第83話 Dランク冒険者10、寿司屋にて
[まえがき]
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ハンターズの面々のモンスターとの戦いの様子を見物してたら、自分たちにも俺の戦いの様子を見せろと言われた。
彼らの戦いを黙って見物していた手前さすがに断れなかったので、イノシシ退治を見せてやったところ「人間なのか?」と言われてしまった。
誉め言葉だと取っておこう。
なんであれ、ハンターズの連中はいい意味でそれなりの冒険者チーム、俺が動画などで見たSランクチームに比べても遜色のないチームだった。
それほど遠くない将来Sランクに上がっていくのだろう。
彼らと別れたあと、徘徊モードでうろついたのだがなかなかディテクターでアタリがなかった。
あいつら、実は貧乏神だったか?
坑道の脇に半分溶けたようになってダンジョンに吸い込まれかけたモンスターの死骸が転がっていたので、連中が通ったあとを俺が進んでいる可能性もある。
きっとそうなのだろう。
10階層は俺の縄張りなんだぞ! と、言いたいところだ。
そのうち彼らの移動範囲を抜けたようで、それなりのアタリが出始め午前中で96個の核を手に入れた。
まあまあかな。
昼食を食べたあと、後半戦に突入。
今日も4時半まで頑張るぞ。
……。
結局後半戦で123個+クマの核1個を手に入れた。1日の合計は219個+クマ1個。
こう見るとクマって大当たりなんだろうか?
それにしては大したことないんだが。
波になってやってきてもらいたいものだ。
そろそろ、ビッグウェーブが来てもいいんじゃないか?
5時過ぎに買い取り所の個室に入り、トレイにレジ袋から核を空け、最後にクマの核を1つ置いた。
今日の買い取り総額は2187万2千円となった。
連日2千万円越え。
累計買い取り額は1億7759万6700円+2187万2千円=1億9946万8700円となった。
われながらご苦労さまです。
武器を預かり所に戻した俺は、センターから歩いて外に出ていく間に今日の夕食はどこにしようかと考えた。
昨日のファミレスではなく、他の場所にしよう。
それで結局俺が選んだのは寿司のチェーン店。
店に入ったところでざっと見渡した感じダンジョンセンターの近くの店だけあって、ここも冒険者風の客で混んでいた。
その店は回る寿司屋さんではなく、カウンターでその場で握ってももらえるけれども、席についてオーダーシートにマークすると席まで運んでくれるようだ。
幸いカウンター席にも椅子席にも空きはあった。
「おひとりさまですね。
カウンター席でも椅子席でも空いているお席にどうぞ」
入り口で店の人にそう言われた小心者の俺は2人席の椅子席を選んだ。
どう見ても俺は未成年なので、飲み物を聞かれることもなくすぐに寿司屋の湯呑で緑茶が出された。
テーブルに置いてあったオーダーシートに印刷された食べたいネタの欄にチェックを入れていく。
俺の場合、何か特別に食べたいというネタがない代わりに何を食べてもおいしいので、まずは上から順に10種類1つずつチェックを入れていった。
しばらく待っていたらまな板みたいな四角い板の上に載って握りずしがぎっしりと10種類、2個ずつ出てきた。
いただきます。
小皿に醤油を垂らし、右上方順に食べていった。
ひとりで食べてもおいしいものはおいしい。
パクパク、モグモグ。
ゴックン。
俺が店に入ってそんなに経ってはいなかったが、急に店の中が混んできた。
店の人が客をひとり連れて「ご合席お願いします」と言ってきた。
もちろん断れないのでうなずいた。
俺の向かいに一礼して座ったのは普段着を着た20歳くらいの女性だったが、大きなスポーツバッグを持っていたので、きっと冒険者だ。
俺の目の前のその女性冒険者が、オーダーシートにマークし終わって店員を呼んだ。
チラ見だけど、俺と同じように上から順にチェックしていた。
この女性冒険者できる!
