第110話 24階層。ダンジョン管理庁管理局企画課2


 武器預かり所で武器を返したところで河村さんと別れた。

「今日はありがとうございました。いい経験ができました」

「どうも。

 23階層のゲートキーパー撃破についてはどうなりますか?」

「来週中にダンジョン管理庁のホームページで発表されると思います」

「24階層のゲートキーパーもいつでもたおせますがどうしましょうか?」

「あまり立て続けは他の冒険者というか攻略組の士気に関わるかもしれませんのでどうしましょう」

 言わんとすることは分かる。

 確かに自分たちが苦労していたゲートキーパーをやすやすと撃破されれば士気が落ちる可能性は高いだろう。

 だからと言って、河村さんの口から俺にゲートキーパーの撃破は控えるようにとは言えないものな。


「24階層でしばらく流しておきます」

「ご理解していただきありがとうございます」



 結局成り行きで23階層のゲートキーパーを撃破してしまったが、あれって実際問題俺以外の冒険者がたおせるのだろうか? 大いに疑問だ。

 それこそ、自衛隊が火炎放射器かなんかで焼き払わないと無理のような気がする。

 サイタマダンジョンでは俺がたおしてしまったからいなくなったけれど、ほかのダンジョンじゃ苦労するだろうなー。


 とにかく今日も大漁だった。

 ダンジョンさまさまだ。

 正月に感謝の気持ちを込めて賽銭箱に千円を投げ込んだのが良かったのだ。

 まだ1月だけど来年の正月には2千円投げ込んじゃうか?


 20億越えの現金を持ってる個人としてはせこいかもしれないが、俺はまだ未成年だから。

 それはそうと、そろそろ20億円どこかに預けてたほうがいいカモ?

 そのうち父さんにでも聞いてみるか?



 翌日の日曜日。

 朝7時。

 支度をして玄関を出たら外は小雪が舞う天気だった。

 道が凍るとバスの運行に支障が出るから今日のダンジョンセンターは人が少ないかもしれない。

 渦の先から現場に直行できるようになったのであまり関係なくなったけれど、周囲に人が少ないに越したことはない。


 おかげさまで7時30分には24階層に立っていた。

 まずは12時までの4時間半。

 今日こそ、みっちりばっちり儲けるぞ!


 ディテクター×2!


 いるいる。

 片っ端からモンスターを仕留めていって、まかり間違ってゲートキーパーの近くまで行ったらそのまま撃破してやろう。

 後で面倒になったらいやだから、しばらく核も隠匿しておいて、頃合いを見て撃破したって言えばいいや。


 午前中は意気込み通り、いい調子でモンスターをたおしていった。

 手に入れた核は468個。

 アリが出てきてくれれば効率が良かったのだが、あいにくアリはいなかった。


 昼の休憩を30分取って、午後からの狩を始めた。

 午後からも好調だったがやはりアリには出会えなかった。

 アリさんアリさんどこいるの?


 午後からの4時間の収穫は、410個

 午前と合わせて、878個の核を手に入れた。


 10分もかからず買い取り所まで行けるのが実に便利だ。

 河村さんを案内したことは無駄ではなかった。

 今日の買い取り総額は4億3110万円だった。

 23階層のゲートキーパーの核は8000万円の査定だったようで8000万円が加わり、

 累計買い取り額は26億5406万600円+4億3110万円+8000万円=31億6516万600円となった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 月曜日。

 ダンジョン管理庁管理局小会議室。


 課員の河村が一昨日の長谷川一郎とのダンジョン同行について小林企画課長と山本課長補佐に報告していた。


「手を握ってくれというので彼の手を握ったら一瞬で1階層から23階層まで移動しました」

「やはりそうだったか」

「転移という能力で魔法ではないそうでしたが、区別の必要はないとのことでした」

「なるほど。

 それで、ほかには?」

「はい。

 23階層に着いた後は、彼がわたしに付いてくるように言ったあと駆けて行ったのを追いかけました。それほど走ったわけではないのですがモンスターに遭遇し、彼が魔法であっという間にモンスターを殲滅しました」


「坑道内を走ったのか。ついていくのが大変だったろう。河村くんをアサインして正解だったわけだな。

 その時の魔法はどういった魔法だった?」と、山本課長補佐。

「その時の魔法はウィンドカッターという視覚では捉えられない魔法で、本人曰く連射したそうなんですが、群れになった大蜘蛛が文字通り一瞬で音も立てずにバラバラになってその場に崩れてしまいました」

「なるほど。

 ほかには?」

「ファイヤアローという名の魔法なんですが、アローと言っていますがそんな生易しいものではなくレーザー光線のように高速で、モンスターに命中すると大穴が空いていました。

 あとはウォーターカッター。

 三日月形をした平たい水が飛んでいくんですが、カッターというより平たいハンマーのような感じで対象を砕きながら切断するような魔法でした。

 ウィンドカッターは固いモンスターには効きが悪いそうで、固いモンスターにはウォーターカッターの方が有効だろうと本人が言っていました」

「「なるほど」」


「23階のゲートキーパーだったハチの群れの撃破時はファイヤーボールでした。

 この魔法は白くギラギラ光る火の玉が高速で飛んでいき何かに当ることで爆発するようでした。

 この時は10数発連射したそうなんですが、わたしには白い光の流れが見えただけです。

 爆発の粉塵がおさまった時には群れ飛んでいたハチは1匹もいなくなって、ハチの巣も跡形もなくなっていました。

 ゲートキーパー撃破の状況はビデオに録画していますので分析に出しています」

「わたしも後で見てみよう。

 ほかには?」


「本当に無駄なくモンスターに遭遇していましたので、アレも何らかの魔法ないしは能力のたぐいだったのかもしれません」

「恐らくそうなんだろうな」


「彼はまさに魔法使いなんですが、本人いわく、魔法より剣の方が得意とか」

「はあ? どういう意味だ?」

「言葉通りです。

 彼は大剣を主な装備としているんですが、文字通り目にも止まらぬ剣さばき、体さばきであっという間にモンスターを殲滅していました」

「それではまるで超人じゃないか」

「はい。超人そのものだと思います」

「ふー。

 単純に魔法の存在が冒険者人口増加につながると思っていた案件だったがなんだかとんでもないことになってきたな」


「さらにもう一点あるんですが」

「まだあるのかね?」

「はい。

 彼、スライムを飼ってるんです」

「なにー!?

 そもそもモンスターは生きたまま渦の外に持ち出せない。無理やり連れだすと死んでしまうと結論が出ていたはずだが」

「そうなんですが、事実スライムを飼っているんです。

 それもただのスライムではなく、ゲートキーパーなんか目じゃないくらい強力な」


「ふー」

 山本課長補佐が眼鏡を取って目元を揉んだ。

「それはどういう意味だね?」


「言葉の通りです。

 おそらくこれまで自衛隊が撃破したであろうゲートキーパーも含めて彼の飼っているスライムの方が強力だと思います。

 何でも一瞬で体内に吸収し、その量に際限がありません。

 24階層でアリの大群が現れた時、彼が最初魔法でたおしていたんですが、後ろの方に魔法が届きにくくなったので、彼がそのスライムに生死にかかわらずアリを食べろと命じたところ、ほんの30秒ほどで丸呑みしてしまいました。

 その時のアリの数は255匹だったそうです。

 そのことについて危険なスライムではないかと本人に質したところ、モンスターを飼ってはならないとかの規則や法律ができたら今後一切協力しないと強い口調で釘を刺されました。

 現在そういった規則も法律もない以上、触れない方が得策だと思います」


「わかった。

 ところで、長谷川くんは魔法をダンジョン外で使えるのかな」

「ダンジョンセンターでファイヤーの魔法を使って見せてくれましたから、当然使えると思います」

「確かそうだったな。

 まさに歩く最終兵器だな。

 彼は無茶をするような人物ではなさそうだが、今後彼以外に魔法が使える冒険者が現れたら問題だぞ。

 ダンジョン外での武器の携帯禁止など無意味になるわけだからな」

「そうですね」

「課長、われわれの仕事はあくまでダンジョンの振興ですから、魔法で大いに盛り上がってもらおうじゃありませんか」

「それもそうだな」


「河村くん、報告はそんなところかな?」

「はい。

 課長補佐、23階層のゲートキーパー撃破の発表はいつになりそうですか?」

「発表しないわけにもいかないし、明後日あたりになるだろうな」


「24階層のゲートキーパーも簡単に見つけて撃破できると彼は言っていましたが」

「課長、ある程度間を置いてもらわないとサイタマダンジョンと他のダンジョンとの差が開きすぎるし、こう立て続けでは彼以外のSランクの冒険者たちにもよくない影響を与えかねません」

「それもそうだな。

 それで河村くんは彼に何か言ったのかね?」

「はい。わたしから控えてくださいとは言えませんでしたので、『どうしましょう』と言ったころ、察してくれたようで『24階層で適当に流しておく』と言っていました」

「現在最深部をソロで適当に流しているというのが全てを物語っているな。いずれにせよ、見守るしかあるまい。

 河村くん、よろしく頼む」

「はい」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る