第96話 冬休み、おおみそか
氷川にクリスマスディナーをおごってもらった翌日。
俺の累計買い取り額は現在7億4975万3600円。
Sランクに成るための10億のハードルを越えるにはあと2億5024万6400円。
1日10階層に潜れば4千数百万手に入っているので、あと6日潜れば10億越えだ。
今年は今日を含めてあと6日残っている。
だがしかーし! ダンジョンセンターは年中無休だが、免許証の更新の手続きを扱っている免許センターはふざけたことに12月30日から正月5日まで休みだ。
そんなことだと冒険者のモチベがダダ下がってしまうぞ!
関係者出てこい!
そういうことなので、どうあがいても今年中の昇格は無理だ。
それでも冬休み中には確実にSランクに上がれる。
そうなるとダンジョン管理庁のホームページの統計欄に載るのは2月になるが、16歳Dランク冒険者がゼロになって16歳Sランク冒険者数が1になるわけだから丸わかりだ。
吉田先生も驚くだろうなー。
モチベがダダ下がりというのは口先だけで、年末に向かって気合を入れて10階層で暴れ回ってやった。
そして、大みそかの今日。
累計買い取り額10億2135万4600円。ついに10億の大台を超えてしまった。
とうとう俺はビリオネアになったのだが、そっちじゃないんだよ。
返す返すもお休み中の免許センターが恨めしい。
ダンジョンセンターからの帰り、センター本棟の出入り口前には門松が立っていた。
さすが日本だ。
3日前に斉藤さんから初詣の集合場所と時間の連絡があった。
時間は午後10時、集合場所は大宮駅北側東口の改札を出たところ。
お詣り先は
ダンジョンセンターから帰った俺は夕食を食べてから風呂に入り、自室で時間調整した。
父さん母さんが居間でテレビを見ている中、家を出たのは午後9時半。
大宮駅なら転移で移動できたが人も多そうだったので、最寄り駅から電車に乗った。
大宮駅に電車が到着したのが9時50分。北側東口の改札を出たのが10時5分前だった。
意外とギリギリ。
俺の場合、電車やバスに乗っていたりすると、自分では到着時間をどうしようもないからすごく焦るんだよな。
改札を出たところで斉藤さんたち3人が俺を先に見つけてくれて手を振ってくれたのですぐに見つかった。
3人ともモコモコと言っていいのか、すごく暖かそうなコートを着ていた。
吐く息も白いし、かなり冷え込んでもいるのだろう。
俺は暑さ寒さ耐性があるのでエリ付きの長袖シャツの上に厚手のセーターを着ただけだった。
ちょっと場違いな気もしないではない。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
「思った以上に混んでるね」
「そうだね」
「はぐれないように手をつないでいこうよ」
「誰が長谷川くんと手をつなぐ?」
「わたし」
「わたしも」
「わたしが余っちゃうじゃない」
「長谷川くんの手は2本しかないんだから仕方ないじゃない。
斉藤はいつも長谷川くんとメールしてるんだから少しぐらい我慢しなさい」
「メールなんかそんなにしてないよ」
「嘘でしょ」
「ごまかされないから」
「いやいや、ぜんぜん嘘じゃないから。
業務連絡だけだから。
長谷川くん、そうだよね!」
「うん、そう。
今回貰ったメールも、時間と場所だけだった」
「なーんだ。
じゃあしかたない。3人でジャンケンで決めようよ」
「わかった」
「「最初はグー。
ジャンケン、ポン!」」
「勝ったー」
「やったー」
「……」
こうして俺は日高さんと中川さんと手をつなぎ斉藤さんは日高さんと手を繋いで4人横並びになり大勢の初もうでの人たちに混ざって
俺は手袋をしていなかったけど、日高さんも中川さんも手袋をしたままだった。
当然だよな。
手袋の上からでも女の子の手って柔らかいんだなーと思ったんだけど、男の手が硬いかどうかはさすがに確かめたことはないので、手が柔らかいのが女子の特徴なのかどうかは分からない。
しかし、俺の手は硬いと思う。
世間さまではうれし恥ずかし状態なのだろうがあいにく26年間生きてきている俺はそういった感慨が全然湧かなかった。
これはこれで問題かも?
