第147話 半地下要塞完成。池の水
半地下要塞がほぼ完成した夜。
俺は26階層のゲートキーパーを撃破したと河村さんにメールしておいた。
撃破前の巨大スケルトンの写真も添えている。
26階層の2方向ゲートと27階層についてはどう考えても俺以外関係ない話なので、会うことがあれば詳しく話してもいいが、ややこしいこともありメールには書かなかった。
河村さんからすぐに返信があった。
おめでとうございます。という言葉が返ってきたが27階層についての質問はなかった。
代わりに俺たちの植えたレモンについて書かれていた。
内容はレモンには毒などは一切含まれておらず、成分的には普通のレモンと変わらないということだった。
ただ、ダンジョン産のレモンのため、何か特別な効能があるかもしれないので引き続き研究するという内容だった。
そして、レモンの木の周りに関係者以外立ち入り禁止のステッカーを張った通行止めのフェンスを置いたそうだ。
もちろん俺は関係者のひとりになっている。
何度もレモン果汁を口にした俺だが何か特別な効能があったとは気づかなかった。
それよりも、毒があるか分析したらしいというところに驚いてしまった。
確かに何が入っているか分からないものな。
何も考えずレモンを絞ったステーキおいしい、レモンティーいけるとレモンを使っていた俺は、モンスターの核をいきなり舐めた浜田のことを笑えない。
まあ、結果オーライ。
その後、スマホで小屋の建て方のようなものを調べてみたところ、俺の半地下要塞はいい線いっていた。
瓦板の合わせ目について調べたところ、
そして翌日。
朝からホームセンターに転移して、6尺(182センチ)ものを3枚、それ用の木ネジとドライバーを買った。
2メートル近いものを運ぶのは大変そうだったが2階のレジは空いていたので何とかなった。
さらに階段の踊り場に誰もいなかったのでリュックの中のタマちゃんに棟板金と一緒に他の物も収納してもらい、そのまま半地下要塞前に転移した。
ダンジョンの中で物を置いておくと時間が経つとダンジョンに飲み込まれてしまうこともあるので少し心配だったが、俺の半地下要塞は健在だった。
昨日タマちゃんが吸収した大木もレモンの苗木のごとく1日で元に戻るかもしれないと思っていたのだが、昨日タマちゃんが吸収した大木も切り株のままちゃんと残っていた。
切ったものが一夜にして元に戻るようなら開墾は難しいが、これならこの辺り一帯を開墾することも可能だ。
将来ここら一帯を開墾して老後の趣味として家庭菜園でもすればいいかもしれない。
俺はさっそく要塞の中に置いていた梯子を持ちだして屋根の上に上がって
木ネジを瓦板にねじ込むのが結構大変だったが15分ほどかかって何とかやり終えた。
なかなかカッコいい。
次は出入り口の階段だ。
タマちゃんに土を削ってもらっただけの階段なので既に崩れかけている。
せめてモルタルを塗って固めないとただの斜面になってしまうし、床が泥だらけになってしまう。
俺は再度タマちゃん入りのリュックを背負ってホームセンター脇に転移した。
フィオナはリュックのポケットに入っている。
ホームセンターの店の人にそういったものを置いている場所を聞いてビニール袋に入った水を入れてかき混ぜるだけのインスタントコンクリート2袋とかき混ぜ用の先の平たいスコップ、それにプラスチック製の作業箱を買った。
プラスチック製の作業箱はトロ箱という名まえだった。
半地下要塞に戻ってまずは型枠用の板と細目の杭をタマちゃんに作ってもらい、板を階段の段々になるよう並べて杭で動かないよう固定した。
トロ箱にインスタントコンクリートを1袋空けて、袋に書いてあった分量の水を適当に入れてかき混ぜ用のスコップで練ってやった。
練り上がったコンクリートをスコップで階段の下の方から枠の内側に詰め込んでいき、足りなくなったところでもう一袋のインスタントコンクリートをトロ箱に空けて練って、練り上がりを同じように型枠の内側に詰め込んで表面をスコップで均してやった。
