第129話 氷川涼子13、魔法戦士
河村さんと黒い板の仕分け作業をして、自衛隊の状況を話してもらったことで、26階層のゲートキーパーの位置は階段下からかなり遠そうだということが分かった。
もうすぐ春休みなので、そこでまた2泊3日のダンジョンアタックをしてゲートキーパーを探すことにした。
それで見つからないようなら、夏休みに長期のダンジョンアタックだ。
ホワイトデー翌日の日曜日。
俺は午前7時には26階層に到着していた。場所は25階層からの階段下。
そこでサンドイッチを頬張り、緑茶を一口飲んでクロ板収集作業を開始した。
これまでたおしたはずの爬虫類スケルトンが同じ部屋で復活しているのか、別の部屋で復活したのかはよく分からないのだが、出会うモンスターの密度は変わっていないのでモンスターが復活しているのは確実と思う。
まとまった休憩は昼休みの30分だけで、この日1日作業を続け手に入れたクロ板の内訳は、
明かりの魔法×12
水を作る魔法×12
炎の矢を撃ちだす魔法×6
石のつぶてを撃ちだす魔法×5
罠を解除する魔法×5
解毒する魔法×4
ケガを治す魔法×8
疲れをいやす魔法×6
力を増す魔法×3
素早さを増す魔法×4
宝箱を開ける魔法×4
罠を見つける魔法×2
合計で71枚。これに核とか盾が同数。
明かりの魔法×30
水を作る魔法×32
炎の矢を撃ちだす魔法×17
石のつぶてを撃ちだす魔法×12
罠を解除する魔法×11
解毒する魔法×9
ケガを治す魔法×19
疲れをいやす魔法×15
力を増す魔法×8
素早さを増す魔法×7
宝箱を開ける魔法×9
罠を見つける魔法×7
全部合わせると、176枚
専用個室で71個の核を買い取ってもらった総買い取り額は4629万円。
累計買い取り額は76億234万7000円となった。
黒い板がいくらで売れるのか分からないが、ひとつ100万円くらいで売れるんじゃないだろうか?
そしたら、176枚で1億7600万円。
あれ? 魔法が手に入る便利アイテムだからといって積極的に集めていたけど、クロ板意外に儲からないものだな。
これなら、25階層に戻って核を積極的に集めた方が金儲けという点では良さそうだ。
週が明けた。
今週は金曜日が祝日で土曜日も休みなので3連休になる。
月火と2日授業につづいて水木の2日間が学年末試験だ。
そして連休初日の金曜は氷川とダンジョンに潜る約束をしている。
学校からうちに帰ってスマホを見たら丸盾などの代金が加算されて累計買い取り額は76億2932万7000円になっていた。
火曜日の夜、河村さんからメールが届いた。
『研究所から自衛隊員がクロ板を折り、長谷川さんが確かめた通り魔法を発現できたと連絡がありました。
これを受け、木曜日ダンジョン管理庁のホームページで25階層のゲートキーパー撃破の発表と合わせて魔法を使えるようになるアイテムを発見したことを発表します』
鑑定に間違いがあるとは思っていなかったので驚くようなことではないが、将来魔法が使える人間が市中を歩き回ることになるわけだから、銃社会のようになる可能性もある。俺が思いつくくらいのことだから当然お偉いさんたちもなにがしかの対応を考えているだろう。
水曜日。今日明日は学年末試験。
そして木曜日。
午前中の学年末試験を終えて学校から帰ってスマホでダンジョン管理庁のホームページを確かめてみたらちゃんと25階層ゲートキーパー撃破のこととクロ板のことが載っていた。
どちらも俺のことだから何となくうれしいような、そうでもないような。
明日は氷川との約束の日なので、バレンタインチョコのお返しも兼ねて俺の持っている12種類のクロ板詰め合わせを用意した。
その場で使ってもらうつもりではあるが、一応紙袋に入れて、タマちゃんに別途収納しておいてもらった。
そして氷川との約束の金曜日。
待ち合わせは渦の向こう側で8時。
朝食をうちで済ませた俺は、8時15分前に専用個室に入り、そこで準備を整えてから渦から少し離れ
毎回思うのだが、今まで一度も転移して周囲の視線を集めたことはない。
もちろんあからさまに人前に転移すれば別だろうが、これは転移の仕様に含まれた何かなのだろう。
渦の近くに立っている見慣れた黒地に赤いラインの冒険者の後ろ姿が目に入った。
「おーい、おはよう」
「後ろからか。
おはよう」
「さっそく行こう。
今日はどの階層だ?」
「今日も8階層に行こうと思っている」
「了解」
前回同様、1階層、3階層、5階層の階段前の改札を抜け、階段を下ったところで7階層に続く階段のある8階層の空洞に転移した。
他の冒険者がいなかったので、タマちゃんにクロ板の入った紙袋を出してもらった。
「氷川、少し遅れたけどバレンタインのチョコのお返し」
「アレはいつものお礼のつもりで長谷川に渡したものだからお返しなど不要と言ったはずだが」
「まあ、いいだろ」
「いや、ありがとう。
中身を見ていいんだろ?」
「もちろんだ。というかそのつもりで持ってきた」
「そのつもり?
