第150話 案内2。クロ板売却


 渦の前から、河村さんを連れて畑の前に転移した。

 そんなに時間は経っていなかったのだが、野菜類には新しくつぼみができていた。

 この調子だと昼過ぎには花が咲いて夕方までには実もそれなりに大きくなりそうだ。

 怖いほどだな。


 取りあえず河村さんへの説明はこんなところでいいかな。

「河村さん。何かありますか?」

「この階層ってサイタマダンジョンの最下層なんでしょうか?」

「階段とか渦があれば、その先があるということなんでしょうが、この広さなので簡単には見つけられない=最下層なのかどうかはわからない。というところです」

「分かりました。

 長谷川さん。今日はありがとうございました」

「いえいえ、それじゃあセンターの個室の方にお連れしましょう」

「はい」


 河村さんが俺の手を取ったところで専用個室に転移した。

「長谷川さん。魔法封入板はいつ頃売却されますか?」

「いつでもいいですよ。

 どうやって売ればいいですか?」

「長谷川さんに、種類別に分けていただかないとこちらでは使ってみるまでどういった魔法が封入されているか分かりませんので、別々の箱に入れていただくか、板に分かるように文字を書いてもらわないとならないと思います」

「それじゃあ、白い油性マーカーか何かで明かりの魔法なら『1』って具合に書いてしまいますか?」

「はい。それで十分です。センターに白い油性マーカーがあるか聞いてみます」


 河村さんがスマホを出して、ダンジョンセンターのどこかに電話した。

 ……。


「白い油性マーカーありましたし段ボール箱もありました。

 部屋も借りましたから、部屋に持ってきてもらうよう頼みました。

 そこで作業をしましょう。

 場所は自衛隊の魔法封入板を見ていただいた時と同じ部屋です」


 河村さんについて専用個室を出て前回の会議室のような部屋に通された。


 テーブルの上に何も置いてなかったのだが、すぐに失礼しますと言って女の人がふたり組み立て前の段ボール箱とガムテープ、それに白い油性マーカーと黒い油性マーカーを数本ずつ持ってきてくれて一礼して部屋を出ていった。


「じゃあまずは、テーブルの上にクロ板を出していきます」

「わたしは箱を作っていきます」


 俺は、リュックの中に手を入れて、タマちゃんからクロ板を手渡してもらってそれをどんどんテーブルの上に積んでいった。

 数えながら積んでいったところ、全部で451個あった。

 休み前に数えた時はちょうど300枚だったが、26階層のゲートキーパー探索でだいぶ増えていた。



「ずいぶんたくさんリュックから出てくるんですね」

 箱作りを終わった河村さんが少しだけ驚いた感じで俺に言ってきた。

「はい」

 河村さんはタマちゃんのことは知っているわけだから、あれだけの物を食べるのだから体の中になにがしか貯える能力もあるだろうと察しているんだろう。


 俺は明かりの魔法を『1』、水を作る魔法を『2』という順にマーカーでクロ板に書こうと思っていたんだけれど、前回同様俺が調べたクロ板を河村さんに渡し、河村さんに仕分けてもらうことにした。

