第162話 ゴールデンウィーク2、館。
午後から1時間ほど歩いて森がいったん途切れ空き地に出たと思ったら、傷んだ石畳の道が前方の森に向かって伸びていた。
人の手による石畳の道の感じがしないでもないが、ここはダンジョン内の可能性も捨てきれない。
26階層の石室だって整然とした石室で人工的に見えたが、とても人の手によるものとは思えなかった。
したがって、目の前の石畳がダンジョンが作ったものなのか、ホントに人為的なものなのか区別できない。
ここがダンジョンならダンジョンが気を利かせて雰囲気を出した可能性もないではないが、もしダンジョン製ならここまで傷んでいる必要はないだろう。
やはりここはダンジョンではなく新世界で人為的な道の可能性が高いような気がしないでもない。
石畳の道は森の中に続いて、その先は立ち木に隠れて石畳の先は見えない。とにかく道を伝っていこう。
俺は傷んだ石畳の上を歩いていった。
1時間ほど歩き続けたら森が途切れた。
そして1キロほど先に建物、いわゆる
ダンジョンのオブジェクトなのか? それとも誰かが住んでいるのか?
俺は駆け足に切り替えて、5分ほどでその館を囲む塀の前にたどり着いた。
塀の高さは3メートルほどで、塀自体は幅5メートルほどの堀で囲まれていた。
こちら側には跳ね橋もなければ入り口の門もないようなので、堀に沿って回ってみることにした。
左回りで裏側まで回っていったところ、草むらが広がっているだけで、館のほかは集落はもとより民家のようなものは見当たらなかった。
結局俺が最初にたどり着いた方向が館の裏側だったらしく、俺が今立っている側にはね橋があり、その先に館に続く門があった。
来客ウェルカムなのか、はね橋は下ろされ門は開いていた。
ただ、館内に人の気配はしなかった。
ディテクター×2
館の外には小動物らしき反応があったが館内には何の反応もなかった。
次にディテクトトラップを念のため発動したが、反応はなかった。
俺はとりあえず橋を渡って門をくぐり館の中に入っていった。
門から庭園を挟んだ先に館の玄関があるようだったので俺は庭園を突っ切り、3段ほどの階段で高くなったポーチに立って玄関の両開きの扉に取り付けられた金色の取っ手に手をかけた。
少し力を込めて扉を押したところ、カギはかかっておらず蝶番も
扉の先は玄関ホールで、床は大理石に見える。
人の気配は全くないのだが、床はピカピカに磨き上げられておりチリ一つ落ちていない。
吹き抜けの高い天井からは、どうやって明かりをつけるのか分からないが、大きなシャンデリアがぶら下がっていた。
俺の右肩の上にちょこんと座ったフィオナは好奇心一杯の顔でキョロキョロと周りを見回している。
とても警戒している感じでもなければ不安そうにも見えない。
それだけで安心することも判断することもできないが、この館は危険が潜んでいるわけではない気がする。
ディテクターは壁があればその先は分からないので建物内ではあまりあてにはならないが、ディテクター×2を再度発動しみたところ、やはり何の反応もなかった。
玄関扉の正面の壁の左右には2階へと続く階段があり、壁の真ん中には2本の大剣が大盾の前で交差するように飾られていた。
その飾りの下には華やかな花の絵が描かれた大きなツボというか花瓶が置かれており、その左右には金色の取っ手の付いた扉があった。
その取っ手もピカピカに磨き上げられていた。
俺は片側の扉を開けたところ、左右に続く廊下に出た。
もう片方の扉を開いてもこの廊下にでたようだ。
廊下を挟んで扉の正面には両開きの大きな扉があり、扉の先は大広間だった。
大広間も天井が高く、上から大きなシャンデリアが4つぶら下がっていた。
玄関ホールでもそうだったが木材の露出した部分は磨き上げられて黒光りしている。
そういったところから、この館はそうとう年季が入っているような気がする。
大広間をざっと見回した俺はそこから屋敷内を順に見て回った。
大小の食堂に教室よりも広い厨房。寝室と思われる空き部屋の数は数十。
風呂場は小さな風呂場が1つと、大きな風呂場が1つあった。
小さい方の風呂場には風呂場の外に湯沸かし用の炉のようなものにつながっていたが、大きい方の風呂場には真ん中に井戸がある代わりにそのようなものは付いていなかったので、こちらは水浴び用の施設なのだろう。
他に1階には武器庫もあり、中にはちゃんと武器が並べられていた。
長弓、槍、大剣、長剣、盾、斧、メイスそういったものだ。
どれも手入れが行き届いている。
ただ、空っぽの棚や武器立てなどもかなりあり、武器庫の広さに比べ武器の数は多くはないようだ。
あと倉庫のような建物が庭園に張り出して建っていたが、扉にカギがかかっているようで扉が開かずそこには入れなかった。
1階から階段を下りた先の地下には扉がいくつか並んだ通路があった。
扉はどれもカギがかかっているようで開かなかったが通路の先にはワインセラー?があった。
そこにはうっすらとほこりを被った瓶がずらりと並んでいた。
ざっと見ただけだがどの瓶にもラベルなどは貼られていなかった。
もちろん瓶の中身を確かめたわけではないのでワインかどうかはわからない。
廊下の途中にあった階段から2階に上がるとすぐ先に書斎らしき部屋があった。
この館の主の部屋のような気がする。
書斎の左右の壁にはひとつずつ扉があったがどちらも開かなかった。
その扉の左右に作り付けの本棚らしき棚もあったが飾り物のような小物が置かれていただけで本は1冊も並んでいなかった。この棚自体は他のものと同じく磨き上げられていた。
書斎の奥の窓際に大きな机とゆったりした革張りの椅子。
机の上にはインク壺と、羽根ペンが立てられたペン立てと文鎮。それに銀色の呼び鈴のようなものと黄ばんだ紙が1枚。
その紙を取って見たところ、横書きで文字のようなものが書いてあったがもちろん何が書いてあるのか分からなかった。
インク壺の蓋を開けてのぞいてみたところ中のインクは乾いていなかった。
机の引き出しの中には書類のようなものや用途不明の小物が入っていた。
この部屋は後でもう一度詳しく調べよう。
2階の部屋は結局空き部屋とカギのかかった部屋、そして書斎だけだった。
この
磨き上げられた館の中に誰一人いないところが奇妙だが、不思議と気味が悪いわけではない。
何せ無人の館だ。
俺がこの屋敷を貰っても誰も文句は言わないのだろうが、とにかく広すぎて使い勝手が悪い。
電気もなければガス水道もないわけで、この屋敷を維持するだけで2、30人くらい人を雇わなければならないと思う。
館の中を一通り見て回っただけなのだが腕時計を見たらもう午後5時近くになっていた。
そろそろ帰ろう。
午前中に果樹園に蒔いた種がどうなっているか気になったのでうちに帰る前に果樹園前に転移した。
地面からはちゃんと芽が出て、その芽もだいぶ大きくなっていた。
俺は安心してうちに帰り、頼まれていたナスビを母さんに渡しておいた。
翌日。
今日は昨日見つけた
午前7時には半地下要塞に転移してそこで朝食をとった。
朝食後、少しだけ休憩して
あっ!
門の外から館の中を見ると人がいた!
庭園の整備を数人がかりでしているように見える。
彼らが俺に気づいてないとは思えないのだがなんの反応もない。
不思議に思った俺は作業服のようなものを着て庭仕事をしている人物に注目していたらどうも顔がないように見える。
いや、顔はあるが顔の造作である目鼻口、耳が見当たらない。のっぺらぼうだ。
のっぺらぼうたちが門の外に立つ俺を無視して黙々と庭仕事を続けている。
ロボットが仕事をしているような雰囲気がある。
ロボットと言えばロボットなんだろうが、機械音が聞こえてくるわけでもないので今まで一度も見たことはないがゴーレムとかかもしれない。
窓ガラスを拭いている人たちの顔は遠くて良く見えないのだが、感じは庭仕事している連中と同じなのでおそらくのっぺらぼうだと思う。
昨日は彼らに遭わなかったところを考えると、彼らはこの時間帯だけ館のメンテナンスをしているのかもしれない。
俺のことをどのように彼らが扱うのかと興味が湧いたので堀にかかる橋を渡って門の中に入っていった。
俺が庭仕事をしているひとりに近づいていっても、予想通り何の反応もなくただ黙々と仕事を続けていた。
玄関に回って扉を開け中に入ると、ここでものっぺらぼうたちが黙々と掃除してた。
彼らは何体いるのか分からないが、この調子だと館中の掃除をしているのだろう。
どおりで館の中がピカピカなわけだ。
気になるのはこの館の主人のことだ。
不在なのか?
そもそもいないのか?
俺の勘だが、この館の主人はとうの昔に亡くなって、残ったゴーレムたちがその主人の言いつけを守って何年もこの館をメンテしているのではないだろうか?
もしそうだとすれば、何となく哀れだが、逆に仕事もせず朽ち果てていくよりもいいことかもしれない。
少なくとも彼らの衣服はちゃんとしたものなので、自分たちのこともメンテしているということなのだろう。
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