第113話 クレーム対応。氷川涼子11
日曜日。
準備を整え7時に玄関を出た俺は、近くのコンビニまで走り、そこでバラ売りのおむすび4つと緑茶のペットボトルを購入した。
コンビニはダンジョンセンターの売店と違い通路が狭いのでリュックとスポーツバッグ持参は
店を出て周りを見回し適当なところで24階層に転移した。
まずはディテクター×2。
いるいる。
ヘルメットを被り手袋をはめて準備オーケー。
いくぞー!
俺が昨日あれほどモンスターを間引いてやったのに、今日も昨日と同じようにワラワラだ。
一体どうなってるのだろう?
俺も調子に乗ってガンガンいってやった。
結果、実働時間がいつもより1時間近く長かったこともあり、今日1日で手に入れた核の数はとうとう1000の大台を超えて1012個になってしまった。
もうスポーツバッグはぎゅうぎゅうだ。
それじゃあ、帰るとしよう。
うちの玄関前に直接転移で現れたのだが、実に便利かつ爽快だった。
週が明けて月曜日。
高校から帰って、しばらくしたところでダンジョン管理庁の河村さんからジャーナリスト対応についてメールがあった。
『報道各社に対して未成年冒険者に対する取材は慎むよう通知しました。
この通知に従わない場合指導することになります。
今後の対応ですが、サイタマダンジョンセンター内に長谷川さん専用の個室を設けることができます。
個室内に武器用のロッカーを置きますからそこに武器を保管していただくことで預かり所へ行く必要はなくなります。
また、核の買い取りもそこで行なえるようにします。
長谷川さんが外部から直接館内にそして渦を通ることなく直接ダンジョン内に転移できるのでしたら、入出館用及びダンジョン入出用カードリーダーを置きますから、その部屋に直接外部から転移してもらい、そこからダンジョン内に転移してもらっても構いません。
ただ個室使用については無料ですと特定個人への優遇に成るため利用料として月5万円程度負担していただくことになります。この費用については長谷川さんの当座預金口座から自動で引き落とされることになります。
なお機器の設置作業などで使用可能までに1日から2日かかります。
専用個室について了承されるならお返事お願いします』
俺の方は『館内にもダンジョン内にも転移できるので、ぜひそれでお願いします』と返信しておいた。
昨日直接ダンジョンとうちの間を行き来したが実に快適だった。
これから先、ワンクッション挟むとは言え、似たような感じでダンジョンに行けると思うとニマニマ笑いが止まらない。
氷川と約束した明後日の祝日にはさすがに俺に対する直接攻撃も下火になっているだろうから、問題なく突破出来ると思う。
翌日の授業を無難にこなし、氷川との約束の祝日になった。
俺は防具を整え近くのコンビニで食料と飲料を購入した。
今日は氷川にモンスターをたおさせる予定なのでスポーツバッグは日曜の核が入ったまま自室のクローゼットの中に置いたままになっている。
買い物が終わり店を出た俺はコンビニの庇の下でリュックの中からダンジョンワーカーで買った黒いポンチョを取り出してそのまま羽織り、ダンジョンセンターの近くに転移した。
フィオナにはリュックのポケットの中に入ってもらっている。
時刻は7時40分。約束時間の20分前だ。
門柱から敷地内をのぞいたところ、それらしい人物は見当たらなかった。
よし!
ほぼ全力でセンター本棟に駆け込み改札機に冒険者証をタッチした。
セーフだったようだ。
すぐにポンチョを脱いだ俺はエスカレーターで2階に上がって武器預かり所で武器を受け取り装備して1階に下りた。
周囲を見回したが誰も俺に注目していない。
よし!
そこから急いで改札を抜けてその先の渦の中に飛び込んだ。
何も言わなかったが、渦を抜けたところでフィオナがリュックのポケットから出てきて俺の肩に止まった。
氷川はやはり先に来ていたようで、渦から出てきたばかりの俺を見つけて、
「おはよう、一郎」と、呼んでくれた。
「おはよう、涼子。
それじゃあ行こうか」
「ああ」
階段小屋へ歩きながら。
「長谷川も本当に有名人になってしまったんだなー」
「うん。なっちゃったみたいだ。
それはそうと今日はどの階層に行く?」
「6階層、7階層は何とかいけたから、8階層に挑んでみたいんだが」
「調子良さそうで何より。
いちおう改札を通らないといけないけれど、8階層だな」
それから、1階層、3階層、5階層の階段前の改札を抜け、階段を下ったところで誰も見えなくなったので7階層へ続く上り階段のある8階層の空洞に転移した。
「長谷川の転移は実に便利だな」
「だろ。
実はジャーナリストの取材で困っているとダンジョン管理庁の知り合いに苦情を言ったんだ」
「ダンジョン管理庁の知り合いなんていたのか?」
「改札を通る時間が異常に短いとか、パフォーマンスが異常とかで目を付けていたんだそうだ。
それで、俺が魔法を使えるかどうか知りたいというので使えるといったら是非ダンジョン内に同行させてくれと言われて連れて行ったんだよ」
「ふーん」
「氷川のトウキョウダンジョン高校かどうかは知らないけれど、ダンジョン高校の1期生だと言ってた。
それはいいんだけど、俺が情報を教えたことで俺に何か不利益が起こるようなら対応すると言ってくれてたんだ」
「なるほど」
「それで苦情を言ったら、ダンジョンセンターに個室を貰えることになった。
うちからそこに転移して、カードリーダーに冒険者証をかざせばそのままダンジョンに跳んで行ってもいいことになった。
武器保管用のロッカーを置いてくれるほか、その部屋で核の買い取りもしてくれるそうだ」
「破格の待遇だな。
しかし、長谷川のダンジョン管理庁に対する貢献はそれ以上なのだろうな」
「そこは分からないけれどな」
ディテクター×2!
やはり24階層と比べかなりモンスターは薄い。
それでも複数のアタリがあった。
「そろそろ行くか。
危なそうなときは手を出すが、氷川がひとりで戦うでいいな」
「それでいい」
最初のアタリは大ネズミが5匹だった。
近づく俺たちに気づいた大ネズミがこっちに向かってきたが、それに向かって氷川が鋼棒を片手で持って突っ込んでいった。
鋼棒を振るう時は両手で振るうのだが一撃一撃が重くなっているようで、確実に一撃で大ネズミは動かなくなっていった。
5匹目の大ネズミが動かなくなった後、まだ息のあった大ネズミに氷川が止めを刺した。
この調子なら午後から9階層も見えてくるな。
5匹はタマちゃんが簡単に処理して受け取った核は氷川に渡した。
「前回よりも確かに良くなってる。
氷川も頑張ってるみたいだな」
「もはや第一人者となった長谷川に言われると何だかうれしいな」
第一人者か。
ちょっとうれしい響きがあるぞ。
それからも氷川は何の問題もなく8階層のモンスターをたおしていき氷川は午前中で63個の核を手に入れていた。
12時になったところで昼休憩に入り、お互いおむすびを頬張りながら雑談をした。
「それで23階層のゲートキーパー戦はどうだったんだ?」
「ハチがでっかい巣の周りを数が分からないくらいぶんぶん飛んでたんだ。
それでその日はちょうどダンジョン管理庁の人を連れてた日で後ろにその人がいたから突っ込んでいって後ろにもしも取り逃がしたらマズいと思って少し離れたところからファイヤボールを10発だったか撃ち込んでやったら、それだけでハチは全滅した。
核を回収したら大きなのが1つあったからゲートキーパーだったんだろうということになった」
「長谷川にかかるとゲートキーパーも無意味だな。
24階層のゲートキーパーは倒さないのか?」
「あまり立て続けにゲートキーパーを簡単に撃破してしまうと他のSランク冒険者にいい影響が出ないかもしれないとやんわりダンジョン管理庁の人に言われたからいまは控えている」
「確かに。
22階層のゲートキーパー撃破のために各攻略チームが準備していたそうだしな」
「怒ってるかな?」
「怒っている可能性はないとは言えないが、どうしようもないだろ?
そもそもゲートキーパーを単独撃破するような人の領域を超えたような人間にちょっかい出すほどいかれた人間はいないから安心しろ」
吉田先生には『人外』と言われるし、氷川には『人の領域を超えた』か。
『人の領域を超えた』の方がちょっといいかも?
昼の休憩は30分で切り上げ、俺たちは午後からのサーチアンドデストロイを始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます