第112話 待ち伏せ
吉田先生に生徒指導室に呼ばれて冒険者のことを聞かれた翌日の土曜日。
今日、明日は土日連休だ。
いつも通り7時にうちを出た俺はダンジョンセンターの脇に転移した。
もちろんフィギュアの真似をしているフィオナを肩に乗せてのフィギュア男モードだ。
おっと、自分で言ってしまった。
そこからダンジョンセンターの門をくぐったら、明らかに冒険者ではなさそうな連中が10人近く何をするでもなく敷地の中、本棟出入り口近くでたむろしていた。
何だろうとは思ったが、俺は無視して売店の方に向かったところ、その10人が一斉に俺の方に向かってきた。
なんだよ!?
そしていきなり俺に向かって、
「フィギュア男さんですよね?」「お話うかがいたいんですが」と、マイクらしきものを向けて聞いてきた。
それも4、5人同時に。
幸いなことにカメラらしきものを向ける者はいなかった。と、思う。
この連中ジャーナリストとかいう人種なのか?
ジャーナリストって評判悪いらしいからなー。
それを裏付けるように俺を囲んでいる連中全員目つきが悪い。
俺の勘が相手にしてはいけないと告げている。
少なくとも俺の本名は割れていないようなので一安心だ。
無視したいのだがどうすればいい?
こういう時は、ノーコメントでいいのかな?
結局無難に、
「急いでますのですみません」と言って売店に向かったら全員が付いてくる。
「Sランクなんですよね?」
「ゲートキーパーたおしたんですよね?」
「魔法使えるんですよね?」
とかうるさく聞いてくる。
これって歩き取材?
ここで『はい』と答えてしまうと俺の平和な人生が終わってしまうと思い、俺は無言で売店に入った。
ここならだいじょうぶのつもりだったが、全員売店の中まで追ってきた。
ここの売店は一般人にも開放されていたことをすっかり忘れてた。
それでも、連中は俺の行く手を阻むようではなかったので俺は目当てのおむすびセットと緑茶のペットボトルをカゴに入れて精算した。
その時金色のカードは見せられなかったので防刃ジャケットのポケットに入れている財布から現金で支払った。
その後、本棟側に設置された改札機に急いで駆けていき一瞬だけ冒険者証を出して改札機にタッチして本棟に入った。
そしたら後ろの方から『金色だったー!』という声が聞こえた。
目ざといヤツらだ。
中に冒険者資格を持った者もいたようで、しつこく俺を追ってくる。
俺は武器は諦め、改札を通ってゲートに飛び込んだ。
それでゲートを抜けた瞬間24階層に転移してやった。
そこでヘルメットを被り、手袋をはめてディテクター×2を発動したところモンスターはちゃんといた。
きょうは魔術とタマちゃんで頑張ることになるが、問題はないだろう。
時刻はまだ7時10分。
いやなことを忘れようとターゲットに向かった俺は魔術を連射して殲滅し、タマちゃんに処理してもらっていつものように核だけ受け取りスポーツバックに詰めていった。
魔術だけでも効率はほとんど変わらないようで、俺の気分とは裏腹にどんどん核はスポーツバックの中に貯まっていった。
結局1日を通して964個の核を手に入れた。
スポーツバックは文字通り核でパンパンになってしまった。
今度は帰りが問題だ。渦から改札を抜けたところに連中がまだいたらすごく面倒だ。
俺の機動力を生かして買い取り所に駆け込み、買い取りが終わったら再度機動力を生かして逃げ出し、適当なところでダンジョンワーカーに転移することにした。
ダンジョンワーカーで色違いの防刃ジャケットを着てしまえば明日以降そうそう俺を見つけられないと思ったからだ。
フィオナについても昔のようにリュックのポケットの中に入っていてもらえばフィギュア男卒業だ。
作戦通り、渦から500メートルほど離れた1階層に転移で現れた俺は、何食わぬ顔をして渦に向かって走って行き、その勢いのまま渦を通り抜けて改札を抜けた。
そこから走っていき買い取り所の個室に飛び込んだ。
誰かが俺を見張っていたかどうかはそのときは分からなかった。
964個の核でその日の総買い取り額は4億7429万円だった。
累計買い取り額は35億9881万600円+4億7429万円=40億7310万600円になった。
大金持ちであることは間違いない。
買い取り所の個室を出たところには幸い誰もいなかった。
ロビーホールに回ると危険なので、俺は買い取り所の並びの先にあるトイレに向かった。
トイレに駆け込んだところ、冒険者が2、3人いたがいずれも小だった。
おしっこをする真似をして奥のほうでごそごそしていたら誰もいなくなったのでそこでダンジョンワーカーの駐車場に転移した。
何気に面倒だし、すごくバカなことをしているような気がする。
ダンジョンワーカーの店内にはさすがに変な連中はいなかったので安心して防刃ジャケットコーナーに回り品物を選べた。
今着ている防刃ジャケットは黒に近い濃いグレーなので、白地の物を選ぼうと思ったのだが、そういったものは置いていなかった。
やはり白は汚れが目立つので人気がないのだろう。
ダンジョン庁の河村さんは白いジャケットを着ていたが別のところの製品だったようだ。
仕方ないので、黒いポンチョを買うことにした。
リュックを中に背負うことを前提としたデザインで、リュックを背負っていないときはファスナーでその分縮めることができる。
これなら無駄にならないし、雨の日に合羽代わりになって便利だ。
そのとき本棟出入り口の改札を通っていないことを思い出した。
仕方ないのでさっきのトイレに転移した。
運よく誰もいなかった。
そこから俺はロビーホールまで走り、改札を抜けたところでほぼ全力でセンターの門に向けて走り左手に折れてしばらく進んだところでうちに転移した。
ふー。
妙に疲れた。
こんな生活もう嫌だ!
その日俺は変な連中がインタビューのようなものをしようと群がってきて邪魔なので何とかしてほしいとダンジョン管理庁の河村さんにメールしてみた。
『未成年冒険者のプライバシーを尊重するよう各報道機関に通知します。ただ、フリーのジャーナリストを排除することは難しいので、その場合でも何かできないか考えておきます』と、10分ぐらいで返信があった。
明日の日曜や、氷川と約束している来週の祝日には間に合わないだろうが、次の日曜までに何とかなればありがたい。
その後俺は氷川にジャーナリストに見つかりたくないから次の待ち合わせ場所を改札の手前ではなく渦の向こう側に変更したいとメールした。
すぐに『了解。あと、待ち合わせ時間が遅いので次回は8時にしないか?』と返信があった。
待ち合わせの時間については俺も少し遅いと思っていたので、もちろん了承した。
これで、少し気が楽になった。
どうせ24階層は貸し切りだ。
武器がなくても支障はなかったわけだから、明日はセンターに寄らずに勝手に24階層に跳んで、そこで一仕事して、核はうちに持ち帰ろう。
そのうち少しずつさばいていけばいいや。
さらに気が楽になった。
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