロと一緒にリュックの中のタマちゃんに預けた。


 そうこうしていたら昼食の時間になったようで、アインに昨日の食堂に案内された。

 昨日と同じ席に着いたらすぐにワゴンに載せて料理が運ばれてきた。


 メニューは、

 コンソメスープ。

 トマトの載ったグリーンサラダ。

 骨付き鶏(おそらく)のもも肉のグリル。

 ブロッコリーとベークドポテト。

 バターロールとバターとジャム。


 昨日と同じでどれもおいしく食べられたのだが、それってここの前の主人と俺の味覚はほぼ同じということだよな。

 少し不思議な気持ちもしたが、俺がいたあの世界でもどう見てもホモサピエンスがいて同じようなものを食べていたわけだから、そんなに不思議なことではないのか?


「ごちそうさま」


 食後の紅茶を飲み干して席を立ち、書斎に帰った。

 アインが待っていたので急いで支度して最後にタマちゃん入りのリュックを背負った。

「それじゃあ行こう」

『はい』


 アインの格好はいつも通り。その後を俺が付いていく。

 館の門を出たところで、アインが斜め右を指さした。

『あそこに見える岩山のふもとです』

 門から見て斜め右ということは南西の方向だ。

 そっち方向は、この館や俺の半地下要塞のあるこの台地の中心方向になる。


「アイン。適当な速さで走って目的地に向かってくれ。

 俺が追い付けないようなら、そう言うから」

『了解しました。

 それでは出発します』


 アインが走り出し、俺が追走した。

 体感的には時速15キロ。一般人なら結構なスピードだが、俺にとっては問題のない速さだ。

 アインの言う徒歩の速さを時速6キロとすると目的地までの距離は35キロほど。

 時速15キロで走れば2時間20分。大したことないな。


 しばらくアインの後について草原を走った後は森の中に入った。

 2時間ほど道なき森の中を走っていたらある程度の勾配のある上り道になった。

 そしていきなり森を抜けた先には、岩山がそびえていた。


 岩肌が立ち上がっている地面にぽっかりと大きく空いた洞窟の入り口が見えた。

 らしくなってきたぞ!


『あの洞窟の中に敵性生物が棲んでいました』

「洞窟は深いのか?」

『わたし自身は入ったことがありませんので詳しいことは分かりません』

 前の主人とその部下がその敵性生物とやらを狩ったんだろうな。アインは後方支援をしていたのかもしれないし、アインが作られる前かもしれないしな。

 アインの作られる前とすると600年以上前の話か。

 そうなるとさすがに敵性生物とやらもいなくなっている可能性が高そうだが、とにかく確かめてみよう。


「アインはここで待っていてくれ」

『了解しました』



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