第135話 秋ヶ瀬ウォリアーズ12、植樹
秋ヶ瀬ウォリアーズの3人と2階層に潜った翌日。
今日も3人と一緒だ。
待ち合わせ場所はホームセンター△□、待ち合わせ時間は8時。
朝食を食べて支度を済ませた俺は、予想通り大雨だったので氷川には評判の良くないポンチョを着てホームセンター△□の近くに転移した。
時刻は8時10分前。
雨の中ホームセンターの壁に沿った道を通り入り口に回って中に入ったら3人が揃っていた。
「おはよう」
「「おはよう」」
3人は俺と違って普段着を着て、いつもの大きなバッグを持っていた。
俺はその場でポンチョを脱いで冒険者姿になったが、3人は氷川と違ってポンチョのことを批評しなかった。
傘なんかよりよほど便利だけど、濡れたポンチョはしまうのが面倒なんだよな。特に今日みたいな本格的な雨の日は。
それでも俺はリュックの中のタマちゃんがよきに計らってくれることを期待してポンチョを丸めてリュックに突っ込んだ。
「ここの1階は食料品売り場だから、お菓子買っていかない?」
「「賛成!」」
賛成多数でお菓子を買うことになった。
俺も付き合いで買い物カゴを持って3人にくっついてお菓子売り場に回った。
3人はカゴの中に目に付いたものをどんどん入れていく。
カバンの中に入り切らないような量なんだがお金はいいとしても大丈夫なのだろうか?
これから植樹用の苗木を買わなくちゃいけないんだけど、頭の片隅にでもそのことが残っているのだろうか?
いや、俺が苗木の運搬係なのだと考えれば彼女たちの行動に説明が付く。
俺の場合リュックの中には収納機能付きのタマちゃんという強い味方がいるので何も問題はない。
大量のお菓子類をカゴに入れた3人はそれぞれ別のレジに並び、俺も別のレジに並んだ。
俺の買ったお菓子は大判の煎餅。パックに入ったヨモギ餅、同じくパックに入ったみたらし団子。そして中にお餅の入った最中だ。
一口サイズのようかんも売っていたのでプレーンなようかんを買っておいた。
何だかわからない種類のようかんもあったがそういったものは邪道なので絶対に買わない。
だいたい、100年以上の老舗の味に思い付きのアイディアで作ったチンケなようかんが対抗できるわけがない。
伝統とはそれほど重いものなのだ。
ようかん談義はそれくらいにしてレジの順番が来たので代金を現金で払ってその先のテーブルスペースで、一度ポンチョを取り出して、お菓子類をリュックに詰め、それからポンチョを中にしまった。
その際ポンチョは濡れていなかった。
さすがはタマちゃん。以心伝心でポンチョの水を拭きとってくれたようだ。
「みんな買い物が終わったようだから、苗木を見に行こう」
「斉藤、その前にスコップがいるんじゃない?」
「スコップどこで売ってるのかな?」
「確か2階に園芸用品売り場があったはずだから、園芸用のスコップならそこだよ」
ということで4人で階段を上って2階に上がった。
天井から下がっている札を見ながら歩いていたら、奥の方に園芸用品売り場があった。
「あった、あった」
「スコップはこの小さいのでいいんじゃない」
「そうだね。
それ一つ買おう」
斉藤さんがそのスコップを持ってレジに並び会計を済ませた。
彼女たちは昨日のことを気にしているようで、後で3人で割り勘にするから俺は払わなくていいと言われてしまった。
その代りスコップは俺が持った。
スコップの後は1階に下りて裏口側の先にある露天の園芸売り場。
その前に3人は入り口の横の傘立てに傘を置いてきたというのでそっちに回った。
その後裏口まで行き外の園芸売り場を見たら、ザーザー降りの雨の中外に出ている客は皆無だった。
何も3人で外にでなくてもいいので、俺はポンチョを着てスコップを斉藤さんに渡し、
「雨がひどくて濡れちゃうから、3人はここにいればいいよ。俺が見てくるから」
「長谷川くん、お願いするね」
「うん。
それで何を買う?」
「花が咲く木なら何でもいいよ」
「どうせなら実もできた方がいいんじゃない?」
「桃栗3年柿8年だから、桃か栗がいいんじゃない?」
「分かった。桃の花もきれいだから桃があれば桃にする」
「うん」
俺はザーザー降りの中、露天の園芸売り場に出ていった。
ホームセンターの横を通った時とは比べ物にならないくらい今の雨脚は強い。
ポンチョから出てる顔もびっしょりで、顔から首を伝って下着のシャツまで濡れ始めてしまった。
寒くはないのだがすごく不快だ。
それでもお勤めは果たさないといけないので、苗木のコーナーを見つけて桃がないか探したのだが桃はなかった。
その代り、なぜかレモンが一個生った苗木を売っていたのでその苗木を買うことにした。
根っこが布とわら縄で丸まった苗木を持って裏口に戻った。
裏口に入った時には安全靴の口と袖口からも水が入って不快指数が倍増していた。
ドンマイ。ってドントマインドのことだけど、マインドするよ、やっぱり。
「桃はなかったけれどレモンがあったからレモンにしてみた。
レモンも柑橘系だからミカンの花みたく白い花が咲くんじゃないかな?」
「そうなんだ」
「うちの庭にハッサクの木があるからそう思うだけで、実際は分かんないけどね」
「長谷川くん、それ貸して。会計するから」
その先は斉藤さんたちがやってくれた。
俺はポンチョを脱いでリュックにしまったのだが、濡れた下着や、靴下、防刃ジャケットの内側で濡れ面積が広がってきた。
これはたまりません。
脱いで着替えたいが着替えもなければ着替える場所もない。
かなり冷たくなってきているのだが、俺自身は寒くはない。
しかし、ベチョーっとした感じがとにかく不快だ。
俺は思い出してリュックの中からタオルを出そうとしたら横合いからタオルが目の前に。
「長谷川くん大丈夫?」
中川さんのタオルだった。
「ありがとう。
ぜんぜん大丈夫」
大丈夫でなくても、大丈夫と言うしかないものな。
顔と首を拭いて、タオルを中川さんに返した。
中川さんのタオルは何だかいい香りがした。
少しだけ不快指数が低下した。
いちおう買い物は終わった。
ダンジョンセンター行きのバスの本数は多いからそんなに待つことはないと思うが、店を出てバス停まで100メートルくらい歩かないといけない。
この雨の中バス停でバスを待つのだろうか?
ここは転移しかなさそうな気がする。
「斉藤さんたち、ちょっといいかな?」
「なに?」
「外は大雨で、外に出たらかなり濡れると思うんだ」
「長谷川くんポンチョ着ててもびしょ濡れだものね」
「それで提案なんだけど」
「なに?」
「今回も秘密を打ち明けることになるんだけど、荷物をちゃんと持って階段の踊り場まで」
斉藤さんたちはとりあえずついてきてくれた。
そこで俺は、
「荷物を持ったまま俺のどこかを手で持ってくれる」
3人がそれぞれ俺の手を持ってくれた。
「目が回るかもしれないから目を閉じて」
目を閉じたか3人の顔を見たら、なぜか3人とも顔を赤らめている。
転移。
専用個室に4人揃って現れた。
「目を開けていいよ」
「……」
「あれっ?」
「待ってたのに何もなかった?」
「ダンジョンセンターにある俺の専用個室に転移したんだ」
「転移ってテレポーション?」
「中川、それはテレポーテーションじゃない」
「どっちだったか分かんないけど、とにかくそれ?」
「うん。そんなもの」
「すごい便利」
「さすがは長谷川くん。
生れて初めての経験させてもらった割に、目の前の見てるものが変わっただけで何も感じなかった」
「わたしの長谷川くんだけのことはあるわ。
わたしも初体験だったのに何も感じなかった」
若干一名ややこしい感想があった。
「ここって、買い取り所の並びの奥だから、ここから出てみんな着替えて、昨日のように渦の向こうに行ってくれるかな。
15分くらいしたらそっちに行くから。
苗木とスコップは俺が運ぶからここに置いたままでいいよ。
先にそこのセンター入場用のカードリーダーに冒険者証をタッチしてからだな」
3人がよくわかっていない感じだったが、順に俺の示したカードリーダーに冒険者証をタッチして部屋を出て行った。
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