第130話 氷川涼子14、魔法戦士2
氷川が12種類の魔法を覚えた。
攻撃魔法の威力は低いようだが、ソロプレイヤーの氷川にとってヒールとスタミナ、そして力と素早さを上げる魔法は重宝するだろう。
では魔法戦士氷川の試運転だ。
ディテクター×2を発動させて最初に見つかったターゲットに向けて俺は氷川を連れて駆けだした。
最初のターゲットはイノシシ、8階層では最高数の6匹だった。
イノシシも近づいてくる俺たちを見つけて走りだした。
氷川はそれに対して冷静に力を増す魔法=ストレングスと、速さを増す魔法=スピードを唱え、さらに迫ってくるイノシシの群れに対してファイヤーアローを放った。
ファイヤーアローは先頭を走るおそらく一番大きなイノシシに命中した。
その一撃だけではイノシシを仕留められなかったが、そいつは失速して他の5匹から遅れてしまった。
2発目のファイヤーアローが2匹目に命中。
そいつも失速した。
勢いをつけて向かってくるのは後4匹。
そこで氷川は向かってきたその4匹のイノシシに鋼棒を構えて突っ込んでいき瞬く間に3匹を打ちたおしひるんだ4匹目も一撃でたおしてしまった。
遅れてきた2匹も順番に氷川に一撃でたおされた。
魔法があるだけでここまで強くなるのか。
「今のはすごかった。
氷川、初めて魔法を実戦で使ったのに使いこなせていたじゃないか」
「自分でも驚いてしまった」
「氷川、これなら9階層に行ってもいいんじゃないか?」
話をしている間、タマちゃんがイノシシを処理して受け取った核を氷川に渡した。
「そうだな。
うん、そうする。
9階層にも転移できるのか?」
「階段のあるとこしか覚えていないからそこだけしか行けないけどな」
「それで十分だ」
正規のルートをたどらなくても10階層までは地図もあるわけだから、氷川がこの次自分で9階層まで下りていくとして道に迷うことはないはずだ。
「じゃあ氷川、俺の手を取ってくれ」
氷川が俺の左手を取ったところで9階層に転移した。
「見た目は変わらないな」
「そうだな。下に行くほど坑道は少しずつ広くなるが25階層までは全部こんな感じだ」
「うん? ということは26階層は違うのか?」
「そう。
26階層は20メートル四方の石室が延々と連なった階層だ。どの部屋も4つの壁に全部扉が付いていて、見た目の区別は全くつかない。
それで、扉を開けて隣の部屋をのぞくとたまに2足歩行する爬虫類みたいなスケルトンがいることがある。
そいつは丸盾と幅広の剣を持っていて、そいつをたおすと銀色の宝箱が手に入るんだ。
そいつ、なかなか素早いんだが、骨だけあって打撃に弱い。
石のつぶてが良く効く。
それで、宝箱を手に入れたら、さっき氷川が覚えた宝箱を開ける魔法を意識して開けと念じたら、その宝箱が展開図のように開いてクロ板が手に入る。実際は魔法を意識しなくても宝箱を意識して開けと念じるだけで魔法は発動するようだ。
宝箱に向かって閉じろと念じたら、宝箱は展開図から元の箱の形に戻る」
「わたしが26階層に行くことはまだまだ先だが覚えていよう」
「26階層で手に入る魔法はある意味ベーシックな魔法だ。
下に下りていけば少しずつレベルの高い魔法が手に入ると思うんだ。
ふたつ以上見つけたらひとつは氷川にもやるから、大いに期待しておいてくれ」
「いいのか?」
「もちろんだ。
自分じゃ1つあれば十分だからな」
「済まないな」
「それじゃあ、9階層いくぞ」
「ああ」
ディテクター×2を発動して一番近そうなターゲットに向けて走っていく。
俺の後を氷川が駆けてくる。
気持ちいつもより俺の後ろを走る氷川の足音が軽い気がする。
スタミナとかの魔法を自分にかけているのかもしれない。
ワザとか魔術とかは、使えば使うほど洗練されるものだ。
俺は魔術の専門家ではないので、手に入れた魔法にもそういったことが起こるのかどうかの確信はないが、使って悪いものじゃない。
9階層での最初のターゲットは大ネズミ。
数はおそらく8匹だ。
大ネズミたちがこっち向かって走ってくる。
それに向かって氷川が石のつぶて、ストーンバレットを放った。
氷川のスピードの魔法はまだ効いているようで、連射はできないようだが、大ネズミたちが氷川の鋼棒の間合いに入るまでに4匹が路面にたおれていた。
ストレングスもまだ効いているようで、間合いに入った順に大ネズミはいつもより速くて重い氷川の鋼棒の一撃でたおされていった。
「素晴らしいな」
「自分でも驚いている」
「この調子なら、午前中はここでモンスター狩をするにせよ、午後からは10階層に行ってもいいかもしれないな」
そこから昼休憩まで氷川の快進撃が続いた。
氷川のスピードとストレングスは約1時間持続するようだった。
ついでにライトも1時間くらい持続していたので、氷川の場合、今のところ持続型の魔法は1時間持つのだろう。
午前中約3時間走り続けて、手に入れた核は111個。
これまでと比べかなり増えている。
8階層、9階層のモンスターの核を平均して6万円とすると、666万円。
なかなかの収入だ。
氷川は午前中要所で自分にスタミナの魔法をかけていたようで全然疲れていないと言っていた。
それはいいことなのだが、氷川のヤツ、今日初めて魔法を使った割にいつまでも魔法が使えている。
いくら低級魔法とは言え、ほぼ素人の氷川が使い続けるのはちょっと異常だ。
「氷川、魔法を使い続けているとそのうち、ガス欠みたいになってうまく魔法が発現しなくなってそのうち全然魔法が使えなくなるんだが、氷川は魔法を使っていて何か違和感のようなものはないか?」
「うーん。これといって何も感じないなー。
そのガス欠は感覚的に分かるようなものなのか?」
「俺の使う魔術の場合普通はそうなんだが、氷川の使っているのは魔法だし、そこらは仕様が違うのかもな。
ただ、イザという時魔法が使えなくなると困ることになるから注意はしておいてくれ」
「分かった。
しかし、ガス欠かな? と、感じたらどうすればいいんだ?」
「その時はじっとしていろ。
そのうちガス欠感は薄れてくる。
今の俺の場合、ガス欠することはまずないが、俺が初心者のころは1時間ほどじっとしていたら治った」
「長谷川。いま初心者の頃って言ったが、長谷川は小学生くらいの時から魔法が使えたのか?」
「ちょっと違うんだが、そう思っていてくれ。
そのうち詳しいことを話してやるよ」
「秘密にしてるならわざわざ話さなくてもいいぞ」
「秘密というか、信じられないような話だからな」
「なるほど。
全然わからない。
そろそろ、準備して行こうか」
いつも昼休憩の切り上げは俺の方から切り出していたが今日は氷川からだった。
元気いっぱいなのだろう。
「10階層でいいか?」
「そうだな」
準備が終わったところで氷川に俺の手を握らせ10階層に跳んだ。
10階層はかなり歩き回っているので、階段下の空洞ではない坑道に直接転移した。
すぐにディテクター×2を発動してターゲットを見つけ、そっちに向かって駆けていった。
最初のターゲットはカマキリだった。
カマキリがこっちに向かってくる間に氷川はファイヤーアローを5発撃って、どれもがカマキリの比較的小型の頭に命中し、どれもがカマキリを一撃でたおしていた。
残りのカマキリは5匹。
氷川は鋼棒を振り回してカマキリをなぎ倒していき、あっという間に殲滅してしまった。
まったく危なげがない。
これなら10階層で十分やっていける。
「これなら、10階層で十分やっていけるな」
「そうだな。
長谷川のおかげだ」
「それは否定しないが、初日から魔法を使いこなしている氷川に素質があったのも事実だ。
剣の代わりに鋼棒だがまさに魔法剣士だな」
「剣にはあこがれもあるが、雑に扱うと脆いからなー。
その点、この鋼棒はいくら無茶に扱ってもびくともしない上にほぼメンテナンスフリーだ」
そこからも氷川はガス欠になることなく快調に飛ばし、今日上がる時間と思っていた4時まで午後の3時間半で185個の核を手に入れた。
10階層の核は9万円はするので1665万円。
午前で666万円とすると2300万円ということになる
やはり、10階層は金になる。
1日あたり1000万円稼げれば、週5日潜って5000万円。
2週間で1億円だ。
今氷川の累計買い取り額がいくらかは分からないが、2億としてSランクのラインの10億まであと8億。
16週間ということは4か月か。
7月にはSランクに上がってきそうだな。
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