で、これは何なんだ?
スマホ?
それがこんなに?」
氷川が紙袋の中からクロ板をひとつつまみ出して俺に聞いてきた。
「その板を折るとその板に入っているのかどうかは分からないけれど、その板に対応した魔法が使えるようになる」
「あっ! これがダンジョン庁の発表した魔法が使えるようになるアイテムなのか!?
実物の写真が載っていたが、写真と同じなんだ」
「俺もそいつが何の魔法に対応してたか見ただけじゃわからないんだ。
ちょっと待っててくれ」
俺はリュックの中のタマちゃんに鑑定指輪を渡してもらって左手の中指にはめ、氷川が手にしているクロ板を鑑定した。
「その板は明かりの魔法だ」
「長谷川、その指輪をわざわざはめていたところを見るとそれが板を見分けるカギなのか?」
「そういうことだ。
こいつは25階層のゲートキーパーをたおした時に手に入れた」
「なるほど。
下の階層で必要になるから、上の階層で親切に用意してくれたんだろうな」
「そうかもな。
26階層には今のところ罠はなかったんだが、罠発見とか罠解除の魔法のクロ板もあったしな。
氷川、試しにまずはその板を折ってみてくれ」
「ホントに折っていいのか? スマホを壊すみたいで気が引けるな」
「確かにそんな感じがしないではないがな。
両手で持って力を込めたら意外と簡単に折れるからやってみろよ。
そうだなー、板チョコを折るような感じで力を込めたら板チョコみたいに折れるから」
「分かった」
氷川がクロ板を両手で持って板チョコを折るように力を込めたら簡単にクロ板が折れて、手の中で砂のように砕けて空洞の路面にこぼれた。そして、そのうち消えてしまった。
「何とも言えない感触だったな」
「何か変わった感覚はないか?」
「今のところは何も」
「とりあえず光の玉が頭の上にできるイメージでライトとでも唱えてみろよ」
「分かった。
……。ライト」
氷川の頭の上1メートルくらいに黄色い光の玉ができて周りを照らした。
ふたりとも今はキャップランプを点けているのでそこまで明るいわけではなかったが十分明るい光だった。
「魔法が使えてしまった。
何か人ではなくなったような気がしないでもない」
ライトくらいの魔法で人でなくなったら、俺はどうなる?
「うまくいったようで何よりだ。
それじゃあ、どんどんいこうか」
「ああ」
次に氷川が手にしたのは炎の矢を撃ちだす魔法すなわちファイヤーアローのクロ板だった。
「それはファイヤーアローだ」
「攻撃魔法か」
「俺のファイヤーアローと同じかどうかは分からないけどな。
とにかく折ってみろよ」
氷川がクロ板を折り、崩れて砂になった。
「どうだ?」
「何か変わった感覚は今のところないな」
「そうかー? ファイヤーアローじゃないが俺の時は知らない魔法が使えるようになったー、って感覚があったんだけどな。
まあいいや。
向こうの壁に向かって火の矢が飛んでいくことをイメージして撃ってみろよ。
右手か左手かどっちでもいいけど、いちおう火の玉が手の先から出ていくつもりで突き出した方がいいかもな。
顔から火の玉が出ることをイメージしない方がいいぞ。ビジュアル的に微妙だからな」
「分かった。
ファイヤーアロー!」
氷川が突き出した手のひらから黄色い火の玉が階段下の空洞の壁に向かって飛んで行き、壁に当たって消えた。
「威力は低いし速度も遅いな。
もうちょっと訓練した方がいいかもな」
「長谷川の光線銃みたいなファイヤーアローには到底及ばないが、十分威力があるのではないか?
モンスターを一撃でたおせなくてもひるませることができれば十分なんだし」
確かにそう言う考えもあるな。
「次いってみよう」
次はケガを治す魔法=ヒールだった。
「今度のはケガを治す魔法だな。
ケガしてないから試せないけど、使う時は負傷個所に向かってそこが元に戻るつもりでヒールとでも唱えればいいだろう。
この前俺がやってみせたのと同じだ」
「あれは気持ちよかったなー。
自分でやっても気持ちいいのかな?」
「ケガしてなくても、やって悪いことはないはずだから、試しに自分の腹の辺りでもやってみろよ」
「よし、じゃあ、
ヒール!
……。
おっ! なんだか温かくなって気持ちいいぞ。
癖になりそうだ」
好きにしてくれ。
「ヒール!」
「氷川、次だ、次」
「すまん、つい気持ちよくて」
「次は疲れをいやす魔法だな。スタミナとか名づけておけばいいだろ」
「これもいいな。
さっそく。
……、スタミナ!」
「ホウッ。疲れていたわけではないが、爽快感が体を駆け巡ったぞ!
これも癖になりそうだ。
スタミナ! ホウッ!」
罠関係と宝箱関係、解毒する魔法については試せなかったが結構時間を取ってしまった。
「氷川。ホウッはいいから、そろそろ行くぞ」
「お、おう」
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