コンクリートで少し余った分は階段の入り口前に広げて塗っておいた。
袋の説明を読むとコンクリートは1時間で人が乗ってもだいじょうぶなくらい固まるらしい。
俺はその間にトロ箱やスコップを洗って干しておけばいいってことだ。
あまりほめられたことではないのだろうが、タマちゃんにセメントを洗った後の水を処分させたくはないので、植樹で使ったスコップで地面に穴を掘ってその中に流し込み地面にしみ込んだところで埋め戻した。
成仏してくれ。
後片付けも終わったので、俺は池の
口に入れてみようとしたところで、浜田の奇行とダンジョンレモンのことを思い出してやめておいた。
しかし、1階層の池の水について特段注意書きなどなかったのであの池の水は少なくとも毒でななかったのだろう。
それに俺にはクロ板で手に入れた解毒魔法があった。
さすがに一口飲んだだけで即死することはないはずなので、試しに口に入れてみることにした。
もう一度池の水をすくい直して口に含む。
どう見てもただの水だ。
池の縁に吐きだして、今度はタマちゃんにコップを出してもらってコップですくってみた。
コップの中の水は小さなゴミも何もないきれいな水だ。
俺はもう一度口に含んでごくりと飲み込んでみた。
お腹の中が少しだけ温かくなったような気がする。
この感覚ってどこかで?
これって、ヒールポーションの感覚じゃないか?
俺が訓練であちこち打ち身で腫らしていたら、飲まされたことが数回ある。
あの時のヒールポーションには青っぽい色もあったし若干エグミのような味があったのだが。
これは確かめた方がいいな。
ナイフで軽く指先に傷をつけてやろうと思ったのだが、今日は専用個室に寄っていないのでナイフはおろか武器類は持ってきていなかった。
あと適当なものはないかと考えたら釘があった。
ただ先端がそれほど鋭いわけではないし、釘は鋼鉄ではないので俺の指に押し込むにしても先が曲がってしまいそうな気がしないでもない。
それでも慎重に押し込めばある程度は刺さるだろうと思って一番細い釘を一本タマちゃんに出してもらってそれを右手に持って左手中指の先の腹の部分に押し当てて力を入れてみた。
あまりぶすりと入ってしまうとそれなりに痛いので慎重に。
少しずつ力を入れて押していく。
こういうのって、本物のケガに比べれば全然大したことないけれどもちょっとビビる。
それでも科学の発展のためだ。
さらに力を込めて釘を押したら、先端がほんの少しだけ俺の指の皮を破った。
実際全く痛くはなかったがそれでも血がプクリとでてきた。
この傷口に、コップに残っていた池の水をかけてみた。
血がコップの水に洗い流された後傷口が塞がっていた!
しかし、さっきの傷程度では俺の場合放っておいても短時間で傷が治ってしまう異常体質なので池の水に傷を治す力があるのか分からなかった。
はっきり言って徒労。
ちゃんと確かめるためにはもっと大きな傷じゃないと駄目だ。
しかし今以上に自傷してまで確かめる気にはなれなかったので、これもダンジョン管理庁の河村さん案件にすることにした。
飲みかけの緑茶のペットボトルの中身を飲み干して、ウォーターの魔術で作った水で洗い、池の中に突っ込んで水を一杯に詰め込んだ。
そうこうしていたら1時間近く経っていたので、コンクリートの固まり具合を確かめることにした。
指で押したところへこみは付かなかった。
階段の入り口に余ったコンクリートを塗ったところの上に立ってみたところ足形も付かなかった。ここは薄いのでジャンプしたりしたら割れそうなのでそれくらいで止めておいた。
その後階段の上に立ってみたところ問題ないようだった。
それでももう1時間は型枠を外さない方がいいと思い放っておくことにした。
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