第102話 買い取り。
俺はニヘラ笑いをこらえながら5時少し過ぎに買い取り所に駆け込んだ。
レジ袋に入っていた核を最初にトレイの上に空けて、その後は布製の買い物袋に入れていた核をトレイに空けた。
最後はリュックから直接核を取り出しながらトレイに置いていった。
後から後から核がトレイの上に載せられるので係の人も最初のうちは驚いていたがそのうち無表情になり、トレイから査定機械に流していった。
トレイに出した核がなくなったところで真打ち登場。
22階層のゲートキーパーの核をトレイの上に置いた。
無表情だった係の人が半分口を開けてゲートキーパーの核と俺の顔を交互に見た。
「こ、これは!?」
「22階層のゲートキーパーの核です」
「済みません、いま22階層のゲートキーパーの核と聞こえたんですが」
「22階層のゲートキーパーの核です」
「この部屋には長谷川さんだけですし、長谷川さんが単独撃破したということでしょうか?」
「はい」
「ふー。
たしかにこの核はゲートキーパーの核と思われます。
少々お待ちください」
そう言って係の人が一度奥に引っ込んで、いつぞやレインボースライムの核を見てくれたおじさんがやってきた。
「確かに、ゲートキーパーの核ですね。
機械が対応していませんので査定には少々時間がかかりますが、レインボースライムの核の時ほどは時間はかかりません。
査定そのものは30分ほどで終わります。お待ちになりますか?」
「これで帰りますから、お任せします」
「分かりました」
「22階層のゲートキーパーはサイであると言われていましたが」
「見た目は固そうな大きなサイでした」
「ちなみにサイの角はどうされました?」
「大きい方の角だけ記念に取ってます」
「ということは売却なさるおつもりはないのですね?」
「あれって、売れるんですか」
「はい。
こういった高額が予想されるアイテムについては売却方法が2種類あります。
ひとつは当センターでの通常の買い取り。
一般のサイの角は現在1グラムで100ドルと言われています。
これについては正確ではありませんので実際の査定には正確な数字を使わせていただきます。
それで仮に1グラム100ドルとしますと、角の重さ1グラムあたり100ドルと為替を掛け、源泉税20パーセント強を差し引いて買い取るという方法です。
この方法ですと、ゲートキーパーの核と同じく明日の午前中には長谷川さんの口座に代金が振り込まれます。
もうひとつの方法は当センターが代理となりオークションに出品する方法。
その場合、オークションでの売却代金の2割相当が手数料として当センターとオークション会社に支払われますので長谷川さんの手取りは売却額の8割ということになります。
この場合は2カ月から場合によっては4カ月の時間がかかることと、売却代金を翌年の3月に確定申告する必要がありそれ相応の所得税がかかります。
さらにその所得から計算された住民税もかかってきます」
なるほどよくわからん。
オークションも気にはなるが、税金を俺が支払う立場になるとおそらく俺は父さんの扶養家族じゃなくなるはずだ。
それくらいは大したことじゃないかもしれないが、俺の収入を父さんが知ることになるよな。
そうなると父さんも驚くだろうし、俺も面倒だ。
この場で売却一択だな。
「ここで買ってもらうことにします。ここに出しちゃっていいんですか?」
「ここは核の買い取り専門のブースなのでここでは買い取れないんですが、ブースを変わるのも面倒でしょうし、Sランクの長谷川さんですからここで構いませんよ」
Sランク優遇だな。
ありがたや。
俺はリュックの中のタマちゃんに小声でサイの角を出してくれるように言って、リュックの中から取り出したサイの角をカウンターの上に置いた。
かなり立派な角だったので係の人は「これはまた見事な……」とか言ってまた驚いていたが、角の大きさがリュックの大きさと不釣り合いなことには気づいていなかったようだ。
俺はそのあと「よろしくお願いします」と一言係の人に声をかけて、買い取り所の個室を出た。
その日の買い取り総額は、3億2240万円。
嘘みたいな金額だが事実だ。
そして累計買い取り額は13億682万600円+3億2240万円=16億2922万600円になった。
この金額にゲートキーパーの核とサイの角の買い取り金額が付け加えられる。
俺ってどうなっちゃうんだろう?
うちに帰ってすぐに、昨日相談に乗ってもらったことのお礼と一緒に22階層のゲートキーパーを撃破したと氷川にメールしておいた。
夜の9時ごろ『おめでとう。やっぱり簡単だったみたいだな。それで23階層はのぞいてみた?』と、返事があった。
『22階層と変わらなかったけれど、モンスターが濃くて大儲けできた』と返信しておいた。
今度はすぐに返事があった。
『わたしじゃとても想像できない世界だ』
それに対して俺は返信しなかった。
返事のしようもないものな。
翌日。
3連休の最終日。
いつも通り7時にダンジョンセンター脇に転移で現れた俺は、ちゃんと朝食をとろうとファミレスに入った。
客の入りは4割ほど。
好きな席に座っていいと言われたので空いていたコーナーの4人席に座った。
俺が頼んだのは和風朝食セット。
すぐにトレイに載って料理が運ばれてきた。
今日の和風朝食セットは、お代わり自由のご飯に、アジの干物、焼きたらこ、千切り大根のお浸し、生玉子、納豆、焼きのり、豆腐の味噌汁、白菜の漬物だった。
ご飯のお代わりを一度して15分ほどで食べ終わってしまった。
もう少し噛んで食べた方がいいかもしれない。
最後に緑茶を飲んで席を立った。
支払いは冒険者証。
レジの女性は俺の金色に輝く冒険者証を見てひれ伏しはしなかったが相当驚いたようで俺の顔と冒険者証を2度見した。
こんな若造が10億稼いだんだもの、彼女の気持ちはわかる。
昨日のペースで23階層を回るとまたリュックの中が核でいっぱいになってしまう。
ファミレスを出た俺は、なにか核を入れる手ごろな入れ物はないかとダンジョンワーカーに寄ってみた。
客がほとんどいない店内を回っていたら大型のスポーツバッグが目に留まった。
移動時には手で持っていればいいし、戦闘時にはその場に置いて戦闘すればいい。
23階層の核でも1000個は入りそうだ。
レジ袋よりそうとう丈夫そうだし。
俺のカラーのブラックスポーツバッグをレジに持っていって精算し、その場でスポーツバッグからタグとか切り離してもらった。
ここでも俺の冒険者証は驚かれた。
今まで気にしたこともなかったけれど、この冒険者証を落っことしたら大変だな。
16億円以上のお金が入ってるんだもの。
そのうち、銀行の普通預金にある程度移しておこう。
黒いスポーツバッグを手に持った俺はセンターの売店に入っていった。
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