第151話 春休み終盤。ダンジョン管理庁管理局企画課5
食後に桃を丸ごと1つ食べた俺はお腹がいっぱいになった。
元気いっぱいなのだが、体を動かしたくないというおかしな状態になってしまった。
今日は早いけどこれくらいで上がることにして荷物をまとめて専用個室に転移した。
そこで買い取り係の人を呼んで26階層のゲートキーパー探索時に手に入れた核を買い取ってもらった。
核の買い取り価格は、151個で9845万円。
これで累計買い取り額は77億9409万7000円+9845万円=78億9254万7000円となった。
買い取り係の人が部屋から退出する時、盾と剣と宝箱を積んでおくので後で見てくれと頼んでおいた。
その後、タマちゃんから出してもらった盾と剣と宝箱を部屋の中に積んでいった。
どれも核と同じ151個あるので、これは本当の意味で山になってしまった。
今日の俺はカードリーダーにノータッチだったので、そのままうちの玄関前に転移した。
玄関前に現れたものの、そろそろ買い貯めてあった食料も少なくなってきていると思ったのでその足で近くの総合スーパーに歩いていった。
カートを押して総菜コーナーに行きサンドイッチ類と調理パン類、それにおむすびを大量にカートに入れた。
総菜コーナーの先にフライドチキン屋がテナントで入っていたので順番待ちの後、紙製のバケツに入った12ピースを4つ買ってやった。
順番待ちも含めて全部出来上がるのにかなり時間がかかった。
こういう時何となくではあるが店員の顔とか他の客の顔を見ないようにしている。
ここの会計はスーパーとは別なのでその場で精算し、そのあとカートを押してスーパー側のレジに並んだ。
こっちのレジは時間帯の関係か空いていた。
精算済みの商品を入れたカートを押して作業用のテーブルの前まで行き背負っていたリュックを床に置いて荷物をカートからリュックの中のタマちゃんに預けていった。
作業が終わってリュックを担ぎ直し、カート置き場にカートを戻して店を出た。
「ただいまー」
『おかえりなさい。
今日は早かったのね』
俺は玄関から廊下に上がって食堂に入った。
「今日は、お土産があるんだ」
「何なの?」
俺はリュックの中のタマちゃんから梨と桃とトマトとイチゴ、それにナスビを渡してもらい、テーブルの上に並べた。
「こんなにたくさん、立派な果物に野菜。どうしたの?」
「ダンジョンで採れたんだ」
「採れた?」
「そう」
「勝手に採ってきていいものなの?」
「ダンジョンで採れたものは基本的にはとった者のものだから平気」
「そうなんだ。
ダンジョンでこんなものが採れるなんて知らなかった」
「これからダンジョン産のこういったものが出回るかもね。
それと、どれを食べても疲れは取れるから、母さんもイチゴを試しに食べてみてよ」
「そう。じゃあさっそくいただくわ」
母さんがイチゴを1粒とって水道の水で軽く洗って口に入れた。
「甘ーい!
あれ? 確かに元気が出てきたような気がする」
「でしょ?」
「これは驚きね。
お父さんが帰ってきたら一緒に食べようか」
「俺はもう十分だから、ふたりで食べなよ」
「そうなの?」
「俺のことは気にしないでいいから」
俺はそう言って食堂を出て2階の部屋に戻った。
父さんは7時過ぎに帰宅してひとりで夕食後、母さんと一緒に桃を食べた。
俺は食べなかったが父さんも母さんも桃には驚いていた。
ベッドに入り、あの新世界?の探索方法について考えてみたのだが、どう見ても徒歩では限界がある。
なにか機動力のある乗り物があればいいのだが。
オフロード車があればなー。
買うのは簡単だろうが、免許がなー。
でも、ダンジョン内しかも冒険者は俺しかいない27階層を走る分には免許は不要のハズ。
しかし、故障でもしたら修理に出さないといけないし、その時免許もなければ登録もしてないはずなのでナンバーもないことになるよな。
お金さえ払えば何とでもなりそうだが、こっちは16、7歳の小僧。
まともに相手にされない可能性もある。
相手にされたとしても、修理屋までの移動はタマちゃんに収納しての移動になる。
タマちゃんを人前に晒せない以上、難しい。
おいおい考えよう。
いろいろ考えると、免許はとっておいた方がいいだろうし、ちゃんと登録するに越したことはない。
今の俺の年齢だと自動車免許は無理だ。
俺の年齢でとれるのは、バイクの中型車までみたいだ。
バイクでは長時間の運転は疲れそうだが、魔法もあれば、元気の出る食べ物も揃っているからどうってことないか。
春休みはあと2日なのでどうしようもないが、夏になったらバイクの免許を取ろう。でも、結局何かにかまけて免許はとらないような気もしないではない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
当日夕方。
ダンジョン管理庁管理局小会議室。
例のごとく河村課員が長谷川一郎に27階層、正確には26階層の先を案内してもらった件について小林企画課長と山本課長補佐に報告していた。
「……。
27階層と言いましょうか、渦の先の階層は、1階層の大空洞などと比べものにならないほど広大でしかも空に太陽がある空間でした」
河村課員が大空洞の写真のコピーをふたりの上司に渡した。
「これはどう見ても地球じゃないのか? これが地球ではないとするとある意味大問題かもしれない。いや逆か、これが地球だとすると日本が他国と地続きということになり領土問題にもなりかねない」
「課長、まずはダンジョンという前提で考えていきましょう」
「われわれはダンジョン管理庁の職員だしな。
しかし、この大空間に加えて効能付きの果物と野菜。
そして、治癒の水。
さらに、26階層の2方向への渦。
ダンジョンレモンの効用も長谷川くんの言う線で確かめてみる必要があるが、いずれにせよ、自衛隊ですら到達できない空間であるわけだから、今回の件についてはわれわれにできることは何もないということではないか?」と、小林課長。
「そのようですね」と山本課長補佐が相槌を打った。
「治癒の水と果物その他については農林水産省の研究所に検査に出しています。
もし、治癒の水にケガだけではなく病気に効果があった場合、大変なことになるのではないでしょうか?」
「なるだろうな。
その水の採集は長谷川くん次第。
とんでもない価格に成ることだけは確かだ。
薬として販売するには薬事法とかいろいろハードルがある。
どこかのweb小説(注1)で読んだことがあるのだが、清涼飲料水として販売は可能だろう。
効果がないものを高額で売れば詐欺だが、効果があれば詐欺にはならないだろう。
病気が治るとかの宣伝はできないだろうがな」
「課長。よろしいですか?」
「なんだね?」
「管理課から今朝連絡があったんですが、長谷川くんの累計買い取り額が100億超えたようです」と、山本課長補佐が追加した。
「100億か、想定外の大金だな。
待てよ。いい機会だからSランクの上にSSランクを作ってもいいんじゃないか? 累計買い取り額100億越えでSSランクだ。
長谷川くんの今の勢いだと1000億も夢じゃない。
SSSランク1000億もついでに作ってしまおう」
「それは夢がありますねー」
「SSランクはプラチナ。
銀色と区別しづらいから、そこらへんは一工夫必要だな。
ホログラムみたいにしてキラキラさせてもいいかもしれん。
SSSランクはブラック。これは譲れんな。
こっちは簡単だろう」
「意匠というほどではありませんが、その辺りを詰めて準備出来次第ホームページに掲載します」
「山本くん、頼んだよ」
「課長、26階層のゲートキーパー撃破についての発表はどうなりますか?
発表するタイミングについて長谷川さんに伝えておきますので」
「今回は伏せておいた方がいいだろうな。
新しい階層がこれまで通りだったのなら発表は問題なかったのだろうが、1階層を大きく超える大空洞というか、もしかしたら新世界となるとな。
彼以外の冒険者が到達する可能性が極端に低い以上問題はないだろう」
「了解しました」
注1:どこかのweb小説
『岩永善次郎、異世界と現代日本を行き来する』よろしく!
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