俺が10種類、20個の握りを食べ終えたところで向かいの女性冒険者にまな板の握り寿司が届けられた。
見た感じ板の上の握り寿司はぎっしりだったので俺の頼んだ数とほぼ同じだ。
見とれていても仕方ないので俺は最初に注文した10種類の次から10種類注文して、お茶のお代わり頼んだ。
向かいの女性冒険者も俺のようにパクパク握り寿司を食べている。
女性冒険者は見た目はやせ型で決して大食いには見えないのだが、俺よりペースが速くないか?
飲み物は俺と同じ寿司屋の緑茶だ。
緑茶をすすりながらすごいペースで握りずしを食べている。
俺の前に寿司がないことを見て取ったのか、向かいの女冒険者が食べる手を止めて俺に話しかけてきた。
「ところできみ、冒険者だよね」
いきなりだったので驚いたが、無視もできないので、
「はい」
と、答えておいた。
「高校生?」
「はい」
「いいなー、高校生。
わたし大学に入ってから冒険者になったんだけど、わたしの時代、高校生じゃ冒険者になれなかったんだよね」
知らんがな。
「きみはいつから冒険者やってるの?
4月から?」
「7月夏休みになってから」
「そうなんだ。
わたしもう2年も冒険者やってるから、大抵のこと教えて上げられるよ」
これって、どう返せばいいんだろ?
ためになることがあったら是非教えてくださいと返せばいいのだろうか?
俺が黙っていたら、女性冒険者は話を続けた。
「遠慮しなくていいんだよー」
俺が照れていると思ってるようだ。
何を答えていいのか分からない現状、傍から見れば照れているのと同じかも?
ちょうどそこで俺の注文した握りずしがやってきたので俺もパクパク、モグモグ、ゴックン。を再開した。
女性冒険者も握りずしを食べるのを再開してくれた。
俺が途中でお茶を飲んだところで、また彼女の話が始まった。
「そう言えばきみ知ってる?」
もちろん知らんがな。
「16歳でDランクの冒険者がいるんだって。
Dランクに成るってダンジョンで1億円だよー。
もう笑っちゃうわよね。
だって、いくら早く冒険者に成ったっていっても今年の4月だよ。
まだ半年も経ってないんだよ。
わたしなんか2年間冒険者やってて、この調子だと30までにBランクなんて到底無理なのに。もう愕然だよ」
気持ちはある程度わかるけど。
「きみのその肩の上のフィギュア、精巧だねー。どこで手に入れたの?
まさか、ダンジョンの中だったりしてー。
そんなことあるわけないか」
そこで本人がお茶を一口飲んで握り寿司をつまんだ。
「……、うぐっ。
あっ! そうそう。
そのDランク冒険者っていうのが実はこのサイタマダンジョンがホームなんだって。
それで、きみみたいに肩にフィギュアつけてるんだって。
きみはそのDランク冒険者にあこがれてるんだな。
夢は大切だよね」
俺が黙っているせいか女冒険者は話すのをやめて握り寿司を食べ始めた。
板の上の握りを全部食べ終わったところで、オーダーシートにチェックを入れ始めた。
今回も俺と一緒だ。
途中から順にチェックを入れてる。
「今日わたし、絶好調で核を7つも手に入れたんだ。
それでお寿司を腹いっぱい食べるの」
7つということは3万円くらいか。
大学生のアルバイトとしてもそこそこの金額なのかもしれない。
「きみは今日どうだった?」
具体的に答えちゃいけないよな。
「そこそこでした」
「そっか。
よかったじゃない」
そこで彼女の握り寿司がやって来た。
彼女は話すのをやめて、食べ始めた。
俺の方はだいぶ減ってきている。
もう腹いっぱいだけど、全部食べないと。
モグモグ、ゴックン。
まな板の上に載った最後のひとつを食べ終えた。
全部で40個。
ガリを一口。
さすがにおなかも含めいろんな意味でパンパンになってしまった。
最後にお茶を一口飲んで席を立ち、向かいに座る女冒険者に軽く会釈して出入り口の会計に向かった。
女性冒険者から俺に向かって「少年頑張れよ」という声が飛んだ。
会計でえりもとから銀色のネックストラップを引っ張って銀色のラインの入った冒険者証の入ったカードホルダーをカードリーダーの上にかざしたら店の人がすごく驚いていた。
ですよねー。
かの女冒険者さんはそのことに気付かなかったようなので、それはそれで良かった。
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