第153話 春休みの終わり2


 リュックの中のタマちゃんからペットボトルを渡してもらって、池の縁から身を乗り出して水を汲もうとしたのだが、河村さんが苦労していた通り俺もかなり苦労してペットボトルに池の水を詰めた。

 無理やり沈めると潰れてしまうから斜めにしてゆっくりペットボトルの中に水を流し込むしかない。

 それでも何とか6本満杯にしてキャップをはめてタマちゃんに預かってもらった。


 次は治癒いけの水を沸騰させた後どうなるのかの検証だ。

 タマちゃんにガスレンジとヤカンを出してもらい、ヤカンに池から水を汲んで沸かしてみた。

 

 お湯が沸騰したところでコップに注ぎ、金の指輪をはめて鑑定したところ『治癒の熱湯』ということが分かった。

 これの温度が下がったら『治癒のお湯』、もっと下がったら『治癒の水』に戻るのか? はたまた『治癒の湯冷まし』になるのか? ちょっと興味がある。

 熱で効能が消えないということが分かって一安心だ。

 考えたらナスビは普通熱を通すものだけど、水を熱して効用が変わらないならナスビも平気だろうし、イチゴをジャムにしても問題ないだろう。

 

 お湯がだいぶ冷めたところで鑑定したら『治癒の湯』だった。温泉みたいな名まえなので、ちょっと笑ってしまった。

『治癒の湯』を入れたカップに緑茶のティーバッグを入れてしばらく置き、ズズズズーとお茶をすすった。

 俺は自分の舌が肥えているとは全く思っていないが、今まで飲んだお茶のなかでこのお茶が一番おいしかった。と思う。確証はもちろんない。



 池の縁から身を乗り出してそれで水を汲むのは、縁が池に向かってやや斜めでもあるしいささか難しい。

 身を乗り出しやすいように桟橋のようなものを作れば水を汲みやすくなる。

 あと、バケツと漏斗じょうごだ。

 池の縁から杭を池の中に打ち、2本の杭に横木を梁にして渡してその上に板を固定しながら少しずつ伸ばしていけば桟橋ができるはず。


 まずはタマちゃん製材所に頼んで木槌を作ってもらった。

 木槌の頭の真ん中に穴をクリ抜いてもらい、そこに柄の先端を突っ込んで反対側からクサビを叩き込んで出来上がり。

 あとは、杭と、杭と杭の間をつなぐ梁。そして梁に渡す渡り板。

 こういった材料をタマちゃんに作ってもらった。


 池の縁から手の届くところに杭を立てタマちゃんに支えてもらい木槌で杭を打ち込む。

 1メートルほど離してもう1本杭を打ち込む。

 この2本に縁の高さと同じ高さで梁材を渡し、やや細めのロープで固定した。

 その後縁の外側から梁に渡り板を渡す。

 次に杭のある所まで行って手の届くところに2本杭を打って梁材を渡して固定し、渡り板を延ばす。

 同じ作業を繰り返して、縁から3メートルほどの桟橋ができ上った。

 桟橋の上で飛び跳ねてもびくともしなかった。なかなかの出来だ。

 木槌はタマちゃんに預けて、俺はホームセンターにバケツと漏斗じょうごを買いに行った。


 バケツは家庭用品売り場、漏斗は園芸用品売り場に置いてあった。

 レジを済ませた商品はどちらもタマちゃんに預け、再度半地下要塞に転移し、床の上にバケツと漏斗を置いておいた。




 うちに帰る前、庭の確認をしたところ今日買ってきた苗木はだいぶ大きくなって葉も増えていた。

 そこで閃いた。

 今日植えたリンゴは梨の木の隣りなんだが、幹が太くなればハンモックを2本の木に渡せそうだ。


 ダメなら半地下要塞の中で使うこともできる。うちに帰ったらネットで注文してやろう。



 畑の状態を確認した俺は、うちの玄関前に転移し、治癒の水の入ったペットボトルのうち2本を台所にいた母さんに渡した。

「ダンジョンから汲んできたんだけど、おいしい水だからこれでお茶を淹れてもおいしいよ」

 

 さっそく母さんは俺の渡したペットボトルから『治癒の水』を湯沸かし器に入れて沸騰させ少し冷ましてから、急須にお茶っ葉を入れお茶を淹れた。

「あら。確かにおいしい」

「でしょ」

「それはそうと、一郎、今日はずいぶん早かったわね」

「バスのタイミングが良くて行き来に時間がかからなかったんだ」

「そう。ふーん。

 そう言えば冒険者ってA、B、Cってランクがあるって聞いたんだけど一郎はどのランクなの?」

 おっと、今までそういったことを聞かれたことがなかったのでうやむやにしてたんだけど、どうしようか。

 さすがに親に嘘はけないからなー。


「母さん、冒険者のことどれくらい知ってる?」

「ダンジョンに入る免許を持った人で、ダンジョンで見つけたものを国が買い取ってその代金は無税ってくらい。

 あとはA、B、Cってランクがあることくらい」

「そうなんだ。無税じゃなくって税金はその都度引かれてるんだけどね。

 それはいいとして、A、B、Cのランクの中でどれが一番高いランクだと思う?」

「それはAでしょう。

 大学だってA、B、C、DってあってAが一番でDは不可だもの」

「冒険者のランクは成りたての人は全員Aなんだよ。それが実績を積んでいくとB、C、Dと上がって最後にSになるんだ」

「そうなんだ。

 じゃあ、一郎はAランクなんだ」

「実は俺、Sランクなんだよ」

「そうなんだ。スゴイじゃない。へー。

 勉強もできるけど冒険者でも頑張ってるんだ」

 どうも母さんは冒険者のランクの仕組み自体を知らなかったようだ。


 俺が最低でも10億稼いだSランク、実は100億超えているって教えなくてよかった。

「そうなんだけど、自慢話になるから人には言わない方がいいよ」

「それは分かってる。

 主人と子どもの自慢話関係について、近所のお母さま方って結構うるさいから自慢話しないようにしてるのよ」



 少しだけ安心して部屋に戻った俺は、忘れないうちにと思いハンモックをネットで注文しておいた。

 到着は早くても3日後らしいので、使うのは次の休日になる。




 翌朝。春休み最終日。


 俺は朝食前に普段着のまま畑に転移した。

 リンゴとミカンは順調に大きくなって、どちらの木にも小さな実ができていた。

 午後には食べられるくらいまで大きくなりそうだ。


 池の周りを一通り見て回った俺はうちに帰って朝食を食べ、それから支度をしてタマちゃん、フィオナを引き連れて専用個室に転移した。


 武器を装備した俺は久しぶりにモンスターと戦うため26階層のゲートキーパーの部屋に転移し、そこから徘徊モードで昼まで適当に石室巡りをして爬虫類スケルトンをたおしていった。


 昼食は半地下要塞の中でとった。

 今日は豪華にフライドチキンとおむすび、それに癒しの湯で淹れた緑茶だ。

 椅子に座って食べた方が確かに文化的なのだが、テーブルは4人席なのでちょっと寂しい感じがしないでもない。

 でもフィオナがテーブルの上で小さく切ってやった桃を頬張っているところを見ているとなごむんだよなー。


 午後からは25階層からの階段下に転移してそこから徘徊モードで石室を回った。

 徘徊を切り上げたところで畑に戻ったら、リンゴもミカンもちゃんとした実をつけていた。

 鑑定指輪で鑑定したところ『活力と治癒のリンゴ』『活力と癒しのミカン』だった。



 その日は合計で68個のクロ板とそれに付随した核などを手にした。

 この日の総買い取り額は4447万円。



 累計買い取り額は、212億6939万7000円となった。

 明日になれば、盾とかの代金2584万円が追加されて、累計買い取り額は、212億9523万7000円になるはずだ。



 今回の春休みは俺にとって有意義な休みだった。


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