第168話 ゴールデンウイーク8、半地下要塞改修
この館の前の主人が残したらしいメモ帳をめくっていたら9時を過ぎていた。
窓を見たら雨は小降りになってきている。
これなら昼前には止みそうだ。
雨が止んだら大工仕事のできる自動人形を半地下要塞に連れていき、資材の見積りさせていったんここに戻り、資材と工具を用意させよう。
用意ができたらタマちゃんに預けて、再度半地下要塞に連れていき扉と窓を取り付けてもらおう。
俺が何も言わなかったものだからアインは黙って俺に付き従っている。
「アイン、大工仕事のできる自動人形には俺が作った建物に扉と窓を取り付けてもらいたいんだが、一度現場を見てからじゃないと資材やら工具の見当が付かないだろうから連れていってみてもらおうと思っている」
『はい』
「見当が付いたらここに戻ってきて資材と工具を揃えて再度現場に連れて行く」
『はい』
「俺は書斎にいるから、雨が止んだら大工仕事のできる自動人形を連れてきてくれ」
『了解しました』
ふたりそろってプライベートルームから書斎に戻った。
アインは部屋を出ていき俺は椅子に腰かけて一休みだ。
時間つぶしに本か何か用意しとけばよかった。
5分ほど何もすることなく椅子に座っていたら、アインがお盆にカップを乗せて部屋に入ってきた。
『お茶をお持ちしました』
「ありがとう」
実に気が利く。
アインは俺がお茶を飲み終わるまで待ってカップをお盆に片付けて書斎から出ていった。
窓の外の雨はだいぶ小降りになっている。
それからもう5分くらいしてアインが片手に道具箱のようなカバンを持ったふたりの自動人形を連れて部屋に入ってきた。
資材と工具の確認なんだからひとりで十分だと思うがふたりいて悪いということはない。
俺は椅子から立ち上がってタマちゃんの入ったリュックを背負った。
「じゃあ、現場に連れて行くから、ふたりは俺の手を取ってくれ」
自動人形が各々手を伸ばして俺の左右の手を取った。
彼らの手はつめたいものの固いわけではなく、ある程度の柔らかさを持っていた。
物を持ったり掴んだりするのに、指や手が石みたい固ければ持ちにくいだろうし持たれた物も傷むだろうし。
「それじゃあアイン行ってくる」
一言声をかけてふたりの自動人形を連れて半地下要塞前に転移した。
半地下要塞ではありがたいことにもう雨が止んでいた。
振り返って池を見たのだが、増水している感じはない。
『治癒の水』が雨で薄められたらマズいと思ったが、今まで何度も雨が降っているのだろうし問題はないのだろう。
濡れたブルーシートを取り払って、ふたりの自動人形に俺の半地下要塞を見せてやった。
ブルーシートはタマちゃんに収納してもらった。
「ここに扉を付けてもらいたいのと、建物の両側に窓を取り付けて周りは板壁で覆って欲しい」
ふたりは俺の言葉を理解したようで、うなずき、カバンから取り出した巻き尺?で寸法を測り始めた。
メモなど取ることなく、窓を取り付けてもらいたい場所に移動してそこで寸法を取った。
3分ほどで作業は終わったみたいでふたりはカバンに巻き尺をしまって俺の下に戻ってきた。
ふたりとも一言も発していないのだが、アインのようなテレパシー能力がないのかもしれない。
俺の言葉が分かるならそれでいいけどな。
「作業は終わったんだな?」
ふたりがうなずいた。
うなずくという動作はおそらく万国共通の肯定を表すボディーランゲージだよな。
「それじゃあ、また俺の手を取ってくれ」
ふたりが俺の手を取ったところで書斎に転移したら書斎にはアインがまだ立っていた。
「材料と工具類は部屋の前の廊下に運んでくれ。
準備ができたらまた現場に連れて行くから」
ふたりに対して指示したら、ふたりは一礼して書斎から出ていった。
「アイン、さっきのふたりはやっぱりアインみたいに話せないのか?」
『マスターと話すことができる自動人形はわたしだけです』
アインはそういう立ち位置だったわけか。なるほど。今の言葉で言えば中間管理職だったわけだ。
「分かった。
俺の言うことは理解できているようだからそれで十分だ」
『はい』
リュックを下ろして30分ほど椅子に座って寛いでいたら、大工がやってきた。
『準備ができたようです』とアインが大工に代わって教えてくれた。
リュックを背負って廊下に出たら、材料と工具が並べられていた。
木製の扉。木材とガラス、のこぎりにノミ、そして金づち。そういったものが結構な量並べられていた。
「タマちゃん、全部収納してくれ」
結構な量だろうとタマちゃんにかかればあっという間に収納されてしまった。
人間だったらかなり驚いたのだろうが、自動人形3人は全然驚いてくれなかった。
俺の転移にも無反応だったし、期待はしてはいませんでしたよ。
「荷物は収納したから、さっそく現場に行こう。
また俺の手を取ってくれ」
『マスター、わたしもその現場に連れて行っていただけませんか?』
「もちろんだ。
アインも俺の手の空いたところを持ってくれ」
大工ふたりが俺の左右の手を持ったので、アインは俺の右手の手首を持った。
アインの手は大工ふたりよりも柔らか仕様だった。
半地下要塞前に着いたところで、まずはタマちゃんにブルーシートを1枚出してもらい、俺がそれを地面の上に広げ、先ほどタマちゃんが収納した資材と工具をその上に置いていってもらった。
資材と工具を持って大工2名は作業を開始した。
『マスター、ここはどのあたりになるのでしょう?』
「館の裏側にある石畳をまっすぐ歩いて行って石畳がとぎれてから4時間ほど歩いたところになる」
『了解しました。
マスターのこの建物ですが、いかにも小さくマスターにはふさわしくありません。
この位置に館を建てませんか?』
小さいということは分かるけどね。いちおう俺の要塞なんだよ。
「館みたいに大きなものはいらないぞ。
でもちゃんとしたうちはあってもいいな。
近くの林を開いて適当な大きさの家でも作ってくれればいい」
『了解しました。
資材運搬をマスターに任せるわけにはまいりませんので、館からここまで道を通してもよろしいですか?』
「そうだな。
その辺りは任せる。
注意してもらいたいことは、そこの池の水を汚さない事。
畑や果樹園を傷めない事。この2点だ」
『了解しました』
俺とアインとで話している間にもどんどんふたりの大工による作業は進んでいった。
別に高速で動いているわけではないのだが、動きに無駄がないように見える。
先に扉が開取り付けられ、次に窓枠を取り付けるための横木が渡され、窓枠が取り付けられた。
次に壁板が張られ残すは窓だけになった。
ふたりの大工は巧みに窓用の枠を組み上げて釘で固定し、
でき上った窓を窓枠にはめて完成だと思ったら、ふたりは窓を閉めて手動ドリルで窓の重なった部分に孔をあけて、そこに金具を組み込みネジで固定した。
ねじ込み式のカギだ。
こんなところに泥棒が入ってくることはないだろうが、何かの加減で窓が開くかもしれないからしっかり締めておけばそういったことは起こらないものな。
出来上がった窓を試しに開け閉めしたところ、ほとんど力を入れなくても窓は開閉できた。
最後に大工のひとりから扉のカギを渡された。
正味30分の作業だった。
大工すげー!
タマちゃんに資材の残りと工具を収納してもらってブルーシートもしまい終えた。
「作業が終わったから帰ろうか?」
『はい』
3人が俺の手を取ったところで館の書斎に転移した。
大工ふたりは俺に一礼して書斎から出ていった。
『マスター、昼食はどうされますか?』
「12時に頼む」
『了解しました。
道路工事は午後から、現在傷んだままになっている石畳の改修と並行してマスターの新館までの路線調査を行ないます』
「任せた」
『はい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます