第148話 池の周り
コンクリートが固まったか確かめたらやることがなくなった。
昼にはまだ時間がある。
そうだ!
レモンの苗木が1日2日で実が成ったんなら他の苗木でもいけるんじゃないか?
木じゃなくてもイチゴとかも。
そう思い立った俺は、タマちゃんとフィオナの入ったリュックを背負い直してホームセンター脇に転移した。
裏側の出入り口の先の露天の園芸売り場に回って、苗を見て回ったところ予想通りイチゴの苗は売っていた。
そして、トマトの苗も売っていた。
イチゴの苗を4つと、トマトの苗を2つ、あと、ナスビの苗が目に付いたので2つカートに入れた。
苗木を見て回ったら、今日は桃の苗木を売っていた。
桃の苗木と目に付いた梨の苗木を1本ずつカートに入れて、レジに戻って清算した。
買った苗類はカートに入れたまま駐車場の方に移動しつつタマちゃんに収納してもらい、空になったカートは野外のカート置き場に返しておいた。
周りをぐるりと見て、誰も俺を注目していないこを確かめて池の縁辺りに転移した。
もうコンクリートは大丈夫なので、まずは型枠を外すことにした。
杭を引っこ抜いた穴と型枠を押し込んだ溝跡は残ったものの結構きれいに仕上がっていた。
恐らくプロは、穴や溝を塞ぐためにこの上にモルタルを塗るのだろうがそこまでの必要はないだろう。
さて次は畑づくりだ。
俺は植樹で使った先のとがったスコップをタマちゃんに出してもらって、半地下要塞から池の側に向かって畑を作ることにした。
とは言っても、大した量の苗ではないので、そこまで大きいものではない。
イチゴを含めた野菜畑の広さは2メートル×2メートル。
30センチほど掘り返してから苗を植えていった。
野菜畑から左右に4メートル空けて桃の苗木と梨の苗木を植えることにした。
こちらは直径3メートルくらいを深さ60センチくらいまで掘り返してやりそこに苗木を植えてやった。
最後に池の水をヤカンに汲んで苗の周りにかけてやった。
明日どうなっているのか楽しみだ。
野良仕事を終えた俺は手を洗って昼食の準備を始めた。
昼食はいつも通りおむすびなので、ガスコンロでお湯を沸かすだけだ。
今回はヤカンに池の水を汲んでみた。
もし、池の水にヒールポーション並みの効能があるなら、うまいお茶がはいると思ったのだ。
場所は畑の前の地面。
建物の中で椅子に座ってテーブルに置いたものを食べようということから作り始めた要塞だが、半地下の建物の中より外の方が気持ちが良さそうなので、いつも通りだ。
お湯が沸いたところでコップに緑茶のティーバッグを入れておき、湯が冷めるのを待ってコップに湯を注いだ。
数回ティーバッグを揺り動かして一口すすった。
うまい!
とはいえ、ウォーターの魔術で作った水を沸かした時と味が変わったのか? と、聞かれれば正直にわからないと答えるしかない。
おむすびを頬張りながら、お茶を飲み、畑越しに池を見ていたところで閃いた!
というか自分の頭の悪さに情けなくなった。
俺はタマちゃんに金の指輪を出してもらい、それをはめて池の端まで歩いていき池の水を鑑定してみた。
『癒しの水』
ということが分かってしまった。
カタカナにすればヒールウォーター、小瓶にとればヒールポーションだ。
ふー。
ここに自分の指に釘を刺したバカ者がいまーす。
レモンの木も鑑定すればよかったわけだ。
昼食が終わったら見に行ってみるか。
そこまでしなくてもまだレモンは半分以上残っていたからそれを鑑定すればいいだけだ。
俺はさっきまで座っていたところに戻ってリュックの中のタマちゃんにレモンの残りを出してもらった。
さーて、鑑定やいかに?
