第131話 氷川涼子15。夢3


 魔法を使いこなせるようになった氷川が快調に飛ばした。

 モンスター狩は4時になったところで切り上げ、5,3、1、各階層の改札機を転移でショートカットしつつ通った。


 その道すがら氷川にジャーナリスト対策としてもらった専用個室のことを話していなかったことを思い出したので話しておいた。

「長谷川の活躍を考えれば、ダンジョン管理庁が便宜を図るのも当然だし、サイタマダンジョンセンターが便宜を図るのも当然だしな。

 それに、今日もジャーナリスト? なんだか目つきの悪い連中がセンターの前にたくさんいたしな」


 1階層の改札機を抜けて渦に向かって歩きながら、

「氷川、俺は直接専用個室に転移するから、ここらで失礼する。

 そんじゃな」

「長谷川、今日もありがとう」

「今度はゴールデンウイークのあたりだな」

「そうだな。

 ゴールデンウィーク前にメールする」

「うん」


「しかし、なんで長谷川はそこまでわたしに良くしてくれるんだ?」

「なんでだろうな?」

「まさかわたしのことを……。わたしみたいにガサツで男みたいな女にそんなわけないよな」

「確かに色気は感じないが、氷川は美人だし十分いい女だと思うぞ」

「長谷川、わたしより3つも年下のくせにやけに上から目線なんだな。

 だが、そう言ってくれて嬉しいぞ」


「そう言うところが氷川のいいところなんだよ」

「そう言うところ?」

「自分の気持ちに素直なところとでもいうかな」

「そうか? これでも心の中ではいろいろ隠し事があるんだがな」

「それはお互いさまだ。

 今日の調子でいけば氷川のSランクもそんなに遠くないハズだ。

 そしたら一緒に最前線に行ってみるのもいいんじゃないか」

「ぜひ連れて行ってくれ。

 その時までにわたしももっと強くなっているからな」

「期待してるよ」


 話しているうちに渦がだいぶ近づいてきた。

 俺は再度氷川に『じゃあな』と、言って専用個室に転移した。


 武器を片付けた俺はカードリーダーに冒険者カードをかざしてうちに転移した。


 明日、明後日は26階層でクロ板を集めて、ゲートキーパー探しは来週春休みに入ってからだ。


 しかし、氷川があれほど魔法に順応するのが速いとは意外だった。

 氷川の魔法を織り交ぜての活躍を一般人が目にすることがあれば、クロ板へのニーズは確実に爆上がりすると思うが、氷川が何かの宣伝に出ることないからなー。




 その日俺は久しぶりに向こうの世界の夢を見た。


 俺たち5人は1週間ほどまえ魔族と人族とで戦いがあった戦場跡を歩いていた。

 戦いは人族の勝利に終わり戦場跡の先にある魔族の都市を人族は既に攻略している。


 戦場跡には魔族と人族の死体が原野の中そこかしこで雪が混ざり凍り付いた泥にまみれてうち捨てられていた。

 どの死体も身に着けた軽鎧は凍った泥にまみれてほとんど見分けは付かないし、どの死体が魔族のものでどの死体が人族のものなのか区別はつかなかった。


 春が来る前に処理しなければ疫病の恐れがある。

 土に埋めて弔ってやりたいが、地面は凍っているうえ死体は数え切れないほど多い。


「オズワルド、死体をこのまま放っておくと春になれば腐り始め、野ネズミなんかが媒介して疫病が広がるかもしれない」

「焼きましょう」

「土と一緒に凍っている死体を集めるのは難しいぞ」

「この原野ごと焼いてしまえば死体を苦労して集める必要はありません」

「そんなことできるのか?」

「少し前まではできませんでしたが、今はできるような気がします。

 ここから離れた場所に行きましょう。

 そこから大魔法で原野ごと死体を焼いてしまいます」


 オズワルドと俺以外に、マリアーナとバレル、そしてイザベラがその場にいたハズだが、夢の中では俺とオズワルドしかいなかった。


 戦場跡を見渡せるそれほど高くはない丘の上に上がったところで、それまで呪文など唱えたことはなかったオズワルドが呪文を唱え始めた。


「……、火炎旋風ファイヤートルネード!」

 戦場跡の真ん中あたりに炎の柱が立ち上り、それが少しずつ広がり始めた。

「初めて試した大魔法でしたがうまくいったようです。

 これで死体は九分九厘燃えてしまいます」

「オズワルド、これって危険じゃないのか? 熱さがこっちにまで伝わってきてるぞ」

「ここまで炎は広がりませんが、熱くはなりそうですね。

 もうここには用はありませんから先を急ぎましょう」


 俺たちは丘を下りて背中に熱を感じながら先を急いだ。

 その時には5人揃っていた。


 その戦場跡から半日ほど先に進むと今は人族に占領された魔族の都市があるはずだった。


 以前は整備されていたであろう荒れた街道を1時間ほど5人で歩いていたら、前方から馬に乗った兵士を先頭に人がぞろぞろとこちら側に向かって歩いていた。


 街道を歩く一団は寒空の下、着の身着のままで縄で繋がれた男女の一団だった。

 次の町までは20キロはあったはずだ。

 時刻は既に昼過ぎ。

 縄につながれているせいか歩く速さはひどく遅い。

 日が落ちるまでに次の町までたどり着けるとはとても思えない。

 縄で繋がれた男女が反対方向に進む俺たちを恨めしそうな目で見ている。

 その中に10歳くらいの子どもがいるのが目に入った。

 誰にも手を引かれているわけでもなかったので、身寄りのない子なのだろう。もちろんその子も縄でつながれていた。

 もしかしたらその子の親や親せきは先ほどの火炎旋風ファイヤートルネードで焼かれたむくろだったかもしれない。


 その子がうつろな目で俺に何かを言いたそうにしている。と思ったのは錯覚だったようでそのまま通り過ぎて行った。

 おそらくあの子は次の町にたどり着けないだろう。



「彼らは奴隷として連れていかれるのでしょう」と、オズワルド。

 今通り過ぎて行った一団はおそらく1000人ほどはいたと思う。


 夕暮れ前に魔族の都市に到着する間にそういった一団に全部で5回であった。

 行き違いで通り過ぎていく彼らの中で体の弱っている者に対してマリアーナが祈ってやっていた。


 この都市は魔族の都市としては珍しく城壁に囲われていたが、城門周辺は門ごと破壊されていた。

 われわれは壊れた門の前でたたずんでいた人族の兵士に誰何されたが、出国前に渡されていたメダルを見せたところ人族の司令官のいる幕舎に連れていかれた。


 幕舎の中で司令官から戦いの様子を聞かされた。

 その時の司令官の顔も、司令官の部下たちの顔もなぜかのっぺらぼうだった。

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