第82話 Dランク冒険者9、ハンターズ2
変なことを考えていたせいか、妙な夢を見た。
防刃ジャケットの上から『サイタマの星』と書かれたマントを羽織って満月に向かっているという。なんとも救われないような、救われるような微妙な夢だった。
https://kakuyomu.jp/users/wahaha7/news/16818023213292889569
そのおかげかそのせいか、夜中、ぶるっと身震いしてトイレに行くことになってしまった。
父さん母さんが旅行に行ってひとりの生活2日目。
目が覚めて朝の支度をしていたら旅行先の母さんから電話がかかってきた。
昨日1日で2千万円儲けたことは変わったことかもしれないけど、何も変わったことはないと答えておいた。
その後準備を整えた俺は戸締りをしっかり確認して7時にうちを出た。
時間差なしでダンジョンセンターの近くに現れた俺は、ダンジョンセンターの売店にまっすぐ向かった。
朝食用にサンドイッチと調理パン、昼食用におむすびと緑茶のペットボトルを買い込んだ俺は武器の預かり所で武器を受け取り、装備を整えてダンジョンの渦を越えた。
そしたら前の方をクローラーキャリアが2台並んで進んでいた。
2台のクローラーキャリアの上に操縦者がひとりずつ乗っていて、後ろに4人の冒険者が続いていた。
だれもリュックは背負っていなかったから、クローラーキャリアに他の荷物と一緒に積んでいるのだろう。
彼らの数人の首元から金色のネックストライプがのぞいているのが見えた。
サイタマダンジョンをホームベースとするSランクチームは『はやて』だけだったはずなので『はやて』の6人だ。
彼らは現在最前線の22階層まで行くのだろうが真面目に22階層まで下りていくとなるとかなり時間がかかるはずだ。
その分荷物も大掛かりになるのだろう。
彼らを走って追い越した俺は1階層から2階層までの階段を駆け下り、人目のないところで転移して、最終的に8時少し前に10階層に到着した。
10階層に到着した時には朝食のサンドイッチと調理パンは食べ終えていたのですぐにサーチアンドデストロイを始められる。
ディテクター!
ヒット。
俺はアタリに向かって駆けだした。
最初の獲物は大蜘蛛だった。
大蜘蛛は見た目はそれなりだがかなり脆い。
俺は2本のメイスを左右の手に持って突っ込んでいき、大蜘蛛にメイスを叩きつけて頭部を破壊していった。
3秒ほどで10匹の大蜘蛛をたおし、タマちゃんが処理して10個の核が手に入った。
その後、短い間隔でモンスターのアタリがあり、あっという間に核の数が58個になった。
ウッシッシ。
自然と笑みがこぼれる。
正直に言えばニタニタ笑いだけど。
ディテクター!
ヒット。
こんどは、めずらしく冒険者のようだ。
この時間に10階層にいるということは泊りがけの可能性が高い。
移動していないので、休憩中かモンスターと戦っているか?
どっちか分からないが、もし戦っていて大苦戦中ならまた感謝状が貰えるかもしれないので、助けてやろう。
俺はそう思ってアタリに向かって駆けだした。
角を曲がったところで前方にキャップランプの明かりが見えた。
人数は4人。
モンスターと戦っている。
俺はキャップランプの明かりを調節して、彼らに近寄っていった。
そうしたらなんと戦っていたのは、あのハンターズのあきもとはること彼女のチームメンバー3人だった。
相手のモンスターは今度もオオカミ。
俺が先日助けた連中と違い、ハンターズの4人は危なげなくオオカミと戦っていた。
具体的には、あきもとはるこが攻撃オンリーで、その周囲を3人で固め、あきもとはるこに決してオオカミが攻撃できないようにしている。
そして、あきもとはるこ自身は、着実に1匹のオオカミにダメージを与え、確実に仕留めたあと次のオオカミに対峙していた。
俺が見物を始めて3分ほどでオオカミは全てたおされた。
坑道に転がったオオカミの数は10匹。
おそらく5分ほどの戦いだったのだろう。
単純計算だが30秒でオオカミを1匹仕留めた勘定になる。
ハンターズの面々は口先だけの冒険者ではなかったようだ。
オオカミからの核を抜き取り作業を3人に任せたあきもとはるこが俺の方にやってきた。
「16歳のCランク冒険者がいなくなって16歳のDランク冒険者が1人誕生したから、やっぱりあんただったのか」
「まあな」
「それで、10階層をソロで回っている?」
「ああ」
「普通なら命いらず印の狂人だが、あんたならそうでもないんだろうな。
それであんたから見ておれたちの戦いはどうだった?」
「それなりなんじゃないか?
