第163話 ゴールデンウィーク3、館2

[まえがき]

誤字脱字衍字報告ありがとうございます。

読み返してはいるんですが気付けない自分が情けないです。申し訳ありません。

今回は宣伝もありちょっと長くなりました。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 昨日簡単に調べただけの主人の書斎らしき部屋に行ってみることにした。


 廊下や窓を掃除しているのっぺらぼうたちの横を通って書斎に入り、机の後ろの皮張りの椅子に座ってやった。タマちゃん入りのリュックは机に沿わせて椅子の横に置いた。

 見ようによってはこのやかたのご主人さまだ。


 そうやってしばらく社長気分で椅子に座っていたら、のっぺらぼうが1体、扉を開けて部屋の中に入ってきた。

 着ている服はそこらで掃除をしているのっぺらぼうより幾分上等に見える。

 そののっぺらぼうは手にお盆を持っていて、そのまま机の前までやってきてお盆に載せてきたカップを俺の目の前に置いた。

 小皿に載せられたカップの中には紅茶が淹れられていて、香りは見た目通りまさに紅茶だった。


 俺のことを帰ってきたご主人さまと思っているのか? それともお客さまと思っているのか?

 お客さまが勝手にご主人さまの机に陣取ってれば普通は怒るよな。

 となると、俺のことを本当にご主人さまと考えている可能性もある。


 紅茶を置いただけで、のっぺらぼうは一礼して部屋から出ていった。

『一礼』という行為をしたということは、まさか俺の脳をスキャンしたわけではないだろうから人間に近い風習を持っていた者がご主人さまだった可能性が高い。


 レモンの一件があるのでリュックの中のタマちゃんから鑑定指輪を出してもらい、紅茶を鑑定したところ、茶葉の銘柄は分からなかったが『紅茶』だった。


 俺は机の上の黄ばんだ紙を脇にやって、落ち着いて紅茶を一口。

 いいお茶っ葉だ。おそらくだけど。




 館の主人のものらしき机の椅子に座り、のっぺらぼうが持ってきてくれた紅茶を飲んでまったりした。


 紅茶を飲み終わった俺は、カップを横に置いて、机の脇にずらしていた黄ばんだ紙きれをもとに戻しておこうと鑑定指輪をはめた左手で紙を持ったところで、この紙を鑑定することを思いついた。

 うまくすれば、何か情報が得られるかもしれない。


 別に力を入れるようなものではないけど、ちょっとだけ心の中で声を出した。

『鑑定、黄ばんだ紙!』


『メッセージの書かれた紙』

 ということが分かった。

 運が良ければ内容が分かるかもしれないと思ったのだがそうはいかなかった。

 しかし、メッセージとはどういう意味だ?

 誰かからここの主人に宛てたものか?

 それとも、この主人が誰かに宛てたものか?


 うーん、かなり短い文なんだが何とかして読めないものか?

 文字自体は英語の筆記体に似ていなくもないのだが、だからと言って何がどうなるわけでもないが。


 俺はそれでも目を凝らし、紙の上に書かれた文字らしきものを目で追った。

 そうしたら、文字が目に入りその意味がわずかに理解できた。

『このメッセージ……、この机……使えば……全てを……』

 

 メッセージの内容がある程度分かった。

 この館の主人がこの黄ばんだ紙を読んだ者へ宛てたメッセージのような気がする。

 すなわち、この館の主人が俺にあてたメッセージというわけだ。

 自分勝手な解釈であることは否めない。



 読めたのは『この机』『使えば』『全てを』の3語。

 机を使う?

 いや、机の中に入っている何かを使う。だろう。

 それで『全てを』どうする?

 全てを得る?

 全てを失う?

『全てを失う』ではまんま呪いの品だ。そんなものをこんなところに置いてるわけないから『全てを得る』だよな。


 全てとはなんだかわからないが、黄ばんだ紙の当面の訳として『机の中に入っている何かを使うと全てを得る』ということにした。


 俺は机の引き出しを開けて中を物色したところ、用途不明の小物ガラクタの他に銀色の指輪が1つ引き出しの奥から見つかった。昨日は見逃していたようだ。


 何かを使えと言っているのだが、用途不明の小物ガラクタではそもそも使い方も分からない。

 その代り指輪なら指にはめればいいということだけは分かる。

 俺はまずその銀色の指輪を鑑定してみた。

 半ば予想していたが『銀の指輪』ということだけ分かった。


 ついでだったので引き出しの中に入っていたガラクタを鑑定してみたところ、全て『何かの部品』という鑑定結果だった。

 元から分かってはいたが、俺の鑑定指輪はそれほど優秀ではないようだ。



 俺はその『銀の指輪』を右手の中指にはめてみたところ、最初ブカブカだったがそのうちぴったりはまった。少なくとも鑑定指輪と同じ魔法の指輪だ。

 指輪をはめたまま部屋の中を見回したが何も変化はなかった。もちろん何かを手に入れた感じはなかった。


 分からん。


 俺は何も変化を感じることのないまま、目に付いた机の上の呼び鈴らしきものを振ってみた。


 呼び鈴からはチリンチリーンときれいな音がした。

 音自体はそれほど大きなものではなかったのだが、20秒ほどしたところ、おそらく紅茶を持ってきてくれたさっきののっぺらぼうが部屋に入ってきた。


 呼び鈴もタダの呼び鈴ではないようだがどうせ鑑定したところで『呼び鈴』と鑑定されるだけなのでわざわざ鑑定を意識しなかった。


「紅茶を飲み終わったから片付けてくれるか?」

 そう言ったら、頭の中に『かしこまりました。マスター』と声がして、のっぺらぼうはティーカップを持って部屋から出ていった。


 銀の指輪って、のっぺらぼうとの意思の疎通ができる優れモノの指輪だったようだ。

 これはありがたい。

 いや、その前にのっぺらぼうは『マスター』と俺のことを呼んだ。

 ということは、俺は今ののっぺらぼうのご主人さまということだよな。

 つまり、俺はのっぺらぼうを得た。と考えてもいいだろう。

『全てを得る』とは今のっぺらぼうだけでなく、他ののっぺらぼうたちも『全て』に含まれるんじゃないか?

 そうに違いない。これも、自分勝手な解釈だが見当違いではない気がする。


 俺はリュックを背負い直して書斎から廊下に出た。


 掃除はあらかた終わったようで、廊下にはのっぺらぼうたちは見当たらなかった。

 どこに隠れているのだろう?


 昨日館の中はあらかた見て回っているのだが隈なく見て回ったわけではないのであらも相当ある。

 ディテクターで探ればなんとかなるかと思ったが扉なんかで遮られているので、26階層と一緒で廊下以外では役に立たなかった。

 俺のディテクターって何気に使い勝手が悪いな。


 のっぺらぼうに直接話を聞いた方が早いと思った俺は、再度書斎に戻って呼び鈴を鳴らしてみた。


 20秒ほど経ったところで、あののっぺらぼうがやってきた。


 のっぺらぼうでは呼びにくいのでまずは本人に名まえを聞いてみた。

『ご用件は何でしょうか?』

「お前の名まえはなんて言うんだ?」

『名まえはありません』

 困ったちゃんだな。


「お前は何て呼ばれてた?」

『前のマスターはわたしのことを1番と呼んでいました』

 ここでの情報は『前のマスター』だ。

 俺が現職マスターで、前のマスターは、どういった理由があったのかは分からないがここを放棄したと考えていいだろう。

 後は『1番』だ。

 のっぺらぼうはテレパシーみたいなもので俺に話してるのだから実際に日本語で1番と呼ばれていたわけではなく、何語と言うのか分からないがのっぺらぼうの主人語で1番を意味する言葉で呼ばれていたはずだ。

 さすがに名まえが1番では野球の打順のような響きがあってかわいそうだ。

 英語にしてしまうとファーストなので、これだと野球の守備位置だ。

 なので、最近流行はやりのドイツ語(注1)で「アイン」と名づけてやろう。


「分かった。

 今日からお前の名まえはアインだ」

『了解しました』

「それじゃあさっそくだが、アイン、お前は普段どこにいるんだ?」

「わたしの待機場所はこちらです」


 アインが先になって俺を案内してくれた。

 階段で1階に下り、更に地下に下りた。

 

 地下にはカギのかかった扉が並んだ通路とその先にワインセラーがあったのだが、アインは階段から一番近かった扉の前に立って扉を開けた。

 俺の時は確かにカギがかかっていたと思ったのだが今はカギがかかっている感じではなかった。

『この先がわたしたちの待機場所です』


 扉から中をのぞいてみたら、そこは大部屋になっていて、のっぺらぼうが50体くらい立っていた。

 壮観ではあるがちょっと引くような光景でもある。


「分かった。

 屋敷の中は一度見て回っているんだが、地下のほかの部屋はどうなってる?」

『地下1階ではワインセラーの他は食糧庫などになっています』

「ふーん」

『地下2階は前のマスターの研究室と作業場を兼ねた実験室があります』

 地下2階があったのか。階段を見落としていたようだ。


「アイン、地下2階に案内してくれ」

『はい、こちらです』


 アインに案内されたのはワインセラーの入り口横の壁だった。

 その壁のでっぱりのようなものをアインが押したら壁がスライドしてその先に階段が現れた。

 階段の中は真っ暗だったが、アインが壁のスイッチらしきものを押したら階段の上の天井に明かりが点いた。

 見た目は電気の照明なのだが、電気の明かりなのか魔法の明かりなのかは分からない。

 発電所があるとは思えないので、おそらく魔法なのだろう。

 ということは館内のシャンデリアやその他の照明器具を明るく灯すことができそうだ。


 とか考えていたら、アインが階段を下っていったので俺はその後について階段を下りていった。


 大体10段ごとに踊り場があってそこで階段は180度方向を変えて折り返している。

 4回方向を変えて降りた先には短い通路があってその先に扉があった。


 アインが扉を開けたら、その先の部屋の中に明かりが点いた。今の点灯は自動のようだった。

『ここが前のマスターの研究室で、研究室の先には前のマスターの作業場を兼ねた実験室があります』



 研究室の中にはいろいろな形をした器具が並んでいた。

 置かれていた器具は化学的な感じではなくどう見ても物理的な器具だ。

 研究室の奥の方には机が置いてあった。


 そこまで行ってみたところ、机の上にはメモなども沢山書き込まれた図面のようなものが描かれていた。

 図面は機械の図面のように見えるが書き込まれたメモはまったく読めなかった。


「ところで、前の主人はここで何を研究してたんだ?」

『わたしでは分かりません』

「それは仕方ないな」


 次に研究室の先の作業場を兼ねた実験室とやらをのぞいてみることにした。


 作業場を兼ねた実験室は相当広く天井も高い。

 そして部屋の真ん中には直径10メートルほどの金色の球体が3本の太い支柱で支えられて鎮座していた。

 球体の赤道部分に開いた穴に向かって床から回り廊下が付けられているので球体の内部に入っていけるようだ。


 部屋の壁に沿って大型の機械と棚が並んでいて、その棚には金色の金属の板や棒が並べられていた。

 大型の機械は金色の金属を加工する工作機械かもしれない。


 アインたちの前の主人はここでいったい何を研究して何を実験していたのか見当もつかないが、一種の天才だったのだろう。





注1:最近流行りのドイツ語

この部分を書いているのは2023年12月27日。『葬送のフ〇ーレン』面白かー!

定命の人間と長命種とのかかわりあいっていいですよね。

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