などと考えながら歩いていたのだが、横並びでしかも手をつなぐのは10メートルも歩かないうちに通行の邪魔だと気付き、ふたりずつ並んで歩き始めた。
結局手を繋いで4人で横並びになるのは、参道に入ってからということになった。
だんだん人で通りが混んできて、参道の入り口の鳥居にたどり着いたときにはかなりの人出になっていた。
そこで再度4人で手を繋ぎ横幅を取らないようかなりくっ付いて牛のごとくゆっくり境内を目指した。
参道の両側には露店がならんでいたので帰りに何か買おうということになった。
そうやって本殿のある境内にたどり着いたのが11時50分。
そこから20分かけて何とか最前列に立ちお詣りができた。
俺のお賽銭は日ごろの感謝を込めて千円としておいた。
いまやビリオネアとなった俺からするとちょっとセコイかもしれないが、高校生が賽銭箱に千円を投げ込むことだって相当目立つ行為だし、そもそもお賽銭は気持ちの問題、気の持ちようなのだ。
俺が神さまに感謝しているという気持ちが大事。
ということなので、俺は神さまにありがとうございました。と、お礼しただけで一切のお願いはしなかった。
斉藤さんたち3人もお詣りが終わったようなので横にずれ、おみくじを買おうということになり社務所の方に行ってみることになった。
社務所の前はそれほど混んではいなかったのですぐに最前列になった。
文字通り受付のようになった社務所の中では赤い袴の巫女さんが数人いて対応してくれるようだ。
「あれ! 斉藤に日高に中川じゃない」
「あっ! 佐久間、ここでバイトしてたんだ」
「巫女のバイトっていいお金になるんだよ。
それで、3人ともおみくじ?」
「「そう」」
「おみくじ箱から1本棒を引っこ抜いてくれる?」
斉藤さんが最初におみくじ箱を振って中から出てきた棒を引っこ抜いた。
「17番」
佐久間さんという巫女さんがおみくじ箱に棒を戻して後ろの棚から17番のおみくじを取って斉藤さんに渡した。
手渡されたおみくじを見て斉藤さんは安心したような顔をした。
少なくとも悪くはなかったのだろう。
その次は日高さん。
「23番」
23番のおみくじが手渡された。
そして中川さん。
「41番」
俺はそういったもので一喜一憂するのは嫌なのでくじは引かなかった。
「長谷川くん、くじ引かないんだ」
「残念だなー」
「引いてほしかった」
「あなたたち、そこの男子と知り合いというか、一緒にお詣りに来たの!?」
「そうよ。
佐久間がバイトであくせくしているあいだ、わたしたちは男子とこうやって二年参り」
「あなたたち3人揃って成績良いうえにカッコいい男子と!!!
キー、くやしー!
って冗談よ。3人とも頑張って」
「うん。佐久間、それじゃあねー」
「佐久間、じゃあねー」
「ばいばい、佐久間」
斉藤さんたちの通う
少なくとも斉藤さんたち3人と佐久間さんという女子は仲がいいようだ。
「おみくじって、どこかの木の枝に結ぶんじゃなかったっけ?」
「いいおみくじは持って帰って、悪いおみくじだと木の枝に結ぶことで悪いことが起こらないようになるんじゃなかった?」
「わたしは吉だったから持って帰る」
「わたしも」
「わたしもだ」
「3人とも吉だったんだ」
帰りも4人で並んで人の流れのままに参道を下っていった。
帰りの俺は中川さんと斉藤さんに挟まれ、日高さんは中川さんと手をつないだ。
途中、屋台で売っていた焼きそばを買ったりしてた関係で、参道出口の鳥居にたどり着いたのは午前2時を回っていた。
そこからまた駅の方に向かって人の流れのままに進んだけれど、そこでは手を放して歩いた。
「これからどうする?」
「そうねー。
カラオケでも行ってみる?」
「混んでるんじゃないかなー」
「電話かけてみようか?」
「そうだね」
俺は何も言っていないが、カラオケが空いていたらカラオケに行くことになったようだ。
斉藤さんがスマホで調べて電話したところ、
「ダメだった。全然空いてないって」
「じゃあどうする?」
「さっきの焼きそばだけだと何だか足りなかったし、このまま解散するのももったいないからファミレスで何かつまんで、解散しようか?」
「じゃあそうしよ。
長谷川くんもいいよね」
いちおう聞いてくれるんだ。
「もちろん」
「斉藤、場所分る?」
「今調べてみる。……。
近くにあるみたい。
まずそこに行ってみよ」
ということで、スマホを片手に持った斉藤さんに先導されて、俺たちはファミレスに到着した。
ファミレスは混んでるかと思ったけれど、4人席ちょうど空いてすんなり座れた。
ファミレスに寄ってそこで飲み放題のコーヒーを飲みながら軽食をつまんで、5時ごろ大宮駅発の電車に乗って俺たちの最寄り駅に着き、そこから順次解散していった。
次回の秋ヶ瀬ウォリアーズとのダンジョン行きは2月の最終日曜日となった。
[あとがき]
完結作宣伝。カクヨムコン用に書いたんですが全然流行らなかった異世界ファンタジー
『影の御子』(全49話、10万9千字)https://kakuyomu.jp/works/16817139555800622747 よろしくお願いします。
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