第97話 Sランク


 一宮神社で2年参りを終え、ファミレスで駄弁った後大宮駅から電車に乗って最寄り駅に到着して朝帰りした。


「ただいま」

『お帰りなさい』

 もちろん、母さん父さんには断って初詣に行ったので、朝帰りした俺を誰も気にしていなかったようだ。



『お雑煮できてるけど、食べる?』

 居間の方にいたらしい母さんにそう聞かれたけれども、先ほどポテトチップスとサンドイッチを食べたばかりなので断った。

「友達と食べてきたからいい」

『そう。

 疲れているんでしょうから、夕方まで寝てればいいわ』

 さすがにこれからダンジョンに潜る気はしない。

 そこまで疲れているわけではないけれど昼までは寝ていよう。


 部屋に戻った俺は部屋着兼寝間着に着替えてベッドにもぐりこんだ。

 ちなみにタマちゃんは段ボール箱の底でいつも通り。

 フィオナは見当たらなかった。

 母さんが構っているのだろう。




 昼前に目が覚めた。

 タマちゃんはそのままだったけどフィオナは部屋に戻ってきていて、自分のふかふかベッドの上で横になっていた。


 お腹が少し空いたので何かないか下に下りようと部屋を出たらフィオナがついてきた。

 食堂のテーブルには母さんが座っていたので何かないか聞いたところ、

「おせち料理とお雑煮、巻きずしもあるけどどうする?」

「せっかくだから、お節料理を少し食べて、お雑煮も食べる」


「お餅は何個入れる?」

「3個かな。

 父さんは?」

「お父さんは近くの神社に初詣。

 一郎はどこに行ったの? 一宮いちのみや神社?」

「うん。一宮いちのみや神社」

一宮いちのみや神社、テレビにも映っていたけど混んでたでしょ?」

「すごく混んでた」

 誰と行った? とか聞かないんだ。

 信頼されている証拠なのか?


 お皿に取り分けられたお節料理をつまみながらお雑煮を食べた。

 フィオナに黒豆を食べさせようと思ったけれどフィオナには大きすぎたようで、箸で摘まんで皮から出して小さくしてやったら食べた。

 フィオナの大好物はハチミツだけど、基本的になんでも食べられるようだ。

「はい。お年玉」

「あ、ありがとう」

 そういうことはすっかり頭の中になかった。

 俺は母さんがくれたお年玉袋をありがたくいただいた。


「一郎、あなたに年賀状何枚か来てたけど、あなた年賀状出した?」

「1枚も書いてない。

 まだ使ってない年賀状ってある?」

「あるから、ちゃんとお返しに書いておきなさい」

「はい」



 昼食?を食べ終わった俺はお年玉袋と届いていた4枚ほどの年賀状と、母さんに渡してもらった使っていない今年の年賀状を持ってフィオナを連れて2階に上がった。


 部屋に戻って最初にお年玉袋を開けたら中から1万円札が出てきた。財布の中に入れておいた。ありがたや。


 次は年賀状だ。

 俺が貰った年賀状は、斉藤さんからの1枚と高校の鶴田、坂口、浜田の3人からのものだった。

 斉藤さんからの年賀状には『いつもありがとう。今年もよろしく』と、きれいな手書きのメッセージとかわいいイラストが描かれていた。

 鶴田たちの年賀状にはそれぞれ『謹賀新年』『賀正』『頌春』と毛筆で大書されていた。

 いずれの文字もはっきり言ってへたくそだった。

 それでも鶴田たち3人揃って俺に年賀状をくれたところが何となくうれしい。

 と、思う俺がいた。

 ということは、やっぱり年賀状は出した方がいいな。


 そうは思ったんだけど、何分慣れない年賀状。

 俺は月並みなことを書いて、今年の干支えとの簡単なイラストを描いておいた。

 イラストの出来はお世辞にもよくなかった。

 あの世界での10年も、この世界のダンジョンも、俺に絵心的貢献はしてくれなかったみたいだ。

 

 1時間ちょっとかかってなんとか出来上がった4枚の年賀状を持ってうちを出た俺は、近くの郵便ポストに入れておいた。


 これで、俺にとっての正月行事は終わった。

 明日からは元気にダンジョンに潜って、ダンジョンセンターが開いたらSランク冒険者だ!



 2日。

 俺にとっての仕事始めだ。

 7時にうちを出た俺はダンジョンセンターの近くに転移。

 門松が出入り口前に立っていたダンジョンセンターの売店に入ってみると商品もちゃんと揃っていたしけっこう人もいた。

 食料と飲み物を店のカゴに入れたSランク予定者の俺は地図売り場に行ってみたが、11階層以下の地図はやっぱり売ってなかった。

 11階層以下はどの階層も完全には調べられていないそうだし、Sランクの数名しか利用しない地図を置くわけないか。

 11階層くらいならまだしも、現在最深階層のマップなど攻略組しか持っていないだろうし。


 商品をレジで精算した俺は本棟に入った。

 本棟の方はいつもより心持ち冒険者の数は少ないかな? と、思った程度なので、正月2日でもそれなりの人がいるようだ。


 エスカレーターで2階に上がり武器預かり所で武器を払い出してもらった俺は、武器を装備してヘルメットを被りリュックを背負い直して1階の渦に向かった。



 外は曇りだったけれど、1階層の空は今日も晴れて青空だった。

 温度耐性のある俺にはあまり意味はないのだが、気温もおそらく適温なのだろう。

 確かにここに家があればエアコン要らずだ。


 いつものようにサンドイッチと調理パンを食べながら階段小屋まで歩いていき、そこから30分ほどで10階層に到着した。

 10階層で稼ぐのも免許センターが開くまでの今日を含めて3日間。

 頑張るぞ!


 ……


 3日間頑張った結果、

 累計買い取り額は11億5099万600円になっていた。



 そして今日は免許センターの開く日。

 武器はもちろん持っていないがダンジョンに潜るための装備を整えて免許センターの前に15分前から並んでやった。


 前回同様9時5分前にシャッターが上がり始め、9時ちょうどに玄関の自動扉が開いた。

 俺は昇格手続き窓口に駆け込んだ。


「お願いしまーす」

 今回は窓口の人に銀色のカードを差し出した。

「長谷川さんが年末10億達成したと通知がセンターに届いていました。

 おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 さすがにSランクともなると扱いが違うんだな。

 写真を撮ってすぐにカードができた。

「これで長谷川さんは99番目のSランク冒険者。

 最年少のSランク冒険者です」

 係の人がそう言って俺に金色の線の入った冒険者証とカードホルダー、金色のネックストラップを手渡してくれた。


「これからのご活躍も期待しています」

 窓口の人にもう一度礼を言って俺は本棟に戻って武器預かり所で武器を受け取った。

 その時、俺のゴールドカードを見た武器預かり所の係りの人にも頑張ってくれと言われてしまった。



 武器預かり所を出てエスカレーターを下って1階に下り、改札を通って渦を抜けた。

 いい天気だ。


 10階層から11階層につづく階段前には改札がないので、実際のところ命の保障はないがDランク冒険者なら11階層以降どの階層に行くことも可能だ。

 しかし、10階層で苦労すると自覚している者が敢えて11階層に挑むかというとそんな無謀な者はいない。

 10階層でモンスターが楽に狩れるようになれば自然と累計買い取り額が10億に達しているので、そのころには11階層以深への恐れもなくなっている。


 俺の場合はいつでもオーケーだったけどな。

 期待というわけではないが何となくウキウキして階段を駆け下りた。

 サイタマダンジョンをホームベースとするSランク冒険者は『はやて』の6人だけらしいので基本的にはワンフロア俺の貸し切りだ。

 魔術に頼ることは考えづらいが、魔術も使い放題になる。

 フフフ。

 

 10階層から階段を下りて11階層の空洞に出たときは10階層と比べ何がどう変化したのかすぐには分からなかったが、12階層への階段を探そうと坑道に入ってしばらく進んだところで、これまでの階層の時と同じように少しだけ坑道が広くなったことに気づいた。


 坑道が広ければ一度に相手取らなくてはならないモンスターの数が多くなるので少数での戦いは厳しくなる。

 出てくるモンスターも増えそうだし、ここらのモンスターならどうせ簡単に殲滅できるので俺にとってはありがたいことではある。


 ディテクター×2を発動したところ、アタリが複数あった。

 今日は12階層への階段を見つけることが目的なのだが、あてがあるわけではないので俺はアタリに向かって駆けて行った。



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