第139話 哲学3人組ダンジョンデビュー2
俺が3人に魔法のようなものが使えることを明かした後も同じようなペースでモンスターを見つけてたおしていき、結局午前中に14個の核を手に入れることができた。
昼食は4人で適当な場所にじかに座り込んで食べた。
3人ともノリ弁でセンターの売店で買ったそうだ。
俺はいつも通りおむすびだけどな。
地面に座り込むあたりは、和田たちと一緒で秋ヶ瀬ウォリアーズの3人とは違うところだ。
「しかし、天気がこれほどいいのに太陽がないところが何ともいえないな」
「歩いていた時にはなにも違和感を感じていなかったんだが、こうして気になり始めると違和感が半端ないな」
「そうだな。
無ければならないものが欠落していることに一時的に慣れたとしても、その欠落を逆に強く意識してしまうって事だろうな。
このダンジョンの中だと太陽がそれだが、世の中そういう物ってたくさんあるだろ?」
「急には思いつけないが、あるんだろうな」
「ここでは太陽の欠落を意識してしまったが、欠落を意識しないで生きていける、生き続けることができることは、幸せの一つじゃないか?」
「意識しないということは、一種の忘却だ。
忘却を心の安寧を得る手段と考えることもできれば、忘却によって得られる安寧は欺瞞に過ぎないと感じる者もいる」
「真の忘却は欺瞞できるものではないが、真の忘却によって得られた心の安寧は真実なのではないか?」
「少なくとも彼にとっては偽りではない。と、言っても過言ではないだろうな。
太陽などまるで関係ない話になってしまったが、良い時間を過ごせた」
昼食を食べ終えたあと、少し休憩してから午後からのモンスター狩を始めた。
鶴田たちは午後からも好調にモンスターを狩っていった。
1時間ほど歩いて4個の核を手に入れ、俺が先導する形で歩いていたら横合いから4人組の冒険者が明らかに俺たちに向かってきていた。
以前にもこんなことがあったようななかったような。
その4人組の中のひとりが俺たちに話しかけてきた。
「おい、お前たち。
高校生なんだろ?」
正直相手にしたくないのだが、答えることにした。
「それが何か?」
「俺たち、全然モンスターに遭遇してなくって稼げていないんだ。
お前たち、核をもってたら譲ってくれないか?
もちろん金は払うぜ」
「われわれに何かメリットがあるんですか?」
「ああ? お前何言ってるんだ?
俺たちが頼んでるんだから、黙って核を寄こせばいいんだよ」
俺はそれまで丁寧な言葉つきで対応していたのだが、こいつらがならず者であることがはっきりした以上対応を改めることにした。
「お前たちは、俺たちを脅してるってことだな?」
「ふん。
痛い目に遭いたくなければ、早く出せよ」
話をしている男の仲間3人は移動して俺たちを囲んだ。
鶴田たちに手を出されると困るが、その時は実力行使しかないな。
「あんたたち、そういうことすると冒険者資格はく奪された上、おそらく実刑だよ?」
「俺たちがお前たちをノシて逃げれば足なんかつかねえよ」
こいつら常習だな。
しかし、高校生から核を脅し取るってすごーくみみっちいな。
「いちおう言っとくけど、俺、強いよ」
「何粋がってるんだ? 早く寄こすもの寄こせ!」
高ランク者である俺がAランクであろうこの連中をコテンパンにしてしまうとかなり問題があるので、どうするか考えた結果。
「俺、高校生Sランク冒険者なんだけど、それでもそういうことするわけ?」
そう言って金色のネックストラップを引っ張って防刃ジャケットの中に入れているカードケースを引き出した。
「お前、なにイッチョ前にハッタリかましてるんだ?
金色の紐も金色のテープもどこでも売ってるだろうが」
「嘘だと思われたのなら仕方ない。
お前らに本物かどうかケースから出して見せてやる義理もなし。
それじゃあソロSランカーの実力を見せてやるよ」
俺はそう言って一気に加速して男の脇をすり抜け、全く反応できなかった男のすぐ後ろに立ち男の肩を叩いてやった。
「分かったかな?」
いちおう高ランクの俺が手を出すわけにもいかないから殴り返せないんだよな。
これで手を引けよ。
「お前いま何をした?」
驚いて振り向いた男が俺に向かって聞いてきた。
男の唾が俺の顔にかかる。嫌だよもう。
後の祭りだが、ヘルメットしとけばよかった。
「俺の冒険者証は、ただのハッタリだったんだろ?
お前たちはハッタリSランクの俺の動きに反応もできないようなお粗末な実力しかないんだよ。
それでよくエラそうに
どれ。お前たちの冒険者証を出してみろ。
スマホで写真撮ってセンターに通報してやるから。
早く出せ!
オラオラ、早く冒険者証出せよ」
相手に考える隙を与えないようこっちから畳み込むようにすごんでやった。
俺の目前の男に向かって仲間の男が「おい、マズいんじゃないか」
とか、言い始めた。
いいぞ。
もう一押ししてやるか。
「
おっと、今日は剣を身に着けてないからメイスだな。
お前たちの実力じゃ目で追えないだろうが、よく見とけよ」
俺はベルトから大きい方のメイスを取り外しその場でビュンビュン振り回してやった。
あくまでデモなんだが、男の鼻先をメイスヘッドの先端が通過していくように振り回してやった。
俺の目の前の男を置いて残りの3人が逃げ出して、最後に目の前の男が逃げ出していった。
最後の男の顔ははっきり青ざめていた。
俺が少しメイスさばきを誤れば顔が抉れて顔面喪失するわけだしな。
何にせよ丸く収まってよかったよかった。
ああいった連中はダンジョンセンターの警備に通報した方が世のため人のためなのだろうが、今回は勘弁してやった。俺にとって面倒なだけだし。
「長谷川、今のすごかったな」
「俺も長谷川の動きが良く見えなかったし、さっきのメイスの動きなんか手元しか見えなかったもの」
「2年生に絡まれたくらいで動じないのは当たり前だったわけだ」
「あの時はまだDランクだったけどな。
連中、あれは常習者だったよな」
「だろうな。
クズってやつは、どの社会にも存在するってことだ。
そう言えば長谷川。魔法も使えるしメイスもすごいってことはいわゆる魔法戦士ってことか?」
「最近いろいろあって魔法が上達したんだけど、本当のところは魔法戦士といった本格的なものではなく魔法が使える戦士だな」
「第一人者がそういったことを言うと往々にしてイヤミに聞こえるが、不思議と長谷川が言うとイヤミには聞こえないな」
「要は傲慢からの言葉じゃなく、実績からくる自信からの言葉だと俺たちでも理解できるからではないか?」
「自信か。確かに」
ハプニングはあったが、3時までの2時間半で10個の核を手に入れた。
午前と合わせて24個。
1階層の核の値段は5千円くらいだったと思うから、12万円。
これを3人で割れば4万円。
ある程度初期投資額を回収できたということだ。
「今日の核は鶴田たち3人で分けてくれ。
俺はいいから」
「そうはいかんだろ」
「その気持ちがあったってだけで俺はいい。
なにせ俺はSランカーだし。クラスメートかつ後進のために成れたってことで満足してるから」
「すまんな」
「気にするな。
俺はそろそろ行くから、お前たちで核の買い取り所にいってちゃんと買い取ってもらえ。
何事も経験だからな。
渦への帰り道は分かるだろ?」
「大丈夫だ」
「じゃあな。
俺はちょっと用事があるから先にいくから」
「長谷川、今日はありがとう」
「ありがとう、長谷川」
「じゃあな」
俺は3人に見送られながら走り去って3人が見えなくなったころ合いを見てレモンの木の横に転移した。
「あっ! 小さい実ができてる!」
レモンの花が落ちて緑の実が膨らみ始めていた。
何だこれ?
ダンジョン管理庁ではこういった実験をしていなかったんだろうか?
もしそうだったら、これって大発見じゃないか?
うちに帰ったら河村さんにメールしておくか。
専用個室経由でうちに帰ってスマホを見たら、河村さんからメールが届いていた。
クロ板の最低予想買い取り価格がメールに書かれていた。
明かりの魔法:500万円
水を作る魔法:1000万円
炎の矢を撃ちだす魔法:4000万円
石のつぶてを撃ちだす魔法:4000万円
毒を中和する魔法:5000万円
ケガを治す魔法:1億2000万円
疲れをいやす魔法:4000万円
力を増す魔法:3000万円
素早さを増す魔法:3000万円
罠を解除する魔法:未定
宝箱を開ける魔法:未定
罠を見つける魔法:未定
クロ板はSランク冒険者を中心に販売を考えているそうだが、罠、宝箱関係は現段階ではニーズがないだろうということでセンターでの買い取り価格は決められなかったそうだ。
クロ板の買い取りは月曜日から可能とのことで、当初最低予想買い取り額で買い取り、オークションでの約定価格を見て、正式の買い取り価格を決め、差額分は後日振り込まれるということだった。
こうなってくると俄然クロ板を集めたくなってくる。
2泊3日で26階層のゲートキーパーを見つけて27階層に進もうと思ったのだが、ゲートキーパーを撃破してから27階層をメインにするか26階層でこのまま頑張るか決めることにしよう。
なお、クロ板だが魔法封入板と正式に命名されたそうだ。
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