第125話 26階層3、黒い板


 午後5時。

 専用個室に転移して武器を片付けたあと、タマちゃんにスポーツバッグと爬虫類スケルトンが持っていた剣と盾ひとつずつ出してもらってから買い取りの係りの人を呼んだ。

 ゲートキーパー撃破の報告と一緒に黒い板についてはどうするか河村さんと相談してからにしようと思う。


 2分ほどで係の人がやってきたので、最初にモブモンスターの核をトレイに乗せていった。

 次にゲートキーパーの核。

「これは?」

「24階層だったか、25階層だったか忘れましたがゲートキーパーの核です」

 もうひとつあるゲートキーパーの核も取り出してトレイに置いた。

「それで、どっちがどっちだか忘れましたがゲートキーパーの核です」

「そ、そうですか。

 ゲートキーパーの核については査定後明日の午前中までに振り込みます」


 総買い取り金額6661万円。

 累計買い取り金額は、68億2502万7000円+6661万円=68億9163万7000円となった。

 明日になれば、これに24階層と25階層ゲートキーパーの核の買い取り額が加わる。


「あと、アイテム見つけたんですが?」

「アイテムですか?」

「この丸盾と剣なんですが、ここで買い取ってもらえますか?」

 そう言って俺は床に置いていた剣と盾をカウンターの上に置いた。

「丸盾と剣。

 アイテムの場合評価に時間はかかりますがご了承ください」

「よろしくお願い致します」

「うけたまわりました。

 それでは」


 係の人が盾と剣を持って部屋から出ていったところで、俺はカードリーダーに冒険者証をタッチしてリュックを背負い直してうちの玄関前に転移した。

 高校生男子の指輪はあり得ないので、左手の中指から外してタマちゃんに預けた。



 その日の夕食前に、ダンジョン管理庁の河村さんに24階層と25階層のゲートキーパーを撃破したことと、26階層で魔法の使えるようになる黒い板を見つけたことを、適当に選んだゲートキーパー撃破前後の写真を添えてメールした。


 夕食後、スマホ見たら河村さんからの返信が届いていた。

『ゲートキーパー撃破おめでとうございます。

 明日にでもお時間があれば、黒い板について詳しくおうかがいしたいので、サイタマダンジョンセンターでお会いできませんか?』


 日曜日東京から埼玉までやってくるのは大変だろうと思い、時刻は8時ということにして返すことにした。

『明日の午前8時ごろなら大丈夫です。ダンジョンセンターのどこに行けばいいですか?』


『8時に長谷川さんの専用個室でお待ちしています』と、すぐに返信があったので『了解しました』と、返信した。


 明日は26階層で爬虫類スケルトンを狩って黒い板を集めようと思っているので、核の回収数は少なくなる。

 クローゼットに置いている核を買い取ってもらうチャンスだ。


 俺は核を入れた段ボールをクローゼットから取り出してそのままタマちゃんに収納してもらった。

 



