第161話 ゴールデンウィーク1、初日。
モンスター狩を終えた俺と氷川は27階層の半地下要塞の前に転移した。
「それじゃあ、遠慮なく『治癒の水』をいただくな」
「ああ、そうしてくれ」
氷川は空になった500CCのペットボトル2本をリュックから取り出してウォーターで水洗いした。
そして靴を脱いで
靴を履き直して要塞から出た氷川は果物と野菜を摘んでリュックに入れた。その際、イチゴだけはタオルにくるんでいた。
「長谷川、済まないな」
「いくらでも生ってるし、すぐにまた実が生るんだから気にするな。
それじゃあ帰ろうか」
「ああ」
氷川を連れてショートカットしつつ1階層の階段部屋まで戻ってきた。
そこから先まで俺が付いていく必要はないのでそこで彼女と分れることにした。
「氷川、それじゃあな」
「長谷川、今日もありがとう」
氷川が出口に向かっていくのを見送って俺は階段部屋の裏手に回り、そこから専用個室経由でうちに帰った。
今日から連休に入っていた父さんの後に風呂に入り、そのあと夕食になった。
今日の夕食はイワシの甘露煮とポテトサラダ、それに揚げ豆腐と味噌汁だった。
イワシの甘露煮はご飯が進む。
イワシは5月に入ってからの方が旬なのだが安かったので買ってきたと母さんが言っていたが、俺にとってはいつだって今が旬だ。
夕食が終わって2階に上がって寛いでいたら、スマホにメールが届いた。
見れば氷川から。
内容は、今日のお礼と、アノ水を飲んだ氷川のお爺さん、お婆さんが見違えるように元気になったとの報告だった。
喜ばれるとこっちまでうれしくなる。
うちの学校は翌日から2日間学校があり、5月2日の土曜日から5月6日の水曜日までの5日間の
5日間も休みがあると困ってしまう。ってことは全くない。
初日は、オレンジとグレープフルーツから採種してからの種まきだ。
連休初日。
早朝、いつものホームセンターに転移して10リットルの大型
これで『治癒の水』をかけてやれば種も喜んですぐに芽を出すだろう。
残念なことに20リットル入りのポリタンクは売っていなかった。
人気商品だと思っていたのだが仕入れてくれていないらしい。
うちに帰って準備を整えたところで玄関まで下りて行ったら、母さんから、できればナスビを取ってきてくれと言われた。
「分かったー」と、答えてから玄関を出て半地下要塞前に転移した。
忘れないうちに畑からナスビを10個ほど摘んでタマちゃんに預け、そのあとタマちゃんに収穫コンテナを出してもらってオレンジとグレープフルーツを摘んでいった。
摘まずに最初からタマちゃんに食べさせればよかったと20個ずつくらい摘んだところで気づいた。
収穫コンテナの中身を全部タマちゃんに食べさせ種だけ出してもらったところ、結構な数の種が集まった。
最初の果樹園では6メートル間隔で全部で64本植えたので、こっちも同じだとするとオレンジとグレープフルーツそれぞれ32個ずつの種が必要になる。
タマちゃんの出してくれた種を数えてみたらどちらも32個以上あった。
ちょうどよかった。
収穫コンテナはタマちゃんに預けて俺は今のところ畑状態の第2果樹園に行き前回同様6メートル間隔で種を植えていった。
この作業はすぐに済んだ。
如雨露を持って池に突き出した桟橋から身を乗り出して水を汲み何度か第2果樹園との間を転移で往復して水やりを終えた。
時刻は8時半。
朝食を食べずに頑張ったので、朝食の準備を始めることにした。
準備と言ってもお茶を用意するだけなので手間ではない。
ウォーターで手洗いしたあと半地下要塞の中に入り、ヤカンにポリタンクから水を入れて湯を沸かし、沸いたら紅茶のティーバッグを入れたコップに注いで準備は終わった。
後はサンドイッチと調理パンをタマちゃんから出してもらって食べるだけ。
フィオナ用にはいつものように桃をむいて実を小さく切ったものをやった。
フィオナにやって残った桃をタマちゃんと分けてデザートにしたところお腹いっぱいになってしまった。
朝食を食べ終わりタマちゃんに後片付けをしてもらったら、もう何もすることがない。
しばらくハンモックに揺られて寛ぎながら、今日の方針を考えた。
バイクはないがそろそろ本格的に27階層を探索するか。
準備するものは、食料は十分だし、飲み物も十分なので今のところ何もない。
俺はタマちゃんの入ったリュックを手に、フィオナを肩に乗せ、一度専用個室に転移して武器を装備した。
最後のリュックを背負い直してヘルメットを被り、カードリーダーにタッチして池の前に取って返し、森に分け入った。
森の中は、渦から池までの森の中と特に変わったこともなく大木やら灌木が生えていて、下草が生えているところもあれば地面がむき出しのところもある。
鳥の鳴き声がたまに聞こえてくるのだが、鳥の数が少ないのかまとまった鳥の鳴き声は聞こえてこない。
特にアテがあるわけではなかったが、俺は太陽の位置から考えて南方向に進んでいった。
歩き始めて約3時間。何も変わったこともなく昼になってしまった。
とにかく広大な空間だからそう簡単に何かが見つかることはないだろう。
自分の現在位置を覚えて、半地下要塞に戻り昼食をとった。
落ち着くなー。
おむすびを温かい緑茶でいただき、デザートはミカンにした。
品種はおそらくイヨカンだったと思う。
結構1つが大きなミカンだ。
皮をむくとイヨカン特有の甘酸っぱい匂いが部屋いっぱいにたちこめた。
皮をむき終わった頃には指先が黄色くなっていた。
イヨカンは内側の袋が柔らかいのでそのまま食べてもいいのだが、やはり内側の袋から出して食べたい。
しかし、袋から実を出そうとすると実が潰れてそこら中に汁が飛ぶ。
自分の部屋だから問題はないが、見た目は確かによろしくない。
最初の1袋分の潰れたミカンはフィオナにやった。
懲りずに2袋目から先も袋から中身を取り出して中身を食べる。
皿の上にイヨカンの皮と、中身がだいぶくっついたままの袋を残して結構苦労して全部食べ終えた。
指先はもちろんテーブルの上もイヨカンから飛び散った汁でかなり汚れた。
部屋の中の汚れや生ごみはタマちゃんに処分してもらう。
最初のころはゴミを食べさせたくはなかったのだが、クリーニングもしてもらって汚れを食べてもらっているので気にすることもないという感じで今に至っている。
フィオナの手と顔はタオルで拭いてやり、俺の指先は外に出てウォーターで水洗いした。
よし!
昼休憩を終えた俺は外していた装備を整え
再開と言っても午前中最後に立っていた場所に転移してそこから森の中を歩いていくだけ。
開かれた同一空間内での転移のおかげか、半地下要塞と今いる自分の位置や、26階層からの渦の位置なども何となく把握できている。
午前中と同じく何も変わったところがないまま、1時間ほど歩いたところ急に森が開け空き地に出た。
その空き地は半地下要塞のある辺りのように自然にできたような空き地とはどこか感じが違っていた。
雑草が路面から生えているものの敷石で舗装された道が空き地の少し先から向こうの森に向かって走っていたのが違和感の原因だった。
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