『活力のレモン』
スタミナレモンか。
やはりただものではなかった。
俺はいつも元気一杯だから効用が分からなかったということなのだろう。
分析した結果、レモンの成分しかなかったそうだから、マラソンなんかの給水所でこのレモン果汁を置いておけばドーピングし放題だな。
俺は今までヒールポーションを野菜や果物にかけて育てたという話はあたりまえだが聞いたことはない。
さっき苗と苗木にヒールポーションを水代わりにかけたのだが、大丈夫だろうか?
お茶にして飲んだところ、ただのお湯と変わらなかったので多分大丈夫だろう。
人間にいいものが植物に悪いということもないはずだ。
おむすびを食べ終えて、お茶を飲みながら畑を見ていたら、またあることに気づいてしまった。
今日植えた野菜類と果樹だが、花が咲いたとしてどの花も受粉させなければ実ができない!
俺がいちいち人工授粉させるのはちょっと面倒だ。
ハチくらい飛んでいればいいものをどこにも飛んでいないんだよな。
ハチ以外の昆虫もいないようだし。
いや待てよ。
小鳥が飛んでいるわけだから、虫がいないはずないよな。
ちゃんとその気になって虫を探せばなにがしかのムシはいるはずだ。
午後からの俺はその気になって虫を探すことにした。
タマちゃんの入ったリュックを背負い、フィオナを肩に乗せて池の周囲から少しずつ外に向かって歩き始めた。
これまでディテクターに頼っていたので本物の昆虫くらいの小さな生き物に目が向かなかったのは確かだ。
その気になって探していたら、やはり昆虫はいた。
足元にアリがいたのだ。
アリがいたならハチもいるはず。
そう思って歩いていたら、ハチもちゃんと飛んでいた。
俺の動体視力で確かめたハチの種類はミツバチだ。
ミツバチの巣を見つけてそこからミツを回収できればその蜜もなにがしかの効用があるかもしれない。
夢は膨らむがすぐにハチを見失ってしまった。
よく考えたら、森の中にハチがいたということはこの森の中に花が咲く草木が生えているということだ。
探し物を虫から花に切り替えて森の中を歩いていたら、ちゃんと花が咲いている木も草も生えていた。
いままで気付かったのはきっと先入観のせいなのだろう。
ますますここがダンジョン内の超大空洞ではなく新世界である可能性が高まった。
とりあえず放っておいても受粉してくれそうだ。
俺は安心して畑の前に転移して戻った。
畑に戻ってみたら明らかに苗も苗木も大きくなっていた。
ということは、やっぱりここはダンジョンの中で超大空洞なのか?
訳が分からなくなってきた。
いずれにせよ土地はいくらでもある。ここを農園にしたら日本の食料は全部賄えるんじゃないか?
ただ、俺しか行き来出来ないから何の意味もないけど。
畑の野菜をジーッと見ていたら、大きくなってきているのがなんとなく分かる気がしてきた。
苗が土になじんで成長が加速しているのかもしれない。
理由はどうあれ、これはすごい。
見ていて飽きない。
野菜もそうだが、ひょろひょろの苗木だった果樹も太く大きくなって緑の葉をつけた枝を張り、小枝の先にはつぼみができている。
気付けば時刻は午後4時。
日はだいぶ傾いてきている。ずいぶん長いこと植物の成長に見とれていたようだ。
いつまで見ててもきりがないので、なごり惜しいが俺はうちに戻ることにした。
その日、またまた俺は河村さんにメールした。
内容は、レモンを調べたところ
そして、27階層で、ケガが治りそうな特殊な水でできた池を見つけたことの2点だ。
27階層が超大空洞だということを河村さんは知らないので、洞窟とか石室内で池を見つけたと思うのだろうが、どうせ実物が見たいと言うだろうから今回も詳しい説明は省略した。
メールを送って5分後には返信があった。
『詳しい話をうかがいたいので、いつでも都合のいい日時を教えて欲しい』という内容だった。
俺は明日の8時に専用個室で待っている。と、返事しておいた。
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