 明くる日曜日。

 朝からあいにくの雨。

 うちで朝食を食べ、ダンジョンに潜るための支度を整えた。

 8時5分前に専用個室に転移したら、河村さんがカウンターの向こうに立っていた。


「長谷川さん、おはようございます。

 わざわざありがとうございます。

 やっぱり目の前にいきなり現れるんですね」

「おはようございます。

 自分じゃ見たことないんですけどね」

「管理棟は今日は日曜で使えなかったもので、こちらの部屋を借りました。

 どうぞ」

 河村さんが、カウンターの天板の端を持ち上げたら、人ひとり通れる幅で上に折れ曲がった。


 河村さんに連れられて部屋を出た先は、通路になっていて、その片側には核の買い取り個室につながっていると思われるドアが並んでいた。


 通路の突き当りを折れた先のドアのひとつに招き入れられた。


「どうぞ」

 小会議室といった感じの部屋で部屋の真ん中に長テーブルが置かれていて、俺は背負っていたリュックを壁に沿わせて床に置き河村さんの向かいに座った。


「まずは、改めて24階層、25階層のゲートキーパー撃破おめでとうございます。

 写真を拝見して改めて驚きました。

 24階層のゲートキーパーを写した時刻が8時13分。

 25階層のゲートキーパーを写した時刻が9時7分。

 これって公開できませんよね」

 写した時刻が映り込む設定だったか。


「途中にも大したモンスターがいなかったもので」

「モンスターの撃破も驚きですが、1時間もかからず新しい階層でゲートキーパーのいる場所にまでたどり着けることも驚きです」

「いろいろありますから。アハハ」


「長谷川さんですものね。

 それで、今日の本題なんですが、魔法が使えるようになる黒い板とはどういう意味なんでしょう?」

「実物をお見せしましょう」


 俺はリュックに手を突っ込んで小声で黒い板を1枚出してくれるようタマちゃんに頼んだ。

『タマちゃん、指輪と、どれでもいいから黒い板を1枚出してくれ』

 手渡された指輪を左手の中指にはめ、黒い板を鑑定したところ、ファイヤーアローの魔法が使えるようになる黒い板だった。


 指輪を指から抜いてまたタマちゃんに預けてから黒い板を持って椅子に座り、向かいの河村さんに「どうぞ」と言って手渡した。

「これが魔法が使えるようになる黒い板?」

「はい」

「これって、どこかで見たことがある。

 あっ! 思い出しました。

 自衛隊の研究所の中でこれまでナガノダンジョンで見つかったアイテムを保管しているんですが、その中で用途不明とされていた黒い板と同じものです」


 あー。そうか。

 自衛隊はかなり深く潜っているから当然26階層も攻略済みで、あそこで黒い板を手に入れていたんだ。

 鑑定指輪がなければ、折って使うとは夢にも思わないだろうから使い方が分からないまま保管されていたということだな。

 25階層のゲートキーパーをたおした時に鑑定指輪を手に入れなかったのか?

 いや。指輪は手に入れたものの自衛隊員では勝手に指にはめることは許されないだろうから、使い方が分からず、黒い板同様その研究所に死蔵している可能性が高い。


「長谷川さんは、この黒い板が魔法が使えるようになる板だとどうして分かったんですか?」

 そこすごく不思議ですよねー。


 なんて答えようか?

 鑑定指輪のことは秘密にした方が良さそうだし。

 となると偶然折ったら魔法が使えるようになった?

 あまりに苦しい説明じゃないか?

 ここは、何となく説明を渋っている感満載作戦だな。

 いちおう個人情報のたぐいだろうし、河村さんも食い下がってくることはないだろう。


「なんとなく分かった? と、言いましょうか。

 その黒い板はファイヤーアローの魔法が使えるようになる黒い板みたいですよ」

「なんとなくという意味はなんとなく分かりました」

 河村さんは察してくれたらしい。


「使い方もご存じなんですよね?」

「これも何となく分かったんですが、その板を折ればいいみたいですよ」

「折る?」

「はい。覚えたい人が両手で持ってポキっと。

 案外簡単に折れて、折れた後は砂のように崩れて、そのうち消えてしまいます」

「ということは、長谷川さんはその板を使われたんですね?」

「ファイヤーアローの魔法は元から使えていたのでファイヤーアローの黒い板は折っていませんがほかの物を少々。

 折ったあと、その魔法をイメージしてそれらしいことを口にすれば魔法は発現するみたいです。

 ファイヤーアローだと、火が飛んでいく感じでファイヤーアロー! とか」


「ほかにどういった魔法の種類があるんですか?」

「何か書くものがありますか?」

 河村さんがカバンの中からレポート用紙を1枚取り出し、自分の持っていたボールペンと一緒に渡してくれた。


 俺はそのレポート用紙に順に黒い板の種類を書いていった。

 明かりの魔法、水を作る魔法、炎の矢を撃ちだす魔法=ファイヤーアロー、石のつぶてを撃ちだす魔法、罠を解除する魔法、解毒する魔法、ケガを治す魔法、疲れをいやす魔法、力を増す魔法、素早さを増す魔法、宝箱を開ける魔法、罠を見つける魔法。

 結構いろいろあるな。

 ここまで書いてしまうと、俺が鑑定できるってバレバレだろうな。

 そこらへんは『なんとなく』分かったということで済ませてくれるのだろう。


 書き上がったレポート用紙にボールペンを添えて河村さんに返した。


「長谷川さんは、ここに書かれている魔法が使える板を全部お持ちということですか?」

「自分で使ったものもあるので、1個か2個欠けています。

 でも、数にして38枚かな、それくらい残っています」


「お売りになる気は?」

「同じものや既に使ったものはいくら持っていても無意味ですから、買い取っていただけるならもちろんお売りします」

「わたしでは価格について何も申し上げられませんが、かなりの高額になると思います」

 冒険者から買い取った希少アイテムはオークションにかけるそうだから黒い板もオークションなんだろうな。

 俺は、ダンジョンセンターがリーズナブルな値段で買い取ってくれれば、オークションでいくら高値が付こうがどうでもいいし、そもそもいくらでも取ってこられるものだし。


「長谷川さん、ここに書かれている罠を見つける魔法と罠を解除する魔法ですが、ダンジョン内に罠があるということなのでしょうか?」

「昨日25階層のゲートキーパーをたおしてから5時間くらいまで26階層を回ったんですが、一度も罠に遭遇してませんから、26階層よりも下の階層に罠があるということじゃないでしょうか?」

「なるほど。

 それとですね、もしわたしが自衛隊に保管されている黒い板をお持ちしたら、それが何の魔法が使えるようになる板なのか、お分かりになりますか?」

「なんとなくでいいなら、なんとなく分かると思います」

「もちろん、なんとなくで構いません。

 そちらもご連絡差し上げますのでよろしくお願いします」

「いいですよ」

 その時は金の指輪をはめての作業になるが、指輪が結構目立つだろうなー。

 人が見ているところで作業する必要はないわけだから、適当なことを言って作業する部屋とかの人払いをしとばいいか。

 あとは、鑑定結果は付箋を付ければいいだろう。

 でも河村さんが相手だしそこまで気を使う必要もないか。

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