第107話 河村久美2、同行1
俺は夕食を終えて2階に戻り、机の椅子に腰を掛けてスマホを見ていた。
河村さんからの連絡通り、水曜日にダンジョン管理庁が魔法について何か発表したらしい。
そのことでwebのニュース記事などもにぎわっている。
記事の中にはその前の22階層のゲートキーパーを撃破についての発表と考え合わせるような記事もあるようだ。
勘ぐるのは当然だよな。
そうなると確実に2月の頭あたりにダンジョン庁のホームページで発表される年齢別冒険者人数でたったひとりの16歳Sランク冒険者と魔法と22階層のゲートキーパー撃破が結び付く。
魔法くらいは今さらだがさすがにタマちゃん、フィオナ、転移。この3つは死守しないとマズい気がする。
あと俺が異世界帰りってことも。
あっ! 思い出した。
治癒魔法もあった。
あれはマズいだろうなー。
あの時忘れていたから良かったけれど、覚えていたら調子に乗って口を滑らせたかもしれない。
ラッキーだった。
あの世界から帰って来た時、秘密と言えばあの世界のことと魔法が多少使え、体がかなり丈夫ということぐらいだったのに、知らず知らず秘密が増えてる。
夜8時ごろ。
スマホを閉じようとしたらいきなりスマホが震えてびっくりした。
メールの着信だ。
見ればダンジョン管理庁の河村さんからだった。
メールの内容は、
『明後日、できればサイタマダンジョンにご一緒していただけませんか?』と、いうものだった。
ファイヤーの魔法実演だけではだめだったのか?
かといって俺は23階層に行くわけだし、転移がなければ23階層まで行くだけで1日が終わってしまう。
いかに相手がお
でも、氷川は俺が異世界帰りということ以外俺の秘密は全部知っている。
河村さんは氷川ほど信用できるんだろうか?
そもそも河村さんは23階層までどうやって行くつもりなんだろう?
改札通過時間から考えれば、俺が特殊な
良いことを閃いた!
そもそも俺が改札を通過しているのは、ここをちゃんと通りましたよという足跡を残すためだった。
ダンジョンセンターからすれば、ダンジョンに入った時刻を記録するためと、AランクからCランクの冒険者が勝手に深い階層に行かないよう制限するというのがその意味合いだろう。
もともとどの階層に潜ってもいいSランク冒険者の場合、改札口の通過は渦の前だけでいいんじゃなかろうか?
ダンジョンセンターというよりその上のダンジョン管理庁に頼めば本来の意義から外れるわけでもないので俺だけの特例にしてもらえる公算が高い。
よし。
河村さんにその辺りを話して了承がもらえたら同行してやろう。
『こちらの条件を聞いてもらえるなら、お連れします』と、返信した。
すぐに『どういった条件でしょうか?』と返ってきたので、先ほどのことをメールしておいた。
『お任せください。待ち合わせは7時30分、渦の前の改札前でよろしいですか?』とこれもすぐに返ってきた。
条件を聞いてくれるなら同行を断る理由はなくなったので『了解しました』と返事しておいた。
そして土曜日。
難しいことは忘れて、ダンジョンで大暴れしようと思っていたのだが、今日は河村さんを連れて行くことになっている。
人ひとりを守りながら戦う程度23階層にいるモブモンスター相手なら簡単だ。
心配なのは河村さんの体力だ。
自分から頼んできたことだし、ある程度体力に自信があるのだろうが、相手は現役の官僚。かなり厳しいのではなかろうか?
いつものように7時にセンター近くに転移した俺は、いつものように売店に駆けこんで食料と飲料を調達した。
売店内で周囲の視線を今まで以上に強く感じる。
これは気のせいではない。
魔法効果かゲートキーパー撃破効果なのだろう。
それでもレジは空いていたのですんなり精算できた。
武器預かり所で武器をフルセット受け取った俺は受け取った武器を装備してリュックを担ぎ1階の渦の前の改札に歩いていった。
改札の手前に装備を整えた河村さんが立っていた。
河村さんは白地に黒いラインの入った防刃ジャケットに黒いリュックを背負っていた。
ベルトにはやや大きめのメイスがぶら下がり、反対側には鞘に入ったナイフが取り付けられていた。
ヘルメットにはちゃんとキャップランプが付いていたが、俺のようなフルフェイスのヘルメットではなくハーフタイプのヘルメットだった。
よほどじゃなければフルフェイスのヘルメットなんか被らないよな。
俺とか氷川とか。
それはそうと見た目はどうして、それなりにサマになった冒険者姿である。
「おはようございます」
「おはようございます。
今日はご無理を聞いていただき、ありがとうございます。
Sランク冒険者付き添いの下でのダンジョン進入の届けは監督官庁権限で済ましています」
その冒険者のランクで進入が許されていない階層に連れて歩くには、そういった届けが必要なのか。しかし、監督官庁権限?
そうか、Sランク冒険者以外が勝手にそんな届け出したりしたらマズいものな。納得だ。
「ちょっと早いですが入りますか」
「はい」
スポーツバックを手に持って改札を通りその先の渦を抜けたら、今日もいい天気だった。
渦の前からズレ、さらにほかの冒険者からも話声が聞こえない場所まで河村さんを連れて移動した。
「河村さんのご想像の通り、俺は移動手段を持っています。
これについては公表しないでください。
もちろん上司に報告するのは河村さんの仕事でしょうから止めません」
「はい」
「今日からダンジョン内の改札を通らなくてもいいんですよね?」
「もともと規則違反ではありませんから、Sランク冒険者はダンジョンに出入りした際渦の前の改札だけ通るだけでいいという『解釈』を庁内で調整しました。
規則の変更といった形での明文化はしませんが、全国のダンジョンセンターに対して昨日通達しましたので今日からは問題になることはありません」
やることが早いな。
できなきゃ連れて行かれなかったわけだから必死だったんだろう。
「それでしたら、直接1階層から23階層まで跳んでいきます。
あと、もう一点。
23階層に行ったら、基本的に走りづめになりますが、その辺は大丈夫ですか?」
さすがに俺もいつものスピードで駆けまわるつもりはないがそれでも一般人のジョギングなどより速く走ると思う。
「わたし、実はダンジョン高校に1期生として入学して卒業してから大学に行き、大学を出て公務員になったんです。
ダンジョン高校での成績は下から数える方が早かったんですが、体力だけは自信があります。
それに、ちゃんとダンジョン高校を卒業してるんでこれでもCランクの冒険者なんです」
そう言って俺に緑色のラインの入った冒険者証を見せてくれた。
なるほど。どおりで。
もう改札を通らなくて済むので、キャップランプを点灯してから俺は手袋をはめた。
「さっそくですが、キャップランプを点けてそれから僕の体の適当なところを持ってくれますか。
リュックだとまずいかも知れないから、無難に僕の手を持ってくれますか?」
河村さんが手袋をした手でキャップランプを点灯しそれから俺の空いた手を取った。というかしっかり握った。
転移。
23階層に直接転移した。
実に気分がいい。
河村さんは俺の手を握ったまま半分口を開けて周囲を見回していた。
俺は彼女の手はそのままにディテクター×2を発動した。
今日もいるいる。
とはいえ、いつも通りに元気いっぱい走り回れるわけではないので、それほどの数はこなせないだろうな。
そんなことを考えていたら、俺の手を握り続けていたことを思い出したのか河村さんがいきなり俺の手から手を離した。
「今のは?」
「今のは転移というもので一種の能力です。
魔法じゃないんですが、魔法と思ってくれていいです。
これからすぐにモンスターのところまで駆けていきますが、魔法はいまさらなので構いませんがそれ以外その時見たことも公表しないようお願いします」
「分かりました。
武器は構えていた方がいいですか?」
「河村さんが戦わなければならない状況にはなりませんから、走りやすい方で。
それじゃあ、行きますからついてきてください」
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