 なので、河村さんはでき上った小箱に魔法の種類を書いていった。


 金の指輪は朝からはめたままだったので、どんどん鑑定していった。

 どんどん鑑定していき、鑑定済みのクロ板を河村さんに渡していく。

 河村さんはそのクロ板を対応する段ボール箱に詰めていく。

 罠を解除するクロ板を鑑定して思い出したのだが、今のところ罠の類は見つかっていないので、やはりどこかに罠の仕掛けられた階層があるはず。

 だから、あの大空洞は最後の階層ではないハズだ。


 ……


 30分少々で何とか作業を終わった。


 明かりの魔法×73個

 水を作る魔法×75個

 炎の矢を撃ちだす魔法×38個

 石のつぶてを撃ちだす魔法×33個

 罠を解除する魔法×32個

 解毒する魔法×28個

 ケガを治す魔法×41個

 疲れをいやす魔法×39個

 力を増す魔法×28個

 素早さを増す魔法×20個

 宝箱を開ける魔法×21個

 罠を見つける魔法×23個

 合計451個


「長谷川さん、罠関係と宝箱については買い取り価格が未定のため引き取れません」

「了解しました」

「数量の確認をセンターの人が行ないますが、まだ午前中なので今日中には長谷川さんの当座預金口座に振り込まれると思います」

 核や盾なんかもうちに帰る前に買い取ってもらおう。


 時計を見たらまだ10時半だった。

「作業も終わったし、どうします?」

「この箱を担当の人に預かってもらえば、こちらの仕事は終了です」

「それじゃあ、俺はここで失礼してもいいですね?」

「はい。

 今日は本当にありがとうございました。

 また何かあれば連絡を差し上げますからよろしくお願いします」

「はい。了解です」



 俺は下ろしていたタマちゃん入りのリュックを背負って27階層の半地下要塞前に戻った。


 昼までにテーブルと椅子を作ろう。


 まずはテーブルだな。

 4人掛けを想定して縦1メートル、横2メートル。

 天板は厚い方がいいので、厚さは5センチとしてタマちゃんに製材してもらった。

 作業は半地下要塞の中だ。


 表面をなるべくツルツルにしてほしいとタマちゃんへ要望したところ、ニスを塗ったみたいにツルツルの板ができ上った。

 そもそも元の大木もなくなっているだろうし、少なくとも1メートル幅の1枚もの板など取れないだろうと思っていたのだが、まだ材料が残っていたようだ。

 かなり重たい板だったが、元勇者の俺には何ともない重さだった。


 縦70センチ、横1メートルで天板と同じ厚さの板を2枚作ってもらいそれをテーブルの幅に合わせて高さ70センチの脚にすることにした。


 せっかくきれいな天板のテーブルなので、脚をつけるためにくぎを打ってはもったいない。

 いい手がないかなー。

 脚板の片側の端を凸状に加工して、天板裏にはそれに対応した凹状の溝を彫ればかなりしっかりすると思う。それに木工用の接着剤で固めてしまえばかなり丈夫になるはずだ。

 2枚の脚板の下の方に固定するための梁を渡してしまえばしっかりするはず。

 梁は脚板下部中央に孔を空けて、そこに通して接着剤を付けたクサビで固めてしまえばいいだろう。


 タマちゃんは俺が適当に口にした寸法なんだけど、最終的にでき上るテーブルを意識してか、でき上った材料を接着剤抜きで組み立てたらピッタリの物が組み上がった。


 よし!

 ということで、俺は木工用接着剤を買うためホームセンターの階段の踊り場に転移した。


 近くに人はいたもののいきなり現れた俺の方向を見ていなかったようだ。

 よく考えたらいきなり現れようが、他人に迷惑をかけているわけでもないので問題ないからな。

 SNSなどで拡散されない限り無問題。


 俺は勝手知ったる2階の売り場を歩いていき、最初に良さげな文化包丁と果物ナイフ、それに料理バサミを店の買い物かごに入れ、工具売り場の隣りの資材売り場に置いてあった手提げの容器に入った木工用接着剤を買い物かごに入れてレジに並んで精算した。

 料理バサミは料理に使うこともあるかもしれないが、果物とかの実を摘み取るために買った。


 階段の踊り場まで戻って、リュックの中のタマちゃんに買った荷物を収納してもらい、誰からも注目されていないことを確認してから現在作業場になっている半地下要塞の中に転移した。


 さっそく仮組したテーブルを分解して白い接着剤を容器についていたヘラで塗って再度組み立てた。

 完全に接着するのに24時間かかるようなので、でき上がりは明日だ。


 次は椅子だ。

 2人掛けの長椅子を2つ。

 作り方はテーブルと一緒で、小さくなるだけだ。

 すぐにタマちゃんが材料を加工してくれたので、接着剤を塗りながら組み立てていきあっという間に椅子ができ上った。


 時計を見たらちょうど正午だったので、果物類を食べたおかげでお腹は空いてはいなかったが昼にすることにした。


 半地下要塞から出て下草の生えた地面に座り込んで、まずはガスコンロで湯沸かし。

 お湯が沸いてある程度冷ましてから、緑茶のティーバッグを入れたコップに注ぎしばらく置いて出来上がり。


 お茶の用意ができたところで、タマちゃんに出してもらったおむすびにかぶりついた。

 タマちゃんには、あとで果物とトマトをやればいいだろう。トマトと果樹にはたくさん実が生っているからな。



 おむすびを食べ終えた俺は、料理ハサミを持って桃と梨を2つ摘み取って、トマトも5つほど摘み取った。

 桃を1つと、梨2つ、トマトは全部タマちゃんに食べさせた。

 桃の皮ってむきにくそうだが、何とか今日買った果物ナイフで皮をむいだ。

 種に沿って4方向から切れ目を入れて、実を4分の1指で外して口に運んだ。

 皮をむいている時も指で種からはがすときも盛大に果汁がこぼれ甘い香りが漂っていたのだが口に入れて噛もうとしたら果肉は崩れるように潰れて甘さとわずかな酸味が口の中いっぱいに広がった。


 これは最高だ!

 梨もうまかったが、桃には勝てないな。

 桃こそ果物の王さまと言っていいだろう。


 桃1つ食後に全部食べたらお腹がパンパンになってしまった。


 大体、お腹をいっぱいまで膨らませると眠くなると相場は決まっているのだが、何せ食べたのは『活力と癒しの桃』だ。

 ここにきてやっと元気いっぱいを実感することができた。




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