俺が直接この目で見た冒険者チームの中ではトップと言っていい」
「なかなか良く見てるじゃないか。
核の抜き取りが終わったらおれたちと一緒にまわってあんたの戦い方をおれたちに見せてくれないか?」
勝手に見物してたわけだから、嫌とは言えないか。
「分かった。すぐにモンスターを見つけるから俺についてきてくれ」
「楽しみにしてるぜ」
核の抜き取りはすぐに終わった。
彼らもモンスターの死骸は放置するようで、オオカミの死骸は坑道の脇にふたりがかりで放り投げられた。
俺が先導する形で4人を連れてディテクターを発動させながら坑道を進んだ。
ハンターズの4人は俺がすぐにモンスターを見つけるといった言葉について何か言うかと思ったが特に何もなく黙って俺の後をついてきた。
運よく10分ほど歩いていたらディテクターがターゲットを捉えた。
「こっちだ」
俺は坑道の分岐で枝道に入っていった。
枝道に入ってすぐ前方からモンスターの気配が伝わってきた。
鼻息や足音がわずかに聞こえているのでおそらくイノシシだ。
しばらく進んだところでハンターズの面々も気配に気づいたようだ。
大剣クロを背中の鞘から引き抜いた俺は気配に向かって走り出した。
ハンターズの4人も俺につられて走り出した。
坑道の曲がりを抜けた先、50メートルほどにイノシシの一群がいた。
俺たちに気づいたイノシシはまとまってこっちに向かって走り出した。
後ろにハンターズの面々を従えている関係で、後ろに逃してしまうと面倒だ。
いつもの俺なら突っ込んでいってすれ違いざま殲滅するのだが、正確を期して立ち止まってイノシシの一群を迎え討つことにした。
イノシシは坑道の真ん中に立つ俺に狙いを定めて突っ込んできた。
俺はイノシシをかわすことなくクロを横薙ぎにしてイノシシの目の位置に水平に切れ込みを入れていく。
イノシシはもちろん即死するが、勢いがあるので俺の下半身にそのままぶつかってくる。
確かに衝撃ではあるが、たかがイノシシ程度の衝撃で俺がどうなるわけでもなく、そいつらは無視して後から突っ込んでくるイノシシをクロでなぎ払っていった。
結局イノシシの数は8匹。最初にクロを振って3秒ほどで片が付いた。
後ろを振り返ってたら、今の俺の動きを見ていたはずのハンターズの面々は言葉もなく突っ立ってた。
なんかコメントないのかよ
ないならないで、いいけど。
俺は面倒だったけれど腰のナイフを抜いて核の回収作業に取り掛かった。
そしたら、ハンターズの4人がやってきて核の回収作業を始め、抜き取った核を俺に渡してくれた。
俺は「ありがとう」と、言って受け取った。
こいつら案外いいヤツらじゃないか。
受け取った核はリュックに入れてタマちゃんにきれいにしてもらったあとリュックの中のレジ袋に入れた。
核を抜き取ったイノシシの死骸は足を掴んで坑道脇に放り投げてやった。
作業が終わった俺は、リュックにナイフを持った手を突っ込んで、ナイフと手袋をタマちゃんにきれいにした貰った。
ハンターズの面々はウェットティッシュでナイフと手袋を拭いていた。
「あんた、ほんとに人間なのかい?」
あきもとはるこの第一声だった。
失礼な。
それには、答えず、
「そう言うことだから、俺は行くから」
そう言って、俺はそこから離れていった。
そう言えばあきもとはるこってどういう漢字なんだろ?
明日は氷川と潜る約束だ。
氷川があきもとはるこのことを知ってるかもしれないから覚えていたら聞いてみよう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おれはハンターズの
10階層でオオカミを相手取っていたら、少し離れたところで俺たちの戦いを見ている冒険者がいた。
10階層ではほかのチームに出会うことはまずないのだが、珍しい。ただ俺たちの戦いを見ているのはキャップランプの光の数からしてたったひとり。
可能性があるのはあのフィギュア男だけだ。
その冒険者は10階層をソロでうろついていることになる。さすがの俺でもソロで潜れるのは5階層までだろう。
そういった行為は、はっきり言って自殺行為だ。
俺たちが戦い終わったところでその冒険者が近づいてきた。
見れば肩にかわいい妖精のフィギュアを乗せている。思った通りフィギュア男だった。
ダメもとでフィギュア男に戦いを見せてくれと言ってみたところあっさり了承した。
フィギュア男はすぐにモンスターを見つけるからついて来いというので黙ってついていったらホントにモンスター、イノシシの一群がいた。
フィギュア男の体重はそれほどでもないのでイノシシの突進をまともに受ければ容易に吹き飛ばされかなりのダメージを受ける。
しかし、あのフィギュア男がダメージを受けるイメージが湧かない。
どうやってフィギュア男がイノシシを料理するのか楽しみにしてフィギュア男の後についていったら、フィギュア男が坑道の真ん中で立ち止まった。
そのフィギュア男に向かってイノシシたちが突っ込んで行く。
イノシシに向かってフィギュア男が文字通り目にもとまらぬ速さで大剣を振ったように見えた。
しかし勢いの付いた何匹かのイノシシはそのままフィギュア男にぶつかった。
確かにぶつかったのだが、フィギュア男はびくともしない代わりに気づけばイノシシは全滅していた。
おれはダンジョン王に成るつもりでここまでやってきたが、フィギュア男を越えることはまず無理だと悟ってしまった。
ダンジョン王は無理としても俺は、いや俺たちは一歩一歩進んでいく。
今日はいい勉強になった。
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