第111話 1日Sランカーだった。


 週が明け一郎が高校で授業を受けている木曜日の正午。

 ダンジョン管理庁のホームページにサイタマダンジョン23階層のゲートキーパーが撃破されたと掲載された。

 掲載内容は、ゲートキーパーが撃破されたという事実と、ゲートキーパーは多数の大型のハチだったという情報が付け加えられていただけだった。


 各メディアはダンジョン管理庁の広報担当に詳しい内容を問い合わせたが、ダンジョン管理庁はホームページに掲載した以上の事実はないと回答している。

 21階層までのゲートキーパー撃破は撃破した攻略チームが詳細を発表していたが、ダンジョン管理庁ではこれまで簡単な事実の公表しかしていないので従来通りの対応ではある。


 各メディアは前回22階層のゲートキーパーを撃破した謎のSランクチーム***が23階層のゲートキーパーを撃破したと考えたが、謎のSランクチームは前回同様沈黙を守っているため取材などは出来なかった。


 サイタマダンジョンをホームベースとする攻略チーム『はやて』にも問い合わせたが『はやて』側は無関係であると回答するに留めていた。


 そのため先の魔法の存在報道と謎のSランクチームを絡めた憶測記事がメディアを賑わしたのは言うまでもない。


 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ダンジョン管理庁の河村さんを連れてダンジョン内を巡ったりゲートキーパーを破ったりして先週の土日は有意義に過ごした。

 そして俺の要望通り渦の前の改札だけ通れば後の改札を抜けなくてもいいことになった。

 これが地味にうれしい。


 今週は土曜まで真面目に学校に通った。

 途中ダンジョン管理庁のホームページに23階層のゲートキーパーが撃破されたとの簡単な記事が載ったが、それだけだった。

 スポーツ紙などを見ればもっといい加減なくわしい記事が載っていたのだろうが、自分のこととはいえ興味もなかったのでコンビニなどで立読みすることもなかった。


 そして日曜日。

 24階層を流して、総買い取り額4億3365万円。

 累計買い取り額は31億6516万600円+4億3365万円=35億9881万600円となった。

 金額的には何が何だかわからないレベルだ。


 その週の木曜日。

 ダンジョン管理庁のホームページにランク別冒険者年齢集計データが更新されて1月末時点のデータが追加された。

 前日河村さんから明日の正午に集計データが更新されるとメールが届いていたので、俺は学校が終わってうちに帰り着替えの前にスマホで確認した。

 俺が確認しようがしまいが何が変わるわけでもない。

 16歳Dランク冒険者数がゼロになり、16歳Sランク冒険者数が1になっているわけだから、誰が見ても今までの16歳Dランク冒険者が昇格したことは歴然としている。



 そして翌日の金曜日。

 2限と3限の間の休憩時間。

 和田たち冒険者4人組が俺のところにやってきて16歳Sランカーを話題にした。


「俺たちと同じ16歳で、DランクからSランクってまじかーって感じだよな」

「そのDランク冒険者ってサイタマダンジョンがホームだったんだろ?」

「そう聞いたぞ」

「ということは、23階層のゲートキーパーを破ったっていうのはその16歳?」

「そういいうことなんだろうな」

「この前魔法云々うんぬんって話があったじゃないか?」

「あった。

 その16歳Sランカーのことだったのかもな」

「Sランクは何人か下のランクの冒険者を連れ歩けるからソロでゲートキーパーをたおしたのかは分からないが、おそらくソロだろう。

 やはり魔法でたおしたと考えられるんじゃないか?」

「きっとそうだ」

 この4人いいところ突いてくるな。


「これからは魔法の時代だ!」

「魔法はイメージらしいからイメージトレーニングだ!」

「そうだろ、長谷川?」

「ああ、そうなんじゃないか」

 確かにそんな感じがしないでもない。


「そう言えば長谷川は1日Sランカーだったものな」

「だった、だった」

「長谷川、アレはもうやめろよ」

「そこが長谷川のおちゃめなとこだよな」


 あの時ちゃんと冒険者証をカードホルダーから取り出して書いてある字を4人に読ませればよかった。

 しかし、16歳のBランカーはゼロなんだがそのことに和田は気づいていないのか?

 いや、和田たちはダンジョン庁のホームページをそもそも見てないような気もする。


 その辺りで授業開始のベルが鳴ったので4人は各自の席に戻っていった。


 次の授業は担任の吉田先生の現国の授業だ。

 どの授業も同じだが、真面目に先生の言葉を聴いていれば問題はない。


 50分の授業をそつなくこなしたところで、吉田先生が俺に向かって、

「長谷川くん、4時限目が終わったら生徒指導室にきてちょうだい」

「はい」

 何だろう?

 昼食の前に呼ばれたということはそんなに時間はかからないということだと思うが、何で呼ばれたんだろう?

 心当たりがなさすぎる。


 4限の数学が終わったところで食堂に行くとか弁当を食べ始めたクラスの連中が俺を冷やかす中、教室を飛び出して生徒指導室に駆けて行った。


「長谷川です。失礼しまーす」

 そう言って生徒指導室に入ったら、当たり前だが吉田先生が待っていた。

「聞きたかったことというか、確認しておきたかったことがあったので来てもらったの。

 ダンジョン管理庁のランク別の年齢表のなかに16歳のSランク冒険者が1名いたんだけど、あれって長谷川くんよね」

「はい。先月の初めにSランクになりました」

「びっくりだけど、おめでとう。

 これは答えたくなければ答えなくていいんだけど、22階層、23階層のゲートキーパーをたおしたのも長谷川くん?」

「はい。

 Sランクになって自由に潜れるようになったもので」

「やっぱり。

 それで長谷川くんはまだソロなんでしょ? 無理とかしていないの?」

「今24階層で流してるんですが、いつでもゲートキーパーをたおせると思います。

 ただ、ダンジョン管理庁の人に『あまり立て続けにゲートキーパーをたおしてしまうと他の攻略組に悪い影響があるかもしれない』と言われたもので、ゲートキーパーのところまで行ってません」


「はー。よーく分かったわ。

 それで長谷川くんは大学はどうするつもり?」

「大学には行こうと思っています」

「その方がいいと思うけど、就職は?」

「適当に。大学を出て就職できれば副業で冒険者をやってもいいし、就職できなければ冒険者を本業にしてもいいし」

「分かりました。

 長谷川くんの成績が卒業まで続くなら、一流校にも余裕で合格するでしょうから気を抜かず頑張ってください。

 以上です」

「ありがとうございました」

 俺はそう言って頭を下げて生徒指導室を後にして教室に戻った。


 席について弁当を広げていたら今度は鶴田たち哲人3人組が早々に昼食を終えたようで俺の机の周りに集まってきた。

「長谷川、指導されるうちが華だからな」

「その通りだ、くよくよするな」

「見捨てられたら終わりだ。それに比べればよほどいい」

「あのなーきみたち。

 別に俺が何かしでかして呼ばれたわけじゃないぞ。

 冒険者のことで聞かれただけだ」


「なんだ。杞憂だったのか」

「空から天が落ちてこなかったということだ」

「断言しよう。たとえダンジョンの天井が崩れても長谷川だけは生き残る」


 こいつら俺を心配してくれてたのか。

 いい奴らだとは思っていたが、ほんとにいい奴らだ。

「そう言えば、和田たちはこの冬休みに冒険者になって一度長谷川と潜ったんだろ?

 10万の目途が立ったから俺たちも春休みに冒険者の資格を取ろうということになったんだ。

 その節はよろしく頼む」

「任せてくれ」